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落 陽  作者: nonono
第一部 夏期休暇
11/78

11 気づいて、ころす

その夜セシリアは眠れない夜を過ごした。

 昼のユーリスと交わした言葉が忘れられずにいる。

 周囲に誤解を受けるような行動はお互い慎もう。そういうことだ。

 それはそうだ。年頃の人間がずっと一緒にいてはいらぬ誤解の元だ。そういうことは自分が気遣わないといけないのに。

 居心地が良すぎて忘れていた。

(わきまえなきゃ。私は年のいった既婚者。彼は輝ける将来を作ることができる人)

 自分が原因で彼の経歴に傷がつくようなことがあったら、とぞっとする。

 それと同時に、寂しさがわき上がる。

 背中をなぞる指の優しさと預けた背中の居心地良さ。

寄りかかっていいと思えた安心感。 

頬をなでた指、掴んできた手、見下ろしてきた瞳。

 何の夢を見るつもりだったのか自分は。

 今頃になって気づいた。自分は彼に惹かれていたのだ。

 五つも下の少年に。

自分がおぞましく感じる。

(なんて浅ましいんだろう、私…私みたいなのが…)

 いつも一緒にいて心地よかったのは、まともな扱いをしてくれる数少ない異性だからだ。年が下だから男性特有の威圧感がないからだ。

 そう思っていた。そう言い聞かせていただけだったことに気づかされた。

(手遅れになる前に気づいてよかったのよ…)

 ちょうどよく当の本人から、牽制されたところだ。

 今のうちに気づいたから、きっとこの悲痛な気持ちは今だけですむ。

 あきらめるのには慣れているはずだ。


 翌日からセシリアは兄妹の間に入ることをやめた。

 太陽に当たりすぎて体調を崩したと理由をつけた。

 ルーシー・アンが心配して医者を呼ぼうとしたが、「私、実は昔からこういう体質だったんです。室内で休んでいれば大丈夫ですから」とごまかした。

「そんな…去年までは大丈夫だったのに…」

「お忘れですか?私はもう十代ではありませんから無理ができないんでしょう。トシなんです」

 とわざと老化だと強調した。そんなわけはないのだけど。

 ユーリスは何か言いたげだったが言葉をすべて飲み、「大事にしてください」と一言告げて、ルーシー・アンと共に出掛けた。

 彼はきっとセシリアの意図を分かっているのだろう。以前なら「じゃあ室内で遊びましょう」と持ちかけてくるところだ。

 何も言わないユーリスに感謝する。

 一人横になりながら、彼とは今度は別の形の絆になったと思いこむことにした。

 ルーシー・アンを守る絆だ。

それだって幸せな事だ。


 その年はそのままユーリスと別れる形になった。

 次に会うときまでに一年間があることを初めてありがたく思った。

その頃にはこの感情も溶けて消えているだろう。

気の迷いから目を覚ましているだろう。

溶けて消えないのなら殺してしまおう。



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