第四章BAD GIRL〜ep4「時間はとうに過ぎているぞ。」〜
※登場人物紹介※
本作に登場する人物の簡単な紹介です。
本編をより楽しんでいただくための補足となりますので、すでに読んでくださっている方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。
アリア・ゴールデンベリル
サザーク聖十字架修道院のシスター。修道服に母親の形見である『着物』を着崩して纏い、『赦しの能力』で七つの大罪と呼ばれる脅威『ヘプタ』に立ち向かう。
レヴィ・ラルド
サザーク聖十字架修道院の修道士。元ヘプタのメンバーで組織内では『エンヴィ』と呼ばれていた。プライドの反感を買い、組織から追われることになった彼はアリアから『レヴィ』という名前を与えられ志同じく『ヘプタ』を倒すため行動を共にしている。
アレクサンダー・オブシディアン
サザーク聖十字架修道院の修練長。近年、憑かれた人や悪霊の事件にシスターや修道士が関与することがあまりにも増えてきたため、彼はせめて教え子たちが無事で帰ってこれるようにと祈りを込め、護身の術を授けている。
パトリシア・オブシディアン
CIDの刑事警部補。アレクサンダーの実姉で、切れ者のくせ者。アリアやレヴィとも関わりが深い人物。ドリス・ブラウンとは昔からの馴染みで一方的に頼りにしている。
ドリス・ブラウン
サザーク聖十字架修道院の修道院長。アリアやパトリシアに振り回され、厄介事の絶えない日々に眉間に苦労の皺を寄せるが、その実、厳しくも誠実で温厚な人。
ウィリアムズ・ヘイズ
CIDの刑事軍曹。パトリシアの部下で、彼もまた彼女に振り回され苦労している。正義感が強く優秀なのだが、唯一の欠点は『待つ』ことが出来ないこと。
無造作に開かれたままの正面玄関。
アリアは小さく一礼する。静まり返った屋敷の空気に緊張を走らせながら、彼女は慎重に中へと進んでいった。
「確か悲鳴はここから…」
屋敷内には明かりが灯っているものの、人の気配は全く感じられない。
静寂に包まれたリビングを抜けた先に、電球でも壊れているのだろうか…。一室だけがチカチカと不気味に光を放っていた。
まるで、誘われるようにその部屋へ足を踏み入れると、そこにはイーゼルに立てかけられた、一枚の厚手の更紙があった。描かれているのは、恐らくこの屋敷の見取り図。そして、その各部屋を示す場所には、6人の女性の写真が一人ずつ、丁寧に貼り付けられている。
「な、何よこれ…」
これが計画的な犯行だと直感で理解したアリアは、流石に自分一人では手に負えないと判断し、すぐさま助けを呼ぶべく踵を返した。ーーその刹那。
「あら?あら?いけない子ね〜」
背後から突如現れた声の主はアリアを見て不敵に微笑んだ。直後、凄まじい衝撃とともにアリアの体は強く壁に叩きつけられていた。
「ぅぐッ!」
壁に叩きつけられた衝撃で、アリアは口の中を切った。
口の端から溢れた血を手の甲で無造作に拭いながら、彼女は目の前の女を鋭く睨み据えて言い放つ。
「…この力、その目の烙印…あんた、ポゼストね。」
頬に伝う汗が焦りを滲ませ、アリアは厄介そうに眉を寄せる。
目の前の褐色の女の右目には、自分のものとは似て非なる形をした烙印が不気味な光を放ち刻み込まれていた。
「あら?変な格好で分からなかったけど、そのロザリオ…あなたシスターね。」
その言葉が、アリアの逆鱗に触れた。
母の形見である着物を『変な格好』と言われたことに、先ほどの焦りはどこへやら、彼女の瞳には煮えくり返るような怒りの色が宿った。
「…だったら、何?悔い改めて懺悔でもしてみる?今なら許してあげるわ。」
「やっぱり変な子ね。どうして私が懺悔なんかしなくちゃいけないのよ。明日はクリスマスよ!私は可哀想なあなたたちにプレゼントをしてあげようと思っていたのに。」
まったく悪びれた様子のない女の物言いに、アリアは半ば呆れたように言葉を返す。
「はぁ、プレゼント?今から何をするつもりなのか知らないし聞く気もないけど、あんな風に拉致っておいて個室に閉じ込めてる時点で異常なのよ。あんた、"頭おかしい"んじゃない?」
吐き捨てるようなその一言が、今度は彼女の逆鱗に触れた。
「私の頭がおかしいですって?!小娘ぇ!よくも私の髪型をバカにして!」
