第四章BAD GIRL〜ep6「……そうだな。帰ろう、僕たちのホームへ。」〜
※登場人物紹介※
本作に登場する人物の簡単な紹介です。
本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
アリア・ゴールデンベリル
サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。
レヴィ・ラルド
サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。
アレクサンダー・オブシディアン
サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた人や悪霊の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。
パトリシア・オブシディアン
CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。
ドリス・ブラウン
サザーク聖十字架修道院の修道院長。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。
ウィリアムズ・ヘイズ
CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。
ヨーゼフ
マジシャンを思わせる奇抜な衣装に身を包んだ、正体不明の技術者。
アリアやレヴィに対し、高度な科学技術を操り武器や道具を提供する。
その技術や、目的、素顔についてはすべて謎に包まれており、アリアやレヴィ、修道院の面々ですら全容を把握していない。
アリアは近くにあった、ありったけの紐と鎖をかき集め、未だ失神している女が逃げられないよう雁字搦めに縛り上げた。
「……ふぅ。お願いだから、もぅちょいそのまま大人しく寝ててよねー。」
そして、各部屋に閉じ込められていた女性たちを解放すべく、アリアは急ぎ足でその場を後にするーー。
「……うぅッ!……」
最初に入った部屋では、一人目の女性が猿轡を嵌められ、椅子に縛り付けられていた。アリアは「もう、大丈夫よ。」と優しく声を声を掛けながら、手早くその拘束を解いていった。 そして……ーー
タン、タタン、タン、タタン
タン、タタン、タタン
タン……ガチャ…
一人目の女性と一緒に、アリアは次の部屋の扉を開ける……ーー。
「…きゃ!」
「………ッ!」
ぐったりとして動かない二人目の姿に、アリアは慌てて駆け寄る。小窓の柵から伸びる鎖に繋がれた彼女の身体は、痣だらけで今にも崩れ落ちそうだった。
だが、向けられた瞳には「生きてやるんだ」と、まだ強い意志の光が宿っている。
アリアは「頑張ったわね」と彼女を強く抱きしめると、あの女から奪い取っていた鍵を差し込み、重い鎖から彼女を解放した。
「大、丈夫……まだ動ける」
二人目の女性がそう呟き、一人目の肩を借りて立ち上がる。彼女たちを連れて、アリアはさらに奥の部屋へと向かった。
「……けて!……助けて…ッ!」
悲痛な叫び声に導かれるようにして一つの部屋へと辿り着く。扉を開けると、そこにはベッドの柵に鎖で繋がれた三人目の女性の姿があった。
「…は、……あぁ。…よか、よかった……ぁ」
緊張の糸が解けたのか、彼女は口元を震わせながら大粒の涙を流した。
それに引きづられるようにして、一人目と二人目の女性も涙を浮かべながら、三人目の彼女を優しく抱擁する。
アリアはその間に鎖を解き、彼女を自由にした。
だが、その後も異様な光景は続いたーー。
四人目は、ソファーごと雁字搦めに縛り付けられ、……
五人目は人間が入るほどの巨大な空の水槽に閉じ込められていた。
そして、六人目は全身を鎖で巻かれ、冷たい浴槽の中に放り込まれていた。
「……やっぱり、イカれてるわね。」
そう呟くと、アリアは解放した女性たちを連れて屋敷の外へと案内する。
「……あなたも早く!」
屋敷の門の内側で足を止めたアリアに気付き、一人目の女性が声を掛ける。
「私は、まだここで"取り残された人たち"を助けなきゃ。」
アリアはそう言うと、少し哀しそうに微笑んでみせた。
「取り残された…って…他に生存者はいねぇよ。…あのイカれ女以外な。」
「そうね。……でも、私が助けるのは生きてる人たちだけじゃないのよ。」
アリアの胸元で静かに光る十字架を見て、女性たちは理解した。この屋敷には常に血の匂いが漂っていた。自分たちのものではないその生々しい悪臭が、これまでここで行われたであろう悲劇を痛烈に物語っていた。
きっと彼女は"その人たち"をも助けようとしているのだ、と。
「そうか。…気を付けろよ、シスター。」
「必ず、警察呼んで助けに来ます!」
「無茶しないでッ!」
「このお礼は必ずしますッ、だからご無事で!」
「うぅ〜やっぱり、私も残って手伝うわ!」
