第四章BAD GIRL〜クリスマス特別編I〜
※登場人物紹介※
本作に登場する人物の簡単な紹介です。
本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
アリア・ゴールデンベリル
サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。
レヴィ・ラルド
サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。
アレクサンダー・オブシディアン
サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた人や悪霊の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。
パトリシア・オブシディアン
CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。
ドリス・ブラウン
サザーク聖十字架修道院の修道院長。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。
ウィリアムズ・ヘイズ
CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。
ヨーゼフ
マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。
アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を操り武器や道具を提供する。
その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。
1937年12月25日のロンドン。
降りしきる雪は、煤けた街並みや立ち込める霧と混ざり合い、ぼんやりとしたロマンチックな情景を映し出していた。積もりすぎる雪への苦労は絶えなかったが、不況に沈むこの時代でその白さが人々の胸にひと時の高揚感を与えていたのも、また事実であった。
ケンジントンからナイツブリッジにかけての界隈では、馬車や車が慎重に進み、厚手のコートに身を包んだ人々が足元を確かめながらゆっくりと行き交っていた。高級住宅街と壮麗な商店街が並ぶこのエリアでは、デパートの煌びやかなイルミネーションが舞い落ちる雪と溶け合い、クリスマスらしい華やかな情緒をいっそう引き立てていた。
特にこの時期のテムズ川の雪景色は名高く、アリアたちも岸辺の薄氷の上を滑ってよく遊んでいた。完全に凍りきれていない水と氷のコントラストが、まるで川そのものが何かの生き物のような躍動感を生み出し、魔法がかった美しさを宿していた。
そして、アリアたちの修道院があるサザークでは、尖塔に雪が積もり、石壁の一面が真っ白に染まって、まるで中世にでもタイムスリップしたかのような錯覚を抱かせる。
雪が舞う空の下、修道院の窓から零れる温かな光が重なり合うことで、景色はよりいっそう幻想さを増し…ーーどこか儚げな美しささえ纏っていた。
そんな今日という特別な日に…ーー。
オブシディアン姉弟は、「今宵、皆でクリスマスを迎えられたことへの感謝と、未来への祈りを込めて。」この聖なる夜の聖堂を密かに借り受けることにした。姉弟は、名だたるオブシディアンの財力を惜しみなく投じ、静寂に包まれていた薄暗い聖堂を、煌びやかな装飾に彩られた華麗なダンスホールへと一変させてみせた。
そして……ーーー。
華やかな衣装に身を包んだ訪問者たちは、石造りの建物から溢れ出すオーケストラの調べに心を踊らせていた。誘われるように扉を開ければ、おとぎ話のワンシーンのような光景が五感を一気に刺激して訪れる者たちを次々と夢の世界へと誘っていく。
「わぁ……!何これ…っ!これがあの薄暗かった聖堂なの?!すっごーい!流石だわ…!こんな素敵な飾り付けみたことない……!」
会場には、シスターやブラザーたちだけでなく、修道院に携わる人々やオブシディアン姉弟の知人たちまでもが既に集まっていた。
バイアス・カットのペールグリーンのイブニングドレスを纏ったアリアは、見違えるほど変貌を遂げた聖堂内を、くるくると身を翻して見回している。
その異常なまでのはしゃぎように、隣では相棒が短く溜息を零した。
「……アリア、少し落ち着いて。せっかくのドレスが台無しじゃないか。」
とは言うものの、あまりにも美しいその輝きに、流石のレヴィも「保護者モード」を維持しながら、内心ではアリアと同様にこの特別な空間に圧倒されていた。きょろきょろと目線を動かし、アーチ型の天井に吊るされた緑と赤と金色のコントラストに、すっかり目を奪われていた…ーー。
「見てみて、レヴィ!あのクリスマスツリー、凄いわ!」
アリアが指差すその先は、普段なら祭壇がある場所だった。けれども今、この瞬間だけは、見上げるほどの巨大なツリーが、これでもかと言わんばかりの存在感を放っている。
「すごい……これが、フェアリーライトなのね……。」
巨大なツリーに幾重にも巻かれた無数の光は
当時、ようやく普及し始めた電球式のイルミネーションだった。
初めて目にするその柔らかな光の粒に、アリアはすっかり心を奪われ、ほぅと見惚れていた……ーー。
「綺麗だわ……」
そんな彼女の横顔に、近くにいた男性たちの視線が次々と吸い寄せられていくーーー。一夜限りの美として知られる「セレニケレウス」の白い花のごとく、普段は見せることのない彼女の芳醇な魅力に一瞬でも当てられた男たちがソワソワと浮き足立ち始めた。だが、そんな気配を察して、レヴィは無言のまま、すっと彼女の隣に立った。
「ほんと、このまま、ずーっと、時が止まっちゃえばいいのにね。」
六つの巨悪に立ち向かう宿命の元、「聖女」といういつ命を落とすかも知れない運命を背負わされた少女ーー。
そんな彼女の口からポツリと零れた本音に、レヴィの表情が苦しげに曇る。それに気付いたアリアは、慌てた様子でいつもの天真爛漫な笑顔を取り繕い、そっと彼の顔を覗き込んだ。
「な、なーんてね!……一夜限りのイベントだからこそ、こんな特別に感じるんだもんね。わ、わかってるわよ?……そんなこと。」
彼女が動く度に揺れる優雅なドレープが、何故だか今日は切なく見えーーレヴィは堪らず彼女の手を掴み、そのまま離さなかった。
「なっ、いきなり、何よ……」
驚きに目を丸くするアリア。けれども、この状況に一番驚いていたのは、他ならぬレヴィ本人だった。
「あ……いや、……何でだろうな、自分でも……分からない……」
そのたどたどしい言葉に、アリアは思わずプッと吹き出した。
そして、両手で彼の手を優しく包み、しっかりと握り返す……。
「ほんと、私って、いつもアンタに心配かけてばっかりね……」
珍しく、しおらしく自嘲気味に苦笑してみせるアリア。
だがその一方で、視界には、お互いが贈り合ったブレスレットとカフスボタンが、柔らかな光を反射してキラキラと輝いている。
それを目にした彼女は、この上なく慈愛に満ちた表情で、彼にだけ見せる特別な微笑みを浮かべてみせたーー。
「ありがとう、レヴィ。」
この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.




