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第9話 破邪ブレード

 立ち上がることのできないリシェルをおいしい獲物と認識して、にたにたと笑いながら迫ってくるゴブリン。

 そしてそんなゴブリンに怯えて、ただただ手足をばたつかせるリシェル。


「ゴギャッ、ゴギャギャギャ」

「あわっ…わ……」


 そしてついに、ゴブリンがリシェルの目の前まで迫ってきたそのとき。

 リシェルが手をばたつかせていたことにより、リシェルが手に持っていた剣の切っ先が、ほんの少しだけゴブリンの脚をかすめたのである。


 すると、突然ゴブリンはその場でばたんと倒れこんでしまった。

 リシェルは何でこんなことになっているのかが理解できず、きょとんとしている様子。フルフェイスの兜で顔はよくわからないが。


 そしてそんなリシェルとゴブリンの様子を後方で眺めていたゼノが、倒れているゴブリンのもとまでやって来て、その体を調べだす。

 すると……


「傷はこの小さな脚の傷だけなのに、完全に息絶えているな」

「え? ど…どうして?」


 何でゴブリンが死んでいるのかがわからないリシェルは、ゼノにそう尋ねた。

 すると返ってきた答えというのは…


「これが勇者の力、破邪の魔力の効果というものだろ」

「???」


 まだ理解が追い付いていないリシェルに、ゼノは説明をする。


「この鎧は装備者の魔力を自動的に吸い取って、その魔力を動力にして動いている。そしてこの鎧には、吸い取った魔力の内の一部を手にした武器にまとわせる効果が備わっている」


 つまり、ゴブリンがほんの小さな傷ひとつで倒れたのは、破邪の魔力をまとった剣で斬られたから…ということである。


「さすが勇者。いくら相手がただのゴブリンとはいえ、これほどの力とは恐れ入った。……よし、もうあと二~三体倒して破邪の魔力の効果を検証してみることにしよう」


 しかしそんなことを言われても、リシェルは倒れたままで起き上がることが出来ない。

 するとゼノはリシェルの着ている鎧に手をかざし、何かの錬金術を発動させた模様。


「動きが速すぎて制御がきかんのか。ならば……」


 ゼノが行ったのは、鎧にに刻まれた術式を少しだけ書き換えることで、鎧の動く速度を先ほどまでよりもずっと遅くすること。


「よし、完了だ。これで動けるか?」

「え…えと、うん」


 ずっと倒れたままだったリシェルが、やっと立ち上がった。


「スピードは装備者の動きよりもほんの少しだけ速くなる程度に抑えておいた。これならさすがに、あそこまで盛大に転ぶことはないだろう」


 そう言われてリシェルがその場で足を少し動かしてみたところ、どうやら今度は転ぶことなく普通に動けているようだ。

 時々ふらつきそうになって色々と心配な感じではあるが。


「大丈夫、動ける」

「よし、ならば次の魔物を狩りに行くぞ!」

「う……」


 こうしてゼノはリシェルを連れて、次の魔物を探しに向かうのだった。




 そしてリシェルに何体かの魔物を倒させたゼノは、魔物討伐の報告のために冒険者ギルドへと向かったのだが。


「ん? ゴーレム屋のあんちゃん…ということは、そっちの小っちゃい鎧は勇者の嬢ちゃんか?」


 ゼノたちの姿に気付いたジンクがそう口にすると、この場にいた冒険者たちの大半がリシェルのもとへと集まってきた。


「なあ勇者ちゃん、大丈夫だったか?」

「ゴーレム屋に変なこととかされなかったか?」

「こいつ作る物はすごいが、何考えてんのかよくわかんねえやつだからな」

「ああ、全くだ。こいつは色々といかれてる」


 ここに集まってきた冒険者たちは、今はゼノがゴーレムを戦わせられないと知って、ここぞとばかりに好き放題言っている。


「貴様ら、くだらん法が消えた後は覚えてろよ」


 だがそう言ってきたゼノの目つきが怖かったので、冒険者たちは後のことを考えて皆口を閉じるのであった。

 しかしそんな中、一番リシェルのことを心配していたと思われる魔導師のバラッドは、念のため先ほど冒険者たちが言っていた質問を再度投げかけた。


「勇者の少女よ、本当に大丈夫だったか? 良からぬ実験に付き合わされてはいないか?」


 そう問われてリシェルの頭の中には色々なことが思い浮かんだ。

 自分の全裸状態を模した人形が作られたこととか、この全身鎧は素肌の上に直接着させられていることとか。


 しかし結構人が集まってきていて、しかもその大半が男という状況でそんなことを口にするのはあまりにも恥ずかしかったため、リシェルは結局こう答えるしかなかった。


「だ…大丈夫」

「本当に大丈夫なのか?」

「だい…じょう…ぶ……」


 フルフェイスの兜の下ではリシェルの目から光が消えているが、結局リシェルは大丈夫としか答えなかった。

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