「馬鹿ね、まともに動けない私たちが残ってたって足手まといなだけよ。冷静になりなさい。」
賑やかな彼女たちのやり取りを見て、アリアは堪えきれずに吹き出した。
「アハハ、あなたたち意外と元気そうね!よかったわ!」
アリアは「手伝う!」と意気込んでくれた、自分と歳の近そうな少女の前でグッと親指を立ててみせた。
「気持ちは嬉しいけれど、そこのお姉さんの言う通りよ。今は自分の体を労わってあげて。私は大丈夫だから!」
「……わかりました。……どうか、ご無理はせずッ、危なかったら逃げて下さいね?……」
「わかったわ。……ありがとう。」
今度こそ女性たちの後ろ姿を見送ると、アリアは屋敷の方へと向き直り、庭の中央へと歩みを進めた。
「……ごめんなさい、待たせてしまったわね。」
その言葉をを合図にするかのように、厚い雲の隙間からアリアのもとへ一筋の光が差し込んだ。
「……始めましょうか。」
そして、
この空間に漂う被害者たちの魂を鎮めるため、……祈りを込めて静かに歌い始めた。
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女性たちの通報のお陰で、アリアはカサンドラを無事警察に突き出すことができた。
後に、事件を聞きつけたヘイズ刑事軍曹がアリアの元を訪れ、取り調べを引き継ぐことになった。
ジャック・ドイルの一件でこちらの事情を少なからず理解してくれている彼が担当になってくれたおかげで、アリアは煩わしい手続きをしなくて済んだ。
それでも、長い取り調べを終えて署を出る頃には、町はすっかり日も暮れて辺りは夜の寒さに包まれていた。
「…う〜…、さぶっ……」
12月の冷たい空気に身を震わせた、その時。
アリアの前に聞き慣れた温かい声が響いた。
「アリア!」
「…レヴィ…」
慌てた様子で駆け寄ると、レヴィは自分のコートを脱いでアリアの肩に優しく被せた。
「ごめん…」
「何であんたが謝るのよ」
また自分を責めるような顔をする彼に、アリアは「大丈夫だってば!」と無理にガッツポーズしてみせる。
その瞬間、ーー彼の顔色が豹変した。瞳孔が蛇のように細く形を変え、金色に鋭く輝く。
「……その包帯…、…誰に"それ"を付けられた?……」
「……あー、これ?……カサンドラって女に首を絞められたときに痣になっちゃって。……もう、何ともないわ、ただ隠してるだけよ。」
アリアはレヴィに気負わせまいと明るく振る舞うが、彼はその言葉から彼女に何が起きたのか想像して苦しそうに顔を歪めた。
「……じゃあ、これは……」
「え…」
「……君から僅かだけど、ヘプタの匂いがする」
そう言いながら、レヴィはアリアの左頬をーー壊れ物を扱うような手つきで、しかし逃がさないように親指で優しくなぞった。
「……あー、……」
レヴィに言われて、アリアはあの愛らしいピンクの悪魔の姿を思い出す。
「……何か、されなかったか……?」
アリアは、ブンブンと首を横に振った。
「むしろ、助けてもらったようなものよ。あの子がいなかったら、私、今頃あの女に"殺されてた"かもだし〜〜」
それはまさに"地雷"だった。
「……あ。」
言い切った後で、アリアは自分がやってしまったことに気づいた。
だが、時すでに遅し。
「……すまない。」
「だぁ〜〜、もう、そういう意味じゃなくて……!」
アリアは前髪をクシャクシャと両手で掻き回した。
「あ〜〜、」
これは、この男の悪い癖だ。
一旦スイッチが入ると、どう返したって「自分が悪い」のだと謝りオバケになってしまう。
「う〜〜、こっちは、"アップルパイ"を全部失って、能力まで使ったから、もう、ヘトヘトなのに〜!」
「アンタの自責沼に付き合う気力はない!」と嘆くアリアに、レヴィの眉がぴくりと動いた。
「アリア。……また、あんな"糖分の塊"のようなものを。いい加減にしないと太るぞ。」
「はぁ??」
そして、これがこの男のもう一つの悪い癖だ。
彼女に対して異様に過保護で、絶望的に空気が読めないことーー。
「……あーー、もういいや……流石に限界だわ。アンタねぇ、マジで後で覚えときなさ…ーーー」
アリアが言い終わるより先に、レヴィが彼女の身体を力強く抱き寄せた。
「……無事でよかった……」
普段は「男女間の貞操が」などと口煩く説いてくる割に、こういう時に限って、彼の方から平然とその境界線を越えてくる。
けれども、今、それを指摘すれば、彼はまた慌てて離れて行ってしまうだろう。
だから、アリアは何も言わない……。
「……帰りましょ、レヴィ。ここは、寒いわ。」
自分よりも大きな背中を、宥めるようにポンポンと叩くアリア。
「……そうだな。帰ろう、僕たちのホームへ。」
レヴィはアリアを腕の中に閉じ込めたまま、静かに闇の中へと姿を消した……ーーー。
この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.




