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Dear.1102〜咎人と赦しの聖女〜  作者: 座良 あかね


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第四章BAD GIRL〜ep7「マザー・ドリスは、静かに口を開いた。」〜

※登場人物紹介※

本作に登場する人物の簡単な紹介です。

本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。


アリア・ゴールデンベリル

サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。


レヴィ・ラルド

サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。


アレクサンダー・オブシディアン

サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた(ポゼスト)悪霊(フィーンド)の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。


パトリシア・オブシディアン

CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。


ドリス・ブラウン

サザーク聖十字架修道院の修道院長(マザー・アベス)。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。


ウィリアムズ・ヘイズ

CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。


ヨーゼフ

マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を駆使し武器や道具を提供する。その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。

++++++++++++++++++++++++++++


21時45分。

ロンドン・ケンジントン。

ハイド・パークを一望できる、とある高級フラットの一室。


「アリアが、ヘプタと遭遇したと?」


寝室のナイトテーブルに置かれたピラミッド型の白い電話機。

パトリシアはシルクのガウンを羽織り、ベッドに座ったまま象牙色の受話器を耳に当てていた。受話器の向こうではヘイズ刑事軍曹がアリアの巻き込まれた事件について報告を受けていた。


『そうみたいッス。なんつーか、ピンク髪で左目に眼帯を付けた、天使みたいな少年だったらしいッスけど……。』


あまりにも浮世離れした報告に、受話器の向こうからも困惑の声が漏れる。

パトリシアはすっと通った顎のラインに指を添え、短く「ふむ。」と頷いた。


「……それで、アリアは?」


『被告人による外傷はありましたが、痣が残る程度の軽傷で済んだので大丈夫かと。』


「……そうか。」


短く応じたものの、パトリシアの眉間に僅かな皺が寄る。


ーレヴィの感知能力がありながら、彼がそれを防げなかった……。


パトリシアがその事態の違和感について思考を巡らせていると、ヘイズ刑事軍曹は続けて言葉を紡いだ。


『傷の手当てと取り調べ終わった頃には日も暮れてたんで、嬢ちゃんを修道院まで送ろうかと車を回しに行ったんすよ。そしたら、その間に修道服を着た若い男が慌てた様子で迎えに来てたそうで。ーー』


ヘイズ刑事軍曹はそこで妙な間を置いて、独り言のようにボソリと呟いた。


『……でも、不思議なことに。それがこっちのミスで、修道院には連絡すら入ってなかったって後で知ったときには、流石に驚いたっスけどね……。』


それを聞き、パトリシアは一つ確信を深めた。

やはり、レヴィの感知を外れて"空白の時間"が存在したのだ。

けれども、それがレヴィ自身の能力の問題なのか、アリアの身に起こった異変のせいなのか……。そこまでは、流石の彼女にもまだ判然としなかった。


『……その修道士って、前に嬢ちゃんと一緒だった少年ですかね。』


「だろうな。」


パトリシアは断定するように短く答えた。

何の情報もなく彼女の元へと辿り着き、なりふり構わず駆け寄る者など、この世に一人しかいない。


『警備のやつが言うには、何か熱く抱き合ってたらしいッスけど。……あの二人って付き合ってんスか?』


あまりに不意打ち過ぎる情報に、パトリシアは一瞬だけ目を見開いた。

途端、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れて、彼女は声を上げて笑い出す。


「ふふっ……そうか、"熱く"抱き合ってたのか……っ」


『そりゃあ、もう……熱烈に?そいつが言うには"禁断の愛を垣間見た気がして今年一番萌えました!"……らしいッス。』


その言葉にパトリシアはさらに笑い声をあげ、ついには腹を抱えて震え出した。


(のち)に、その警備員がアリアとレヴィの二人をモチーフにして執筆した作品が、ロンドン中で大ヒット旋風を巻き起こすことになるなんて誰も知る由もなく、しばらく続いた笑い声に、話を切り上げるタイミングを完全に見失ったヘイズ刑事軍曹は、「はぁ……」と溜息をつくと、ーー静かに受話器を置いた。


+++++++++++++++++++++++++++++++


22時05分。

サザーク聖十字架修道院・修道院長室。


「落ち着きなさい、マスター・アレクサンダー。」


アリアの報告を受けたマザー・ドリスは、机に向かったまま淡々と書類をまとめていた。


「落ち着いてますよ。」


修道院長室の応接ソファーに深く腰をかけ、アレクサンダーは静かに言葉を返した。

すると、マザー・ドリスは困ったように眉間を押さえ、「はぁ…。」と小さく溜息をついた。


「……普段、聖人のような穏やかな顔をした貴方が、パトリシアのような顔つきになるときは、決まって憤りを感じているときなのですよ。」


「えっ」


自分でも気付かなかった癖を指摘され、アレクサンダーはいつもの柔らかい表情に戻ると同時に、動揺のあまり声が裏返ってしまう。


「お気持ちは分かります。ですが、終わったことを嘆いていても仕方ありません。結果的にアリアは無事に帰って来たのですから。現時点で私たちのすべきことは、過去ではなく、この先の未来に備えることです。」


「……はい。」


実に真っ当な意見に、アレクサンダーはシュンと肩を落とした。


姉であるパトリシアを狼とするなら、アレクサンダーは飼い慣らされた猟犬といったところだろうか。


普段は人当たりもよく、どこかの誰かさんと違って真面目に実務をこなす彼だが、時折見せる飢えたケモノのような目をする時の彼は、姉と同様、本当に手が付けられない。


けれども最近は、幸いなことに教育者としての立場が彼の暴走を抑えているーー。そう思えたマザー・ドリスは、静かに口を開いた。


この作品はフィクションです。

作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。

This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.

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