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Dear.1102〜咎人と赦しの聖女〜  作者: 座良 あかね


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第三章レヴィの煩悶〜ep5「貴女が面白がりたいだけでしょう。」〜

++登場人物++


【アリア・ゴールデンベリル】

サザーク聖十字架修道院のシスター。黒の修道服の上から白地に赤い彼岸花が描かれている着物を片肌脱ぎと、何とも奇抜な格好をした少女。


【レヴィ・ラルド】

ヘプタと呼ばれる七つの大罪組織内ではエンヴィと呼ばれていた。

今はヘプタを離脱して、アリアから名前を貰いオブレートとして行動を共にしている。


【アレクサンダー・オブシディアン】

サザーク聖十字架修道院の修練長。サザーク聖十字架修道院が"戦う"と云われる所以を作った人物。


【パトリシア・オブシディアン】

CIDの刑事警部補。サザーク聖十字架修道院に所属するアレクサンダーの姉であり、アリアやレヴィとも仲が良い。


【ウィリアムズ・ヘイズ】

CIDの刑事軍曹。待つこと以外基本優秀。パトリシアの後輩で、よくオモチャにされて遊ばれている。

「お、どうやら終わったようだな。」


パトリシアの言葉に反応して、レヴィが視線を向けると、バイアス・カットのペールグリーンのイブニングドレスを纏って、綺麗に着飾ったアリアが二人の元へやって来る。


「姉さま、このドレス本当に貰っていいの?」


雑誌やテレビでしかみることない細かい装飾を施されたドレスにアリアは嬉しいけれど、どうしたらいいか分からないといった表情でパトリシアを見上げる。


「勿論だ。...よく似合っている。」


アリアはその言葉を聞くと、「ありがとう、姉さま!」とパトリシアに抱き着いては、とても愛らしい天使のような笑顔を向けた。


「...ふ、」


その笑顔に連られ、パトリシアも珍しく、人間味溢れる温かみのある表情で微笑んだ。


そして、暫くするとその愛らしい天使は、レヴィの元へと向かった。


歩くたびにスカートの裾が広がり、優雅なドレープがこの時代の華やかさを象徴していた。


「どう?」とアリアは回って見せる。


普段は、ゴーグルが落ちないようにとツインテールや両サイドで団子を作って纏めている髪をうなじの付け根付近にに結び目を持ってくるようにしてロースタイルに一つに纏めると、首ラインから背中へのラインが長くエレガントに描かれ、背中の大胆な露出が、当時のハリウッド女優を思わせる、なんとも魅惑的でセクシーなスタイルを醸し出していた。

「......。」


あまりにも露出部分が多いことに気を取られ、何も言わずじっとアリアのドレスを眺めていると、痺れを切らしたアリアが「黙ってないで何か言いなさいよ!」と拗ね始めた。


すると、レヴィは「...あ、あぁ、すまない。」と持っていたスーツのジャケットをアリアの肩に掛け羽織らせると、「大丈夫か、寒くないか。」と的外れなことを言ってくる。普段は察しの良い彼も何故かアリアのこととなると途端に鈍くなってしまう。


「そうじゃなくて!もっとこう..."素敵だ"とか"綺麗だね"とか私とかドレス見て色々言うことあるでしょーに。」


アリアはそうは言いながらも、館内に暖房がついているとはいえ、少し肌寒かったのかレヴィのジャケットをギュッと握りしめていた。


「...あぁ、とても綺麗だよ。」


「...え?」


自ら望んでいた言葉ではあるが、あまりにも彼が自然な流れで紡ぐその言葉にアリアは一瞬ドキッとした。


「喋らなけば、まるで淑女のようだ。」


この悪びれた様子の一切ない笑顔に、だんだんと腹が立ってきたアリアは、ヒールで思いっきり彼の脛を蹴ると、フンと鼻を鳴らして装飾品の並んだコーナーへと(うずくま)る彼を背にスタスタと歩いて行った。


