第四章BAD GIRL〜ep9「その言葉に、アリアは静かに微笑んだ。」〜
※登場人物紹介※
本作に登場する人物の簡単な紹介です。
本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
アリア・ゴールデンベリル
サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。
レヴィ・ラルド
サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。
アレクサンダー・オブシディアン
サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた人や悪霊の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。
パトリシア・オブシディアン
CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。
ドリス・ブラウン
サザーク聖十字架修道院の修道院長。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。
ウィリアムズ・ヘイズ
CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。
ヨーゼフ
マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。
アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を操り武器や道具を提供する。
その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。
「そうなんだよー。」
やれやれと、億劫そうに上半身を起こすと、ヨーゼフは地面に転がっていたシルクハットを手に取り、いつものように目深に被り直した。
「不老不死といえど痛覚は存在する。痛覚がほぼゼロだと、繊細な力のコントロールがかなり難しくなるからね。」
よっこらせと立ち上がり、懐から取り出したハンカチで鼻や口元の血を拭い始めるーー。
「……まぁ君たちヘプタと決定的に違うのは、再生するためにエネルギーを必要としないこと、ーーかな?」
そう言ってヨーゼフは、レヴィに向かって得意げに人差し指を立ててみせた。
「それはいいな。ストレス解消に丁度良さそうだ。」
レヴィは軽く鼻を鳴らしておどけてみせるが、その目は一切笑っていない。
ヨーゼフは短い悲鳴を上げると、自分と同じ背丈ほどの棚の影にスッと身を隠した。
「ちょ、やめてよねッ……アリアのことは本当に申し訳ないと思ってるよ!まさか、レヴィたんの感知能力からも消えてしまうほどの効果があるなんて、僕も想定外だったんだ!」
ヘプタにアリアの存在を気取られぬようにと、ヨーゼフがアリアに渡した「烙印の匂い消し」の香水。
それがまさか、レヴィの卓越した感知能力からさえも存在を消し、アリアを一時的な「透明人間」状態に仕立て上げてしまうとはーー。
レヴィは彼女を「見失った」ことへの恐怖でとても気が立っていた。
結果、ヨーゼフの行き過ぎた技術力が、レヴィのアリアを守るという狂気的な保護本能に触れてしまったのだーー。
「てか、レヴィたん。どうやってここに入ってきたの?……一応、ここは僕の招待がないと入れないようになってるんだけど。」
「…だろうな。」
言うや否や、どこからともなく現れた一匹の小蛇が、レヴィの腕を這い登り、甘えるように彼の頬へ頭を擦り付けた。
「俺はアリアのように、素性の知れない奴を最初から信用などしない。」
まるで、「常に監視は付けていた」と言わんばかりに、レヴィは蛇の頭を指先で優しく撫でたーー。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こうして、アリアたちの慌ただしい12月24日が幕を閉じ、一年の最大イベントであるクリスマスが始まったーー。
1937年12月25日。
時計の針が0時を回ると、聖堂の方から聖歌隊の清らかな歌声とパイプオルガンの音が響き渡る。
サザーク聖十字架修道院では、この深夜ミサからすべてが始まり、2時頃にようやくシスターたちは再び眠りにつく。
起床時間の8時。朝ミサの鐘が鳴り響くと、誰もが心待ちにしていたサザーク聖十字架修道院の特別な一日が幕を開ける。
大人たちが、クリスマスの飾り付けとディナーの準備で大忙しな一方、子どもたちはといえば、14時の自習時間で与えられた宿題をもくもくとこなしていた。
ここは修道院の勉強室。窓から差し込む暖かい光が机を優しく照らす中、宿題を終えたアリアは、退屈そうに欠伸をしながら窓の外をぼんやりと眺めていた。
「はぁ〜。……もぅ、無理。xとyで当てはめるって考えるだけで、頭がこんがらがっちゃうよ……。」
隣で頭を抱えていたのは、同年代のルーシー・ウィルソンとカイル・ウォーカーだ。二人の数学の宿題は、どうやらまだ終わりそうにない。
「……リンゴとミカンを合わせて12個買いました。リンゴはミカンより4個多く、リンゴは1個2ペンス、ミカンは1個3ペンス。合計金額は28ペンスです。さて、リンゴとミカンの個数はそれぞれいくつでしょうか……だって?知るかよッ、んなこと合計金額分かってんなら計算する必要ねーだろ。」
出された宿題に対し、元も子もないこと毒づき方をするカイルに、アリアは呆れたように深く溜息をついた。
「アンタ、まだそんな問題で躓いてんの?こーゆーのはxとyを使うより、逆算で予想した方が楽じゃない。」
アリアは、答えが既に分かっている問題に対して、逆算で欠けている要素を導き出す方法をカイルに提案した。
それはアリアが『赦しの能力』を使う際によく行う手法だった。
アリアの能力は、相手に自らの名前を口にさせることで『ヘプタの烙印』という呪縛から解放するものだ。そのためにアリアは相手の記憶に潜り込み、名前に繋がる欠片を探る。
たとえアリアが先に名前に辿り着いたとしても、本人の記憶が曖昧なままでは意味がない。本人が自分自身を取り戻すために、ヒントとなる記憶を一つずつ紐付けて、自力で名前に辿り着くよう導かなければならないのだ。カサンドラの件は、正にその通りだった。
彼女が自分を思い出すためには、断片的な記憶を繋ぎ合わせ、自らの口で語る必要があったーー。
「買った合計が12個でリンゴはミカンより4個多い。だったら、先にその4個分を引いて、残りを半分。で、そこにさっきの4を足せば、リンゴは8個だって仮定できるでしょ?」
「……あ、そっかぁ。それで、その数が合ってるのか合計金額の28ペンスで確認するってわけね……!」
カイルが手元のノートに数字を書き殴る。
「12足す16で……28ペンス。おい、マジかよ。一発で出たぞ!」
「ほら。簡単なやつは、先に答えの目星をつけてから、残りのヒントを使ってそれが正しいか確認した方が楽ちんでしょ?」
アリアのドヤ顔に、ルーシーが強く頷いた。
「アリアのやり方、すごく分かりやすかった!……ありがとう!」
その言葉に、アリアは静かに微笑んだ。
この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.




