第6話 勇者人形
ゼノは不敵な笑みを浮かべながら、手にしたねばねばな液体をリシェルの体に押し付けようと迫ってくる。
そのため、普段はあまり感情の変化を表に出さないリシェルも、さすがにこれには結構怯えている様子。
「あ…あの、これは…」
「安心しろ、この液体に害はない。これはただ型を取るためだけのものだ」
「型?」
「そうだ。これは魔物の姿を模したゴーレムを作るときに開発したものでな、この液体をまとわせた生物の形を完璧に写し取ることが出来る。そしてこれで完璧な型を取ることが出来れば、それに合わせてぴったりなサイズの装備を作れる…というわけだ」
錬金術について詳しくないリシェルには、ゼノの言ってることが本当なのかどうかよくわからないため、まだ全然安心できていない。
だがそんなことはお構いなしに、ゼノはリシェルの体にねばねばした液体をまとわりつかせていく。
「ん…んんっ…」
「大丈夫だ、害はないと言っただろ」
「んんっ……」
害はなくとも、気持ち悪いということには変わりない。
「さて、これでだいたい終わったか」
このねばねばした液体がリシェルの体を一通り包み込み、残る場所は頭部のみ。
「じゃ、数秒で終わるから、少しだけ息を止めていろ」
「ん……」
ゼノはリシェルが息を止めたのを確認すると、リシェルの頭部にもこのねばねばした液体をまとわりつかせた。
そしてすぐさま、リシェルの全身を包むこのねばねばした液体に向けて手をかざし、とある錬金術を発動させる。
すると、リシェルの体にまとわりついていたこの液体は、リシェルの体から離れて床へと落ちていった。
「終わり?」
「ああ、これで記憶は完了だ。あとはこれに、これとこれを加えて……」
ゼノはリシェルの体から離れて床に落ちているねばねばした液体に、いくつかの薬品を加えた。
そしてそれに再び手をかざし、また別の錬金術を発動させる。
すると……
「あっ!」
「どうだ、すごいだろ。これが、俺がゴーレム作りのために開発した錬金術のうちの一つだ」
床に落ちていたねばねばした液体は、まるでリシェルの姿形をそっくりそのまま写し取ったかのような形へと変わっていき、そして完璧にリシェルの姿を再現したところで固まった。
そう、精巧な1/1スケール勇者人形完成である。ただし全裸状態の。
「っ!」
リシェルは慌ててゼノと人形との間に割って入っていった。
そしてゼノに尋ねる。
「ど…どうして、裸?」
「これは生物の姿形のみを写し取り再現する錬金術だからな。衣服は再現されない。だが、これは装備のサイズを合わせるための人形なのだから、これで問題ないだろう。服などじゃまだ」
そう、この人形に合わせて装備を作ることで、リシェルの体にぴったりなサイズの装備を作る…というのが今回の目的である。
ゆえにゼノの言っていることは正しい…が、さすがに自分の全裸状態を模した人形を見られるのは、十五歳の少女にとってはものすごく恥ずかしい。
よってリシェルは、必死にゼノの視界を遮ろうとしている。
「どくんだ、リシェル。これでは装備が作れないじゃないか」
「でも…でも…」
「この人形は、完璧なサイズの装備を作るために絶対に必要なものなのだぞ。それにこれはあくまで人形。実際に裸を見られるわけではない」
「う……。じゃあ、変な目で見ない?」
そうリシェルに問われて、ゼノは少し考えこむ。
そして……
「まあ、無理だな。すごくエロくていい体だし」
ゼノは正直に答えた。
なお、リシェルのような幼い体つきのほうが、ゼノの好みである。
だが、さすがにあんな発言をされてしまっては、リシェルもおとなしく黙っているわけにはいかず、非力なか細い腕でゼノの体をぽかぽかと叩きまくるのであった。
「んーっ!」
「いったい何がしたいんだ?」
もちろん、ゼノには一切何も効いていないのだが。
その後、二人の間で話し合った結果、拙速案としてとりあえず、この人形にはリシェルが所持していた下着を身に着けさせることとなった。
だが身に付けさせたのが本物のリシェルの下着であるため、これはかえって卑猥になったのではないだろうか?…と思うゼノであった。