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落 陽  作者: nonono
第二部 秋
32/78

32 寄りかかる場所

近くの広場では子供たちが元気に駆け回っていた。

ジーンには会わずに帰った。

会ったところでどうしようもない。

あれ以上居れば…言ってしまう。

「私だって女の子の赤ちゃんがほしい、自分の家族がほしい。あなたたちだけ自分の家族を作るなんて卑怯だわ」

あともう少しで言いそうになった。

自分の指にある、ジーンから贈られた指輪を見つめる。

結局、彼がジーンではなくフィルのままでいることを許した以上、この指輪を外すことはできない。

恋を失って、いづれ時が解決して傷が癒された気になっても、新しい人生はこない。

あの子供達が立派に成長するためにも、ジーンという男は戦死のままであってもらわなければならないのだから。

自分だけ犠牲になる、そんな善人になるつもりはない。

聖人君子になるつもりもない。

だけど他にどうすればいいというのだろう。

あの子供たちから父親を取り上げるのか?あの体の弱った女性の支えを奪うというのか?


帰りたくない。

あの父の元へなど。

誰もが自分に無関心なあの町。

町や父の事を思い出すと無性に疲れてきた。

本当に修道院に入ってしまった方が楽だろう。

だが修道院というのは入るのにも金がいるのだ。

だから修道女は育ちのいい貴族や元王族が多い。

神の御許に近づき、心の安寧を得るのも金が必要。

父がその金を出してくれるとは思えない。


寄りかかる場所がない。




パンパン、と自分の頬を叩く。

うじうじしていてもどうしようもない。

今父が傍に居ないだけ以前より何十倍もマシだ。

それに。

ジーンはあの町を離れて新しい人生を掴んでいる。

ならば自分もあの町から離れたっていいではないか。

駅周辺にいた様々な人たち、活気ある光景。自分もあの中に入っていいのだ。

小さい頃からのすり込みなのか、逃げ場がないと思いこんでいた。

少し胸がどきどきしてきた。今、あの町から逃げきれているんだ。

(そうだ、この王都に私も住もう。あの町には帰らないで。仕事だってきっといろいろ…)

それも一人でやっていかねばならないだろう。

この指輪があるかぎり結婚せず…

お金が貯まれば修道院に入ればいい。そういう選択肢もできる。


雨が降ってきた。

子供たちが家の中へかけていく。みんな帰るところがある。

いや、自分も作ればいい。

一人だろうが帰る場所はいくらでも作ることができる。

誰もいなくなった広場を眺め、それから歩き出した。


(どこへ行こう、どこへでも行けるんだから)









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