「お前は、アリアを怒らせる天才だな。」


「......う、」


珍しく、ぐうの音も出ないのか、レヴィは溜息をついて項垂(うなだ)れた。


「...しかし、まぁ、何というか、」


パトリシアは、装飾品を物珍しそうに見ているアリアの身体をジッと見つめ、自分の顎を指で摩りながら、「前よりだいぶ豊かになったな。特に胸とお尻。」と呟いた。


それを近くで聞き逃さなかったレヴィは、「貴女の方が大概じゃないですか。」と、未だに項垂れながら言い返した。



何やら話が盛り上がっている二人を他所に、アリアはというと、女性用のアクセサリーではなく、男性が身嗜みを整える為に必要なカフスボタンを眺めていた。


カフスボタンとは、フレンチカフと呼ばれる袖口を折り返すデザインのシャツや、特別なボタン穴が開いたシャツでのみ使用できる装飾品のことで、

1930年代のロンドンでは、特に中流階級以上の男性にとって、身分を表す重要なアクセサリーであり、贈り物としても定番の品だった。


特に、アリアが最初に一目惚れしたのは、自分のファミリーネームである黄金色の美しい色合いを持つ"ゴールデンベリル"の宝石が使用されたカフスボタンだった。


「うわ...高っ...」


15ポンドというロンドンの単純労働者の1ヶ月分ぐらいの給料と同じぐらいの価格に、アリアは思わず声を上げた。


「ミス、何か特にご覧になっているものがおありでしょうか。」


暫くして、アリアが立ち止まって商品を眺めていることに気付いた女性スタッフが彼女の元に歩み寄り丁寧に声を掛ける。


「ああ、いえ、ただ見ているだけです。」


「かしこまりました、ミス。ですがもし、もう少しお手頃な価格でお探しでしたら、似たお品もございますよ。」


「えっ?」


とても綺麗な所作で、女性スタッフは近くの棚から別の商品を取り出すと、その品をアリアの前で広げて見せた。


「こちらは純銀で台座を組んでおります。石に天然の混ざりインクルージョンがございますが、お色は変わらず立派でございます。こちらは二ポンドでございます。」


「二ポンド? それならずっと良いわ! 」


「まったくでございます、ミス。心のこもった贈り物は、高価なものより価値があるものでございます。」


女性スタッフの気遣いが嬉しくて、アリアはキャッキャとはしゃぎながら、どこからともなく財布を取り出した。


「ご親切にありがとう。これをペアで頂けるかしら。」


「...か、かしこまりました。」


先程まで身軽な状態で商品を眺めていた彼女のどこから財布が出てきたのか、女性スタッフは少し気になりながらも「それでは、こちらへ。」とレジへと誘導した後、「お包みいたしますね。」とこれまた丁寧に包装してくれた。



その頃、レヴィとパトリシアは...というと。


「うん。この芳醇な余韻が、今の季節にはピッタリだな。」


「気に入って頂けて光栄でございます。宜しければこちらも是非お試し下さいませ。」


ワインやスピリッツのセクションで熟練したスタッフと対話しながら、試飲を楽しんでいた。


「どうだ?」


グラスを傾け少し考え込むようにしてワインを眺めているレヴィに、パトリシアは訊いた。


「かなりタンニン強めですね。でも味わいはしっかりしてて美味しいです。」


「ほう、趣味が合うな。申し訳ない、このワインを一本頼めるかな。」


流石、公爵家のご令嬢。どんな上客であっても本来ならば言葉を崩すことは配慮を欠く行為だと見なされるのだが、ここの従業員が気にしない辺り、それだけの関係性があるのだろうと窺える。


「かしこまりました。すぐにお包みいたします。」


スタッフがカウンターの奥で包み終えるのを待ちながら、パトリシアはグラスに残ったワインを一気に飲み干した。


「お前も大変だなぁ。」


「...何がですか。」


急に何を言い出すのかとレヴィは一瞬、眉を顰めた。


「アリアは間違いなくこの先、月も恥じらうほどの...なんだっけな。」


「何が言いたいんですか。」


先程からワインを馬鹿ほど試飲し過ぎて、軽く酔ってしまったのか彼女が珍しく言葉を詰まらせた。


「アレクがこう...何か言ってたんだが...ダメだ思い出せん。...まあ、いいか。」


そう言うと、パトリシアはレヴィに向かって指を差す。


「このままモタついてると、その内、本当に誰かにアリアを奪われてしまうぞ?...お前は、それでいいのか?」


「...まるで、僕が彼女に好意を寄せているみたいな言い方をしますね。」


「違うのか?」


「...だとしても、ヘプタである僕にはその資格がない。」


彼のいつもの悪い癖が出ると、「ハッ、馬鹿馬鹿しい。」とパトリシアは両手を広げて見せた。


「それは一般論だろ。大事なのはお互いの気持ちだ。想っているのなら伝えろ。これは私からのアドバイスだ。」


「...なんで僕なんかにそんなこと」


「なんでと言われても...決めるのは彼女だ。私はアリアに...心から幸せになって欲しいと思ってる。彼女が笑ってくれるなら正直相手が誰だろうと構わない。お前は自分が人間じゃないからと勝手に線引きをしているようだが」


話している間に酔いが覚めてきたのか、パトリシアの言動がだんだんと通常運転に戻ってきた。



「そもそも、その人間という定義が曖昧なんだ。お前が化け物かと言われると私も正直よく分からん。こうして話しているとお前だって、弟のアレクと対して違いはない。長年生きてきたんだろうが、人と歩むということを決意したのはアリアと出逢ってからなのだろう。それなら、レヴィとしての時間がお前のスタートだ。だとしたら、お前にもその資格とやらはあるんじゃないのか?」



「......。」


「...ま、お前が選ばれるとも限らないんだ。男なら、ドンと当たって砕けてみせろ。」


「貴女が面白がりたいだけでしょう。」


こうして、二人がひとしきり話し終えた頃に、カウンターの奥からスタッフが包装されたワインを丁寧にパトリシアに渡していく。



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++

この作品はフィクションです。

作中の地名、施設名、団体名はすべて架空のものであるか、あるいは実在のものを部分的に参考にしています。登場する人物や出来事は、すべて架空のものです。

This work is a work of fiction. Names of places, facilities, and organizations are either fictional or partially based on real ones. All characters and events depicted in this work are entirely fictional.

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