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おとぎばなしからはみ出したもの

火炎放射器売りの少女

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/08

念のため…犯罪を助長、推奨するものではありません。

寒い寒い雪の降る夜。

古びて薄汚れた装いの少女が、大きな荷車を引きながら町をさまよっていました。


『マッチなんざもう古い!これからは火炎放射器の時代だ!』


と、育ての親から何台もの火炎放射器を押し付けられ、

全部売れるまで帰ってくるんじゃない、そう言われた少女は、

何か根本的に間違っていると思いつつも逆らえず、声をあげます。


「火炎放射器、火炎放射器はいりませんか?小型軽量、誰でも手軽に焼野原が作れますよ!」


通りがかる人々はみな目を合わせようとせず、

危険人物を避けるようにして少女を避けて通ります。


「…ダメだわ、ひとつも売れない。小型化して持ち運びには便利でも、まだ高額なのかしら」


少女も何か根本的に間違っています。

一般の人々は滅多に焼野原を作りません。


しかしひとつも売れなければ、雨風しのげるだけとはいえ、

家に帰ることもできません。


遅くなるにつれ人通りも減っていき、売れる気配もなく、

食事もとれていない少女は精神も限界寸前でした。


「…せめて暖をとりましょう。そうだわ、ここの家は空き家だったはず。

 燃やしちゃってもいいわよね。宣伝にもなるし暖かいし」


少女は一線を越えました。


「あはははははは、暖かい、暖かいわ!そうよ、これでいいのよ!

 天国のおばあさん、見てますか?わたし、やりました!やっちゃいました!」


少し前まで静かだった町は大騒ぎです。その時。


「そこまでよっ!火炎放射器売りの少女っ!」


どこからかの声。少女が振り返ると向かいの建物の屋根の上に人影が。


「誰っ?何者なのっ!」


人影は答えます。


「わたしは消防署のほうからやってきた、消火器売りの少女っ!

 あなたの行いは見過ごせないわっ!」


消防署から、と言わないところで微妙にうさん臭さをただよわせる人影。

少女とは敵対しそうですが、彼女もまともな人物ではなさそうです。


「あなたを止めてみせる!とうっ!喰らいなさいっ!」


屋根の上から飛び降りた、自称・消火器売りの少女は

着地とともにトリガーをひいて消火器を噴射します。

しかし噴射の勢いが強すぎて、消火剤はあらぬ方向へ。


「なによこの不良品はっ!ちゃんと当たりなさいっ!」


それはあなたが売り込もうとしてた商品ですが。

消火器売りの少女は消火器をあちらこちらへと振り回します。


あちらこちらに消火剤は飛び散るものの、

火の手は一向に収まりません。炎に当たっていないので。


上手くいかないのに癇癪を起こした消火器売りの少女は、

消火器を火炎放射器売りの少女目掛けて投げつけました。

まさに火事場の馬鹿力です。


「こうすればいいのよっ!喰らいなさいっ!」


思わず避けた火炎放射器売りの少女。

消火器は荷車に積んでいた燃料タンクを破壊し、吹き飛んだ燃料に引火。

建物は爆発で崩壊。火の粉が飛び散り周辺家屋へと延焼。


「あああ!そんなつもりじゃ!そんなつもりじゃ!」


あわてふためく消火器売りの少女。


彼女が広がる炎に気をとられている隙に、

火炎放射器売りの少女は闇に紛れて姿を消します。

無事だった火炎放射器と共に。どうせ家には帰れないので。

厄介事は関わらないのが一番です。元凶は自分だけど。


避難が早かったため、死傷者は奇跡的にゼロでしたが、

周辺地域は焼野原と化しました。


爆発延焼させたところは目撃者が多数いたため、

消火器売りの少女は憲兵隊が即座に捕縛。


火炎放射器の販売元が調査され、

少女の育ての親も無事捕縛されました。



そのころ町から離れた、とある森の中に建つ屋敷。その大広間では。


「消火器売りの少女が倒されたか」

「ふっ、きゃつは我ら『闇の防災協会』の中では一番の小物」

「次は誰が行く」

「では、わたくし『火災放置器』(誤字ではない)売りの少女にお任せを」

「よろしい、任せよう。期待しておるぞ」


火炎放射器売りの少女の戦いはこれからも続くようです。

いや、続かせませんから。

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