11 気づいて、ころす
その夜セシリアは眠れない夜を過ごした。
昼のユーリスと交わした言葉が忘れられずにいる。
周囲に誤解を受けるような行動はお互い慎もう。そういうことだ。
それはそうだ。年頃の人間がずっと一緒にいてはいらぬ誤解の元だ。そういうことは自分が気遣わないといけないのに。
居心地が良すぎて忘れていた。
(わきまえなきゃ。私は年のいった既婚者。彼は輝ける将来を作ることができる人)
自分が原因で彼の経歴に傷がつくようなことがあったら、とぞっとする。
それと同時に、寂しさがわき上がる。
背中をなぞる指の優しさと預けた背中の居心地良さ。
寄りかかっていいと思えた安心感。
頬をなでた指、掴んできた手、見下ろしてきた瞳。
何の夢を見るつもりだったのか自分は。
今頃になって気づいた。自分は彼に惹かれていたのだ。
五つも下の少年に。
自分がおぞましく感じる。
(なんて浅ましいんだろう、私…私みたいなのが…)
いつも一緒にいて心地よかったのは、まともな扱いをしてくれる数少ない異性だからだ。年が下だから男性特有の威圧感がないからだ。
そう思っていた。そう言い聞かせていただけだったことに気づかされた。
(手遅れになる前に気づいてよかったのよ…)
ちょうどよく当の本人から、牽制されたところだ。
今のうちに気づいたから、きっとこの悲痛な気持ちは今だけですむ。
あきらめるのには慣れているはずだ。
翌日からセシリアは兄妹の間に入ることをやめた。
太陽に当たりすぎて体調を崩したと理由をつけた。
ルーシー・アンが心配して医者を呼ぼうとしたが、「私、実は昔からこういう体質だったんです。室内で休んでいれば大丈夫ですから」とごまかした。
「そんな…去年までは大丈夫だったのに…」
「お忘れですか?私はもう十代ではありませんから無理ができないんでしょう。トシなんです」
とわざと老化だと強調した。そんなわけはないのだけど。
ユーリスは何か言いたげだったが言葉をすべて飲み、「大事にしてください」と一言告げて、ルーシー・アンと共に出掛けた。
彼はきっとセシリアの意図を分かっているのだろう。以前なら「じゃあ室内で遊びましょう」と持ちかけてくるところだ。
何も言わないユーリスに感謝する。
一人横になりながら、彼とは今度は別の形の絆になったと思いこむことにした。
ルーシー・アンを守る絆だ。
それだって幸せな事だ。
その年はそのままユーリスと別れる形になった。
次に会うときまでに一年間があることを初めてありがたく思った。
その頃にはこの感情も溶けて消えているだろう。
気の迷いから目を覚ましているだろう。
溶けて消えないのなら殺してしまおう。