瞬時に間合いを詰められると、女はアリアの細い首を片手で鷲掴みにした。そのまま逃げ場を塞ぐように、再び壁へと押し込まれる。
「ぐっ、」
喉を締め上げる指の力に、アリアの視界がチカチカと火花を散らし始める。
「みーんな、この髪型の良さを知らないだけよ!可哀想に!だから、私が教えてあげるの!今からこの屋敷に火をつけて、みーんな私と同じになるの!」
「狂ってる…」
首にかかった女の手を引き剥がそうと、両手で必死に力を振り絞る。だが、やはりーー"今の自分"ではどうにもできない事実を知る。
「アナタも特別に混ぜてあげる♡」
その言葉に、アリアはフッと乾いた笑いを零した。
「じょ、冗談…」
そして、遠のく意識の中で、アリアは女の記憶にダイブする。
ーーこの世は多数決だ。
ーー少数派は多数派によって、ただそこに在るだけで排除される。
ーー肌の色や髪の質…そんな違いで平気で他人をなぶりものにする。
ーー本当…この世界は反吐が出るほど救いがない。
当時、ロンドンに住む黒人の多くは、元船乗りや旧植民地から来た人々だった。大人でも職業や階級の壁に阻まれ苦悩する中、善悪の区別が曖昧な子どもたちは、さらに残酷だった。剥き出しの好奇と嘲笑を向け、彼らにとっては遊び同然の『いじめ』に及ぶことが日常茶飯事だった。
ーー「そんなチリチリ頭に黒い肌をして、太陽にでも焼かれたの?」
ーー「汚れが落ちていないのかと、思ったよ。」
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇええ!
ーーそんなに、私が珍しいのなら…いっそ皆、私と同じ姿にしてあげるわ!!!
これが彼女の歪んだ行動の動機なのだろうか。そんな心の声をぼんやりと聞き流していると、その濁った音を遮るように、どこからともなく温かく優しい声が響いた。
「ーーンドラ、ーーサンドラ、大丈夫かい?」
目を開けると、そこには彼女と同じ肌と髪をした女性が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「……ママ?」
周囲を見回すと、幼い彼女は病室のベットの上にいた。
「あぁ、良かった…!階段から落ちたって先生から聞いて、…心配したのよ…!」
目に大粒の涙を溜めながら、母親は優しく彼女を抱きしめる。
その温もりに包まれながら、しかし幼い彼女は母親にあまりにも酷な質問を投げかける。
「ねぇ、ママ。どうして、私を他の子たちみたいに……白くて綺麗なブロンドの女の子に産んでくれなかったの?」
その言葉に母親の顔が一気に曇った。娘がなぜ頻繁に怪我をして帰ってくるのかーーその残酷な理由を悟ったのだ。母親は震える腕で再び我が子を抱きしめると、「ごめんね。」と繰り返した。何度も……何度も……。
「ごめんね、ーーーカサンドラ。」
ーー突如として、女の絶叫が響き渡った。
意識が強制的に現実へと引き戻されたアリアの視界に入ったのは、自分の首を絞めていたはずの腕が地面に落ちる瞬間だった。ボトっと重たい音を立てて肉塊が地面に転がる。そこから導火線のように伸びた血の先では、右腕を抑えた女が尋常じゃない汗をかきながら苦しそうにのた打ち回っている。
「いア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
「…かはっ、」
アリアの体は重力に従って壁を滑り落ちる。
ーー膝をついて両手を地面につけるとアリアは激しく咳き込んだ。
「どうしてッ…!『約束』は死後のはずでしょ……ッ!」
アリアは呼吸を整えながら、まだ少しぼやけた視界で女の方へ目を向けると、そこには第三者の後ろ姿があった。
「何を言っている。」
少し癖っ毛のあるミルキーピンクのショートヘアに、そのぶっきらぼうな口調。
「時間はとうに過ぎているぞ。」
間違いない。屋敷の入り口で出会った、左目に眼帯を付けたあの少年だ。
この作品はフィクションです。
作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。
This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.
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