15 レイ
青年たちが滞在するのもあと3日となった。
昼の時間になり、食堂に向かうと廊下で友人の一人と出くわした。
今日も皆丘の方へ行き、ボールを蹴ったり抱えて走り込んだりとやらをしていたはず。
「もう戻られたんですか?」
「ええ、俺だけ」
ユーリスくらいの背の高さに、栗毛のクセの強そうな髪、たしか名前はレイだったか。横幅もけっこうあり、まだ十代だというのにかなりな巨体だ。
「ゆうべの夜更かしがたたってフラフラしてきまして。ハラもすきましたし」
「ランチボックスの分は?」
「あんなもんじゃこの体に足りると思いますか?」
たしかにそうだわ、と納得する体つきである。
食堂のコックはてんてこまいに料理を追加した。セシリアは目の前で繰り広げられる食べっぷりにしばし唖然とした。…野獣みたいだ。
食後のお茶の頃にようやくセシリアの視線に気づいてレイははははと笑った。
「いやあ、お見苦しいことを。あ、でもけっこうみんなこうですよ?男子寮なんて」
「いえ。あまりに気持ちよさそうに食べているので見惚れてました…」
「気持ちよさそう、ですか。あははは。ありがとうございます。でもユーリスだってけっこう食べてるでしょう?あいつ俺の身長抜く気でいるな」
「ええ?そうかしら…。いつのまにか食べ終わってる人だから…」
「早食いですよねあれは。べろんごっくんって。多分先生たちの前では猫をかぶって意地汚さを隠し、こっそり夜食たべてるんですよきっと」
「そんなまさか」
「じゃなきゃこの俺が二才年下に追い越されそうになるわけがない」
そういえばそうだった。彼は飛び級をしているのだった。
あまりそうは見えない。彼らが2才下なら納得するがその逆とは、ユーリスはやはり元々子供らしさがない質なのがよく分かる。
「あいつ老けてるでしょ」
「いえいえいえ。優しくて立派な方です。大人びてはいるけど、ルーシー様と遊ぶ時はよく相手になって…」
レンは愉快そうな態度になった。
「ははーん。あいつ本当に先生たちの前で猫かぶってたんですね」
ちらりと周囲を見渡し、厨房からも人影が奥に去ったのを確かめ、声をひそめてレイは言葉を続ける。
なんだろう、まさか実は年がもっといってるなんて言わないわよね、とセシリアは眉をひそめた。
「あいつ16にして10月から医学部に進むんですけど、あいつが師にしている教授があと数年で大学を去るかもしれないんです。だから急いで大学に進みたがっている」
「それのどこが…猫かぶりなんですか?ご本人の努力の賜物でしょう?」
「スクールの教師の娘をたぶらかした賜物と言われているんです」
体の芯が一気に冷えていった。
「将来は婿に来てくれ、なんて言われてるらしいって。そんなんではい登った実力なんてねえ、たかが知れてると思いません?その他にもねえ、あいつ、最近夜遊び激しくて。ご執心の娼婦がいるんですよ。
俺がまあ手引きしたようなものですけど」
彼は一体誰の話をしているのだろう?
自分が知っている人物じゃない、どこか遠い街の知らない男の話なのだろうか。
頭がくらくらするくらいだ。レイはそんな様子のセシリアを愉快げに見て話を続ける。
「でもこうやって見てるとあいつの好み、分かりやすいなあ。
ご執心の娼婦もこれが先生と同じハニーブロンドに琥珀色の目だ。面立ちも似てるかな。おっきな目とちっせえ口元なんか。手を出されませんでしたか?」




