第3章 異世界のトラブル
その日の午後、カフェは穏やかな日差しに包まれていた。
めぐみはカウンターで、ドリンクを作る手を休めて窓の外を見た。
街の人々が楽しそうに行き交い、平和な時間が流れている。
「めぐみ、少し手伝ってくれ」
クリスの声に振り向くと、彼は笑顔を浮かべつつも真剣な表情だった。
「はい、何をすれば…?」
「今日は特別な注文が入っている。気を抜くな」
クリスはそう言うと、奥の棚から小さな箱を取り出した。
中には不思議な形のケーキや魔法で色が変わる飲み物が並んでいる。
めぐみは息をのむ。
「わ…どうやって作れば…?」
クリスは手本を見せながら、静かに指示を出した。
「こうやって、ゆっくり回して混ぜろ。焦るな」
作業中、店のドアが急に開き、子供の泣き声が響いた。
「お母さんがいないよ~!」
迷子の子供が駆け込んできたのだ。
めぐみは思わず駆け寄る。
「大丈夫、私がいるからね」
子供は泣きじゃくりながら、めぐみにしがみついた。
クリスも素早く動いた。
「めぐみ、落ち着け。親を探すんだ」
二人で協力し、子供を落ち着かせながら、街へ連絡を取る。
めぐみの手は震えていたが、必死で笑顔を作る。
「もう少しだからね、すぐお母さんが来るよ」
子供の目に少し安心の光が戻るのを感じた。
数分後、子供の親がカフェに駆け込んできた。
「ごめんね、心配かけて…」
親子は抱き合い、泣きながらありがとうと言った。
「よかったな、無事で」
クリスの声に、めぐみも微笑む。
「はい…でも、私、役に立てたのかな…」
心の奥で、少し自信が芽生えた。
午後も続く注文の中、めぐみは少しずつ手際が良くなってきた。
クリスも時折微笑み、指示を出す。
その視線が胸に温かく響き、心臓が少し早くなるのを感じた。
「意外と頼りになるな…」
クリスは小声でつぶやき、めぐみは気づかず作業を続けた。
その言葉に、胸が高鳴る。
夕方になると、街の一角で小さな魔物が出現したとの情報が届く。
カフェには少し緊張が走る。
「クリスさん、どうするんですか?」
めぐみは不安げに尋ねる。
「まずはお客さんを安全な場所に避難させる。君も手伝え」
クリスは落ち着いて指示を出す。
めぐみは小さく頷き、息を整えた。
二人は力を合わせて、カフェの中の人々を誘導した。
めぐみは必死で声を出し、手を取り合いながら安全地帯へ案内する。
「こっちだよ!怖くない、ついてきて!」
やがて、魔物は遠くに去り、街は再び静かになる。
「よくやった、めぐみ」
クリスは優しく微笑み、めぐみの肩に手を置く。
「はい…なんとか…」
息を切らしながらも、めぐみの胸には充実感が広がった。
この日、彼女は自分の力で誰かを守れることを実感したのだ。
夜、カフェの窓から月明かりが差し込む。
めぐみはクリスの背中を見つめ、心の中で呟く。
「私…ここでやっていけるかもしれない…」
クリスもまた、めぐみを見守る視線に心を揺らす。
「頼れる存在が、ここにいる」
そう思った瞬間、二人の距離がほんの少し縮まったように感じた。
そして、静かな夜のカフェに二人だけの時間が流れる。
めぐみは今日の出来事を反芻しながら、明日への希望を胸に抱いた。
この異世界での日々は、少しずつだが確かに彼女を変えていくのだった。




