第三章レヴィの煩悶〜ep1「俺は、ウィリアムズ・ヘイズ刑事軍曹だ!」〜
++登場人物++
【アリア・ゴールデンベリル】
サザーク聖十字架修道院のシスター。黒の修道服の上から白地に赤い彼岸花が描かれている着物を片肌脱ぎと、何とも奇抜な格好をした少女。
【レヴィ・ラルド】
ヘプタと呼ばれる七つの大罪組織内ではエンヴィと呼ばれていた。
今はヘプタを離脱して、アリアから名前を貰いオブレートとして行動を共にしている。
【アレクサンダー・オブシディアン】
サザーク聖十字架修道院の修練長。サザーク聖十字架修道院が"戦う"と云われる所以を作った人物。
【パトリシア・オブシディアン】
CIDの刑事警部補。サザーク聖十字架修道院に所属するアレクサンダーの姉であり、アリアやレヴィとも仲が良い。
【ウィリアムズ・ヘイズ】
CIDの刑事軍曹。待つこと以外基本優秀。パトリシアの後輩で、よくオモチャにされて遊ばれている。
「あれ、嬢ちゃん"着物"はどうしたんだ?」
パトリシアに案内されてハンターグリーンのイギリス製のセダンへと乗り込むと、その様子をバックミラー越しで見ていたヘイズ刑事軍曹がアリアにそう尋ねた。
「え、刑事さん...これ知ってるの?」
黒の修道服で身に纏い、車の後部座席に腰をかけたアリアは、その両腕に大事そうに抱え込んでいる、さっきまで片肌脱ぎをして着けていた着物を彼に見せるように自分の顔の位置まで持ち上げた。
「ウィリアムズ・ヘイズ刑事軍曹だ。あぁ、ウチの祖母が似たような物を持っててな。これは日本って国の"着物"なんだって昔教えて貰ったんだ。」
「へぇ」と目を丸くしながら頷くアリア。
彼女にとって"着物"は母親の形見のようなものだった。日本と呼ばれる国の出身であるアリアの母親は、異国の地にも関わらず、遠い故郷を想うように生前ずっとその着物を身に纏っていた。
「お祖母さまは?」
「少し前に死んだよ。」
「...そう、ごめんなさい。」
会ってみたかったのだろうか。アリアは残念そうに視線を落とすとシュンと体を小さくした。すると助手席の方から彼の脇腹めがけて拳が飛んできた。不意打ちの衝撃に対する反射的な声が運転席から響く。
「いて!なんスか!」
「死んだじゃなくて、ここは亡くなったと言うべきだ。お前は言葉が雑過ぎる。」
ヘイズ刑事軍曹は脇腹を擦りながら、「だからって別に殴らなくても...」と内心思いつつ、気を付けます。と短く頭を下げながら「すみません」と呟いた。
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暫くして、ヘイズ刑事軍曹は再びバックミラー越しに後ろに乗っている二人の様子を見た。
少女は、服が汚れてしまったことが原因なのか、それはまあ不機嫌そうに窓の方を向いて黙り込んでいる。
「......。」
少年はというと、こちらも顔を顰めながら、それでも少女のことが気になるのかチラチラと様子を窺いながら、タオルで顔をゴシゴシと拭いている。
「......。」
一方、隣の上司はというと。シガレットを口に咥えながら、オイルが切れているのか、カチッカチッとジッポーの特徴的な金属音を何度も鳴らしながら、ようやくシガレットに火を付けた。
「......。」
沈黙。
いや、何も黙ることが悪くないし、話せともそりゃあ思わないさ。
後ろの二人に関しては、さっきまで本丸とやり合ってたんだきっと疲れているに違いない。俺も、そう思った。
でも、
それでも、これは職業柄とでも言うのだろうか...
車内全体に漂う重たい空気と、異様なほどのレモネードの匂いが気になって仕方がなかった。
「あのー、...何かあったんスか?」
後部座席に乗せた彼らを送るため、サザーク地区へと向かって車を走らせるヘイズ刑事軍曹が、真っ先に口火を切った。
すると、意外なことに、さっきまで絶賛不機嫌そうにそっぽ向いていたアリアの方から、ヘイズ刑事軍曹に向かって口を開いた。
「いい質問ね、刑事さん。私も何で仕事終わりにこんな思いして帰らなきゃいけないのか理由が知りたいわ。...ねぇ?」
そう言って、直接視線を合わすことなくアリアは横目でレヴィを見た。
「だから、刑事じゃなくて、俺は刑事軍曹...」
ヘイズ刑事軍曹が間違い指摘をするや否や、レヴィが空かさず言葉を返す。
「何度も言ってるけどアレは僕の仕業じゃないんだってば、第一に僕は止めようとしたじゃないか。」
「じゃあ、何で笑ったのよ」
痛いところを突かれ、レヴィからウッと低い声が漏れる。
「...、それは悪かった。アレは無条件反射というか.....その、笑うつもりはなかったんだって...〜っ言ってもダメか。あのう、刑事さん。とりあえず疑惑だけでも晴らしたいので、その辺のことを当事者である刑事警部補に訊いて貰えますか。」
「だから、俺は刑事軍曹だとッ..」
「炭酸を投げたことは謝ろう。すまなかった。だが、それは気泡が再溶解するまで休んで居てくれという私なりのメッセージだったんだが。」
シガレットの煙を吐きながら、パトリシアは答えた。
「...ちょっ、俺の話も聞いて...」
「...よく言いますよ。瓶に入った炭酸の投擲されたことへの衝撃は"強く振られた"状態とほぼ変わらないのに、それを"貴女"が投げたことでどうなるか...本当に分からなかったんですか?現場で2時間以上休む人なんて居ませんよ。だったら帰ります。」
口火を切ったにも関わらず、完全に蚊帳の外に置かれてしまったヘイズ刑事軍曹は「はぁ」と大きく溜め息をついた。
「いや、その前に服だ。」
パトリシアはまだ吸いかけのシガレットを車内に取り付けられた組み込み式の灰皿に押し付けると、シートの背もたれに右腕を回し、体を支えながらアリアの方を向いた。
「大事な洋服を汚してしまって、本当にすまない。私の御用達のクリーニング店でアリアの服を預けてる間、私にアリアの衣服を用意させてほしい。」
「え、いや、私そんなつもりで言ったわけじゃ...」
「いいじゃないか。事の張本人が言ってるんだ。この際だから高いドレスでも買ってもらうといいよ。」
すると、アリアは鋭い目つきでレヴィを見た。
「...アンタって、姉さまのときだけキャラ変わるわよね。」
「それは、君もじゃないか。」
後ろでまたギャアギャアと揉め出す二人を他所に、パトリシアは視線を再び正面へと戻す。
「...てことで刑事さん、ナイツブリッジのハロッズまで行って貰えるかな」
「だから、俺は刑事軍曹だと!...って、ぇぇえ!?今からッスか?!着いたところで、この時間だと...厳しくないっすか?」
「閉館の時間のことを気にしているのなら、大丈夫だ。連絡はしてある。」
「ぐっ、〜だったら、もっと早めに言ってくださいよッ...〜ったく!」
車は、ロンドン橋を渡るためにシティ中心部の渋滞を抜けて、橋の入り口に差し掛かった辺りまで来ていたが、パトリシアのその一言により再び渋滞の渦へと吸い込まれて行くこととなった。
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この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.




