日記のはじまり
最初のページの日付はかすれていて、年の数字はもう判別できなかった。
けれど、月と日だけはどうにか読み取れる。
五月二十日。日曜日。 午前6時ごろに起きた。天気は曇り。
今日から、この日記をつけてみることにする。 初めてだから、うまく書けないかもしれない。文章 も固くなったり、おかしくなったりすると思う。
でも私の日記なんだから、私なりに書けばいい。
いつも通り、壁に残された古い警報システムが、今はただの目覚 まし代わりに鈍い鐘の音を響かせている。
この建物は、もともと実験施設に付属していた、シェターだと聞いている。
分厚い扉や監視用の窓はその名残で、無骨さの中に どこか不気味な整然さがある
起きたあとには共同体の浴場に行った。
壁のタイトルの一部は剥がれていたけれど、浴場の水はたっぷりと使われていた。
湯気が立ちこめ、金属の壁が白く霞んで見える。蛍光灯の光は少しちらつき、湯面を鈍く反射させてい た。
浴場は男女で分けられており、壁と通路で仕切られ ている。豪華な造りではなく、コンクリートの床に大きな板の仕切りがあるだけだったけれど、それでも規律は守られていた。
湯船にはすでに何人かが入っていて、笑い声や世間 話が響いていた。子どもたちの声も混じり、天井に 反射して柔らかく広がっていく。
人口は二百五十人ほどの共同体だけれど、こうして誰 かと顔を合わせると、まだ街が生きている気がす る。
今夜は、よく眠れそうだ。




