ルーシー・アン (2)
(ユーリス兄様も仲良くなれるかしら)
ユーリスはたまにルーシー・アンでも分からないときがある。
彼は、同じ母とするルーシー・アンを昔から惜しみなく可愛がってくれた。
だが、父はおろか、サイラスとは自分同様、いやそれ以上に冷え切っている。
二人の前に出ると脅えてしまうルーシー・アンをいつも庇うユーリスは、父とサイラスに対して彼ら以上に冷酷に見えた。
普段の見慣れた表情との格差がそう思わせるのだろう。
父もサイラスも、喜怒哀楽があまり表に出ない、酷薄げな人種だが、それに対するユーリスは氷みたいに残酷に見えた。
そんな光景を見ていると、彼らがかえって肉親同士らしく見える。自分だけがよその子のようだ。
そしていつも優しい兄の本性はどちらなのだろう、と感じてしまう。
だけど、3人で夏を過ごすようになってそんなのは杞憂だと分かった。
ユーリスはセシリアといるときも、いつもの優しいユーリスだった。
時にルーシー・アンをからかって楽しむようにセシリアをもからかったり、いつも笑いあっていた。
セシリアとユーリスで難しい話を談義することもあるが、妹をほおっておくことは決してなく、話題に加わるようにしてくれる。
なんとなくほっとした。
兄は妹をいつも守ろうとして、無理につきあっているのではないかと思ってしまうことがあった。
6才の頃、ユーリスと共に近くの村祭りへ行ったことがあった。
その時どうやらルーシー・アンは知らない家にいたらしい。ユーリスはいなかった。
その時のことはあまり覚えていない。
兄と二人で村に向かった記憶はあるけれど、村祭りを見た記憶はない。
その他にぼんやりと記憶にあるのは、村の人たちがルーシー・アンのいる場所に戸口を蹴破って入ってきた光景。
皆が一人によってたかって縄を巻き付けていた。
後でその人はユーリスの頭を殴った悪い人だと聞かされた。
8才の夏、ユーリスが学友たちを連れて帰ってきた。
年長の少年がルーシー・アンを遠くまで連れ回したことがあった。
君のことが好きだからだよ、と言われて、好かれることを素直にうれしい小さな子供は彼の言うことを聞いてどこまでもついていったが、それが後で大変な騒ぎになっていたとは思ってもみなかった。
ルーシー・アンには詳しい話はなかったが、よく覚えているのはユーリスが自分を強く抱きしめながら何度も何度も謝っていたことだ。
なぜ兄がそんなにまで謝るのか分からないし、その上他の方々まで痛々しい顔。グレイスたちは涙を流していた。
何故、どうして、私は何も怖いことなかったわ、と言ってもみんな心配げな顔をするだけ。
あとでグレイスたちが聞こえないように話していた内容に、「放校」「警察へ」とあった。
その次の年からユーリスが友人を連れてくることはなくなった。
ユーリスだけが夏の間ずっと一緒にいてくれた。
だけど申し訳なかった。兄はいつも友人の所へ行ったりと楽しんでいたのに、子供の私だけにつきあうなんて。
でもセシリアもいればユーリスも楽しくなってくれる。
そう、自分と兄はよく似ている。
ユーリスの冷酷なところだけは理解出来ないが…その他の事ならよく似ている。
だからユーリスもセシリアと仲良くするのは自分と同じくらいセシリアを気にいったのだと思った。
二年目の夏、また3人で楽しめることに毎日幸せだった。
セシリアは気づいていないが、なんとなく今年の変化に気づいた。
ユーリスが庭で花を見ているセシリアを見つめていることがある。
ある日隣に近寄って、
「先生を見てるの?」
と尋ねると、ユーリスはこちらを見て不思議そうな顔をする。それから考え事をするみたいに口に手を当てて、
「僕が大きくなったせいなのかな。先生ってあんなに小さかったっけ?」
「先生はお変わりないわ。私も小さく見えるの?」
「いや。ルーはそう思わないんだけどな。…ルーも日々大きくなってるってことか」
「本当!?私も先生みたいにすらりとした体になるかしら!?」
「その為にも好き嫌いはやめようね」
やぶ蛇の流れになり、話題を変えるため普段の先生の話をした。
嬉々として語れることといえば彼女の話題しかないのだが、ユーリスは飽きもせず楽しげに聞いてくれた。




