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落 陽  作者: nonono
第二部 秋
22/78

22 ライベッカ家

 出迎えた使用人たちの数の多さに驚く。

 町にいたときに会ったことのある執事のグラントが出迎え、ルーシー・アンにまず礼をとりそれからセシリアを見る。

 執事は丁重に挨拶をし、案内をした。

 そこからゲイルの姿がいつの間にかなくなり、心ぼそさを覚えた。

 冷ややかなのかそれとも教育のせいなのか分からない、女中たちの機械的な態度、あちらこちらにきらびやかな装飾がされた内装、どれも圧迫感が押し寄せ、確かに目が廻りそうになる。

(私は挨拶して帰るだけじゃない)

 ルーシー・アンはこの場所でずっとやっていかなければならないのか。

 彼女の様子をうかがう。

セシリアに微笑み返すが、そのぎこちなさが痛ましい。

「セシリア様はこちらの部屋へ。ご用意が出来ました頃にお伺いします」

 グラントにそう言われ、なんの?と尋ねたかったがそのまま彼はルーシー・アンと去っていき聞ける雰囲気がない。

わざと説明なしなのか?


 部屋に入れば女中が3人いる。

「お待ちしていました。こちらへ」

 そう言われるが、よく分からないうちに服を換えさせられるのだとわかった。

 目の前には数多くのドレス。

それも夜用のドレスな為、襟ぐりが大きくあき、背中が丸見えのものまである。

「こ、困ります!私このままでけっこうです!」

「ですが、晩餐の為の礼儀というものがございます。そのままですとご主人様に失礼にあたるかと」

 機械仕掛けの人形のように答える女中に不気味さを覚えながらも心の中では伯爵に憤りを感じた。

(たかだか家庭教師がこんなことするなんて聞いたことないわ…)

「わ、私背中に傷があるのです。それを見せる方が失礼になってしまいます…」

「そういった為のドレスもございます」

 そう言ってみせられたものは基本の形は同じだが襟ぐりに黒いレースが入り、胸元深く切り込みがある全体に細かな宝石がちりばめられた妖艶な…

「女淫魔じゃないのこんなの!」

 失礼を忘れて断固と断った。

「これが常識でございます」

 冷たい女中の声。

 みんなこんなドレスばかり…

 どれもこれも肩から胸元の布が少ない。

貴族は日に3度ほど服を換えるとは聞いていた。

夜用の衣装があるとも知識では知っていたが、もちろん目にしたことなどない。

これが当たり前なの?

こんな世界、怖い…

 牧師の娘としては手首、首もとすらさらしてはいけないと育ったのに…


「失礼かとは思いますが私は一介の牧師の娘。夫を亡くした『神の花嫁』の身でもある上、肌をさらけ出すのは私の道徳心に反するものです。どうかお許しを」

 長いテーブルの向こうのにいる人々の沈黙が重い。

結局セシリアは何も着替えずに、晩餐の席に出た。 

蔓葡萄が細かに彫刻された美しい燭台がテーブルを明るく飾り立てている。

そこにはざっと数えただけでも10人ほどがいる。

眉をひそめる者、いちべつして興味を失う者、ひそひそと嘲る者。

気にする必要はない。

この世界の人間ではないのだし、礼儀に反した恥知らずだろうが構わない。

第一。

男性は皆仕立てのいい燕尾服、女性は美しい煌めいた布地のドレス。

やはり肩が露出してはあるが、先程見たドレスほどきわどくはない。

やはりあんなドレスばかり用意されていたのは…


燭台のむこうから低い笑い声がおきる。

一番の上座にいる主の声だと気づいた。

 その人物が言った。

「それは、入らぬ気遣いを使わせた。ユイロッサ先生。此度は貴方の労をねぎらうためだというのに、逆に気苦労を負わせたようだな。だがその修道服もよく似合っている」

「お父様…!!」

 ルーシー・アンが青ざめて言う。

 修道服など着てはいないがそうとってくれても一向に構わない。

こちらの心意気が伝わったというものだ。

 ルーシー・アンが気にかけないよう、満面の笑みを彼女に送る。

 いつも以上に美しく飾られたルーシー・アンだが、表情が思わしくなく、もったいないと感じる。


 なにはともあれ晩餐が始まった。

席にいる者のほとんどはライベッカ家の者ではなく、どこぞの貴族の食客、親類であった。

ざっと紹介されたが、当の本人達が顔を向けて挨拶することはなかった。

 一言も口を聞かない長男のサイラスはまったくルーシー・アンやユーリスに似ていない。さっきの紹介で「今年25になるが、相変わらず無愛想で」云々言っていた。

 つまり誰にでもそうで、ルーシー・アンやユーリスに特別、というわけじゃないならいいが…

 確かに冷たそうな親子だ。

 猛禽類のような険しい目つきにわずかに見える頬骨、彫りの深い目鼻はよく似ている親子だと感じる。

 その二人が醸し出す空気に、緊張が途切れることはなかった。

 ただ伯爵が様々な事を質問してくるのでそれにぎこちなく答えるだけだった。


「なるほど、なかなか博識な方だ。楽しい晩餐だったよ」

 終わった頃にはどっと疲れが出た。

「では最後に」

 体の力を緩ませた所に冷水を浴びせられた。


「どういうつもりでうちの息子を誘惑したのかな」



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