第2章 カフェでの生活スタート
翌朝、めぐみはクリスのカフェで目を覚ました。
木の香りが漂う店内は、昨日よりも穏やかな空気に包まれている。
窓から差し込む光が、床に淡い影を落としていた。
「おはよう、めぐみ」
クリスがカウンター越しに声をかける。
その声に、めぐみはまだ眠気の残る頭を少し持ち上げた。
「おはようございます…」
彼女は小さく返事をしながら、手をこすり合わせる。
異世界での初めての朝。緊張と期待が入り混じっていた。
「今日は、カフェで少し働いてみるか」
クリスは穏やかに提案する。
「働く…ですか?」めぐみの声は震えていた。
「はい。簡単なことからでいい。皿洗いや掃除でも構わない」
めぐみは深呼吸を一つして、頷いた。
「わかりました…やってみます」
彼女の目には、ほんの少しだが決意の光が宿っていた。
まずは、カウンターの掃除と皿洗いから始まる。
水を流す音、スポンジで泡立つ皿の感触、
どれも現代とは少し違った感覚だった。
「次は、ドリンクの準備を教える」
クリスは静かに言い、めぐみの手を取り材料を渡した。
「これが『ムーンラテ』。魔法で温度や色を調整する」
めぐみは手順を覚えようと必死に目を凝らす。
「こう…えっと、魔法の呪文は…?」
「焦らず、手の動きを覚えろ。魔法は焦ると失敗する」
クリスの言葉は、落ち着いているけれど、どこか優しさがあった。
めぐみはゆっくり手を動かしてカップに魔法を注ぐ。
液体が光を帯びて、淡い銀色に輝いた。
「わ…すごい…」思わず声を漏らす。
クリスは小さく微笑む。
「初めてにしては悪くない。君は飲食のセンスがあるな」
めぐみの頬が少し赤くなる。
「そ、そんな…まだまだです…」
やがて、店のベルが鳴った。
最初のお客さんが入ってきたのだ。
めぐみは少し緊張しながらも、笑顔を作って迎える。
「いらっしゃいませ。ご注文は…?」
「えっと…」言葉が詰まりそうになるが、
クリスがそっと背中で励ましてくれた。
「落ち着け、大丈夫」
めぐみは深呼吸し、笑顔で注文を聞いた。
「カフェラテと、ムーンラテを一つずつですね」
お客さんが頷き、めぐみはドリンクを作り始める。
カップを渡す瞬間、少し手が震えた。
「す、すみません、こちら…」
クリスがそっとフォローする。
「落ち着いて、ゆっくりでいい」
お客さんはにこりと笑った。
「ありがとう、大丈夫だよ」
めぐみもほっと息をつく。
自分の手で誰かを喜ばせられたことに、胸が温かくなる。
午後になり、めぐみは少しずつ店の流れを覚えてきた。
クリスも時折笑顔を見せ、手順を優しく教えてくれる。
その微笑みを見た瞬間、めぐみの胸は少しドキッとした。
「クリスさん、質問してもいいですか?」
「もちろん。何でも聞け」
「どうしてこのカフェを始めたんですか?」
クリスは少し考えてから答えた。
「人と繋がりたかったんだ。孤独だったから、自分の場所が欲しかった」
めぐみは黙って頷く。
その言葉の重みと優しさに、心が揺れる。
夜になり、カフェが閉店する頃、めぐみは疲れたけれど満足感に包まれた。
「今日、いろいろ教えてくれてありがとう」
「こちらこそ、よく頑張ったな」
クリスの瞳が柔らかく光り、彼女の頬が少し熱くなる。
外の月明かりが、二人の影を長く伸ばしていた。
めぐみは思った。
異世界での生活はまだ始まったばかり。
でも、ここでなら少しずつ、自分も成長できそうだ、と。
そして、何より――
この不思議な青年と一緒なら、毎日が少し楽しくなるかもしれない。




