疲れたときはこれが一番
仕事が終ってヘトヘトだ。神経使う仕事だからなぁ。
大丈夫だ、俺にはまだアレがある。
疲れた時の癒しといえば、コーンポタージュ。
特に好きなのはデイドーの「どろどろコーンポタージュ」だ、他社のコーンスープとはわけが違う。まずスープの粘度が違う。これはすでに飲み物ではない食べ物だ。しかもコーンが下に落ちにくいのも特徴だ。
なにより、蓋がプルトップではない。まわして開ける間口の広いものだ。味も素直にスィート。本当にスィート。コーンの甘さが加わって疲れた体に染み渡るのだ。なにより冬季限定なので、寒空にあったかい液体、いや食べ物は、心まで暖かくしてくれる。
特に今日は寒冷前線が日本中を覆っているということで、日が落ちれば一気に寒くなった。吐く息も絶賛真っ白だ。手袋がないから余計に暖かい缶を求めてしまう。
ということで、いつもの自販機の前に立つ。硬貨を取り出し、投入口へいれようとすると、ある事に気がついた。
「売り切れている……」
なんだと……いつもはちっとも売れてないじゃないか。コーヒーばっかり買っているクソ共がっ! ちょっと数日寒くなっただけで、コーンポタージュ買ってんじゃねえよ! こっちは発売当日から買っているんだよ。
売れる条件整ってからファンになったテメエ等とは違うんだよ! 「コーンポタージュ、マジイイしいよね」って馬鹿か? ポっと出のファンが語ってんじゃねえよ。最低三年はファン続けろよ。
いや、お茶組が買っているのかもしれん。やつ等も意外とコーンポタージュ買いやがるからな。くそっ、くそっ、くそっ!
「……と、怒ると思ったら大間違いだ」
なあに、こいうことも考えて、第二第三のコーンポタージュポイント(略してCP)があるんだよ。いっちょ噛みのニワカに俺が負けるとでも?
俺はかじかんだ手をすり合わせながら、次のCPへ急いだ。
「マジですか?」
またもやコンポタージュが売り切れだった。なんなの? なんなの? まさか補充する係りの人がサボったとか。許せん。貴様等の仕事はどの自販機も均等に切らすことなく補充するが使命ではないのか? プロか? お前等は本当にプロなのか! それとも違うのか! 違うの? なんで? ねえ、なんで?
「……と怒るかと思ったら大間違いだ」
まだ余裕がある。あと10箇所ある。こっちの調査力なめんなよ。俺はさっそく次のCPへ向った。
「……何かの陰謀だ」
これで10箇所すべて回った。すべて売り切れ。ふざけんな! どんだけ人気あるんだよ!
いや、嬉しいよ! すっげえ嬉しいよ! ようやく認められたんだなって思うよ。だけどさ、ちょっと売れすぎだと思うんだよね。
きっとコンポタの奴は調子に乗ってるよ。絶対、アンチが発生するよ。パクリだとか言って、洋楽とかと無理やり比較して「似てる。うわ~パクリ」とか言うんだろ。そしてネットでマルチポストするんだろ。うざい、ホントウザイ!
そのウチでっちあげたインタビュー集とかでて「人格的に最悪~」とか言うんだろ。
「くそぅ……コンポタの名誉は俺が守る。インディーズからずっと支えてきたんだぞ!」
仕事の疲れはコンポタで取るっ、絶対に取る。まずはスーパー・コンビニ狙いだ。
自販機を諦めスーパー・コンビニを探した。
しかし、どこにもなかった。
わけが分からないよ……
とぼとぼと歩いていると、本屋の前を通り過ぎた時に、平積みなっている雑誌が目に入った。
「この冬はコンポター女 (コンポタージョ)が来る!」
ケバい女性がコーンポタージュの表紙にデカデカ載っている見出し。俺は思わず雑誌を手に取った。
『コンポタージョとはコン=狐にように狡猾に、ポター=某魔法使い、ジョ=女。つまり、「キツネのように狡猾に男へ近づき、魔法使いのように男を魅了しする女」のことである。
さぁ、あなたもコーンポタージュを手にとって、男を魅了してみては?
特にデイドーの「どろどろコーンポタージュ」がお勧め。女性のドロドロとした感情を一層引き立てます』
雑誌を平積みに置き、後ろを振り返る。
すると街行く女性がみんなコーンポタージュを手に持っていた。
「コンポタ関係ねえしっ!」
世の中の仕掛け人、許さない! 何の愛着もなく、ただ流行のアイテムとして、持ち上げ、流行が去ったらポイっと捨ててしまう外道。
細々とロングセラー続けていた商品が一時の爆発的なヒット時期と売り上げを比べられ、「売り上げ落ちたねぇ」とか嫌味言われて、生産停止になるんだよ! んで十数年後「なつかしの商品」扱いされるんだ。ふざけんな使い捨てヒットメーカ共。
F1層(20~34歳の女性)は流行に敏感で消費層の中心となっているとは言え、まさか俺が大切にしている商品がこの餌食になるとは……
これは守らなければならぬ。
なんで消費し尽くす肉食女性軍団から、コーンポタージュを救い出す!
いたいけな草食男子の生きがいであるコーンポタージュを取り戻す。
今、「コーンポタージュ救出戦線」の設立を宣言する!
俺は拳を振り上げて「わが人生、一片の悔いなし! コーンポタージュに捧ぐ!」と心の中で叫んだ。
俺が感慨に打ち震えていると、背後から近づいてい来る気配。
後ろを振り向くと、痛んだ長髪で栗色のウェービーヘア、濃い化粧で目の周り真っ黒、どんだけ睫毛を付けたんだよ! と突っ込みたくなる女性が立っていた。
「あの……ちょっと良いですか?」
「はぁ?」
俺は鋭く睨み付けると、女性は脂っこくテカったピンク色の唇で微笑んだ。
「お仕事お疲れさまです」
「え?」
「これどうぞ」
女性が両手を添えて差し出したのは、コーンポタージュだった。しかもデイドー製。
「もし良ければ、私と公園辺りでコーンポタージュ飲みながらお話してくれませんか?」
よく見ると綺麗な澄み切ったブラウンの髪の毛、目力を強調した魅力的なブラック、長い睫毛が魅力的な女性じゃないか。
「ぼ、僕で良いんですか?」
「もちろん。でも、私、よく人からケバい女とかって言われちゃって……誤解されちゃうんです。だけど今日はちょっと勇気出しちゃいました」
艶のある唇が動く。潤ったピンク色は僕の欲望を刺激した。
「こんな私でもいいですか?」
「もちろんっ!」
一瞬、彼女の細めた瞳が笑ってないような気がしたけど、まぁ、いいやコーンポタージュ暖けぇ! 繋いだ手も暖けぇ!
男が立ち去った後、平済みにされた雑誌が風でペラペラとめくられる。
『さぁ、コーンポタージュを持って街に繰り出そう! そして寒そうにしている男に向って「お疲れさま」とさしだすのだ!(両手添えるのがポイント)アナタの魔法で草食男子の心も溶けること間違いなし! そして自分の外見と内面のギャップを伝えれば、手に持った暖かさとリンクして確実に男を落とせるはず! さぁ、ハンティングの時間です。世の男共を食い尽くしましょう♪ 恋に疲れたときはこれが一番!』
終わり
お読みいただ、きありがとうとざいました!
ごはんライスとリープが、それぞれお互いのテーマを10個出しあって、お互いのテーマの中から1つ選んで、合計2作短編を書きました。
正月の初笑い、初ニヤニヤしてくだされば、幸いです。
肩の力を抜いて読んででくださいね。
今回のはコーンポータージュが好きってことが伝えたかっただけです!(嘘)
別に音楽ファンに嫌味言ってるわけでもないし、雑誌等の妙な売り出し方、それにまんまと乗っちゃう人たちに言ってるわけじゃないですよ?
音楽ファンに一言言っちゃう俺カッコいいっ!
流行にながされてない俺カッコいいっ!
っていうことで、作品で笑え、作者を笑え、そして自分自身を笑っちゃえ!
それでは。