25 襲
ふこふこする。気持ちいい感触。
だけど胸が苦しい。うつぶせだからか。
それに、なにかスースーする。どこが?背中が?
どうして?
「あーもう、なんだこれ。アバラでも骨折したのかよ。どうやってとるんだ?」
イアンの声。
頭が急速に覚醒してセシリアは起きあがった。が、背中が押されて再び横にされた。
「なにしてるんですか!なんですかこれ!」
状況が確認できていく程に恐怖が沸き立っていく。
まだ陽は高い。あの状況で意識が飛ぶほど眠りこけるなんてありえない。
「せんせー、背中凄いね。どうしたの、なんのプレイ?」
「触らないでください!さっきのお茶に何か入れましたね!?」
「うんよく眠れる粉をちょっと」
あっけらかんとした声がかぶさる。
だが彼の指はじれているのが伝わった。コルセットをとるのに手間取っているのだ。
そこらのとは違う、色気はなくて厚みがある拘束具のような代物を授けてくれた父にくやしいが感謝した。
片手がそれにかまけている今こそ、とセシリアは暴れまくる。
肩は押さえ込まれているが、足で力任せに蹴りをくらわす。
「あいだだだだ!暴れないでよー俺だって大変なんだからさー」
「何が…!」
「俺さーダービーやりすぎちゃってさーぴーぴーなんだよねー父さんに知れたら大変だよー。したらライベッカ伯が小遣いくれるって言ってきてさー。かわりにせんせー送るからこうしろって言われてさあ」
あっけにとられた。
イアンにも、ライベッカにも。
やはり全部仕組まれていたのか。
「せんせーユーリスに手え出したんだって?ライベッカ伯、せんせーをちょっと懲らしめたいみたいだよ。いじめてやれって頼まれまして。でも俺も鬼じゃないから酷いことしたくないわけ。婚約者いますよーとかそういうハッタリきかせて心理攻撃。でもせんせーあまり堪えてないみたいだしあとはこれかな、と思って」
「これ…!?」
「俺ユーリスに好かれてないだろ?だから俺もさーあいつ嫌いなんだよねー」
この男、心は幼少期か。
「んであいつの鉄仮面一度剥がしてやろ思って。ここに呼んでるんだー。時期くるよー」
「!」
「まあ、しょうがないよねー頼まれたんだしさー。だからフリだけでもさ。ね?」
暴れていた体が硬直した。
これを見られるのか。
服を半ば剥がされ、肩をさらけ出し、髪はほどけ、同じベッドに男と二人…
更に抵抗しようと力任せに体をひねった。
そこでようやくイアンが目に入ってセシリアは叫んだ。
「なんであなた服着てないんですか!着て下さい!」
頭がパニックになったのだろう、言っても詮無きことが出てくる。
イアンはすこしうつろな目になった。
「あのね、これそういうシチュエーションだからね?」
「そんな青びょうたんの体じゃ風邪をひきますよ!着て下さい!着るべきです!」
ふいに背中を押さえていた力がゆるみ、あばれていたセシリアのこぶしがイアンのあごに当たった。
痛みに震え怒りだすかと思われた男はあごを押さえながら陰鬱にうつむいた。
「……どうせユーリスと違って万年補欠ですよ……」
とたんにイアンが灰色になり目から生気が消え今にも死に絶えそうな顔になった。
今のうちに逃げようとしたが足元に腰掛けられて動けない。
「俺だってさー、がんばったのにさー、日焼けしないどころか赤くなって水ぶくれだらけになるしさー、大きくなりたくて牛乳飲むけどハラが当たりやすくてかえってやせ細るしさー、なのにレイだのユーリスのやつらはがばがば大きくなりやがってさー、ほんと嫌いだあいつら…」
いくらなんでも言ってはならない事を言ってしまったようだ。
明るそうに見える彼にも心に傷はあるのだ。
そんなことよりせめて服を探したいが、動きを読まれればまた拘束されそうなのでイアンの意識を反らせておこうと決める。
「…あの、青びょうたんなんかじゃないですよ、そう、ゆうがおですよ、巨大なゆうがお!」
「……あれもっと青白いよね……」
「あ、じゃあスイカです!色も立派で大きい!」
「……ウリ科から離れてくれる?」
カツン。
靴音がしてセシリアははっとした。
そしてすぐに目が合った。
寝室の入り口にいるユーリスと。




