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第5話 うかつな大賢者

 これは今から数年ほど前、王宮に仕える大賢者ヴィルヘルムが、アガイという小さな田舎町に立ち寄ったときの出来事である。


「むっ、これは!」

「どうかしましたか?ヴィルヘルム様」

「あの家から、とてつもない魔力を感じる」

「魔力…ですか? 自分には一切何も感じられませんけど」

「他人の魔力を感じ取ることが出来るのは、魔導師の中でもごく一部の者だけだからのう。兵士のおぬしが分からんのも無理はないわい」

「はあ……」


 それからヴィルヘルムと護衛の兵士は、そのとてつもない魔力の持ち主がいる家へと向かった。


「このすさまじい魔力量、いったいどんな者なのか楽しみじゃわい」

「そんなにすごいんですか?」

「ああ。このわしすらをも超えるレベルかもしれんからのう」


 そして二人がその家の前までやってくると、早速護衛の兵士が扉をたたいた


「あの、ごめんください。どなたか…」


 すると、家の中から出てきたのはずいぶんと小柄な銀髪の少女であった。


「……お客さん?」


 そのか細く小柄な幼い少女の姿を見て、さすがにこの子ではないなと確信した護衛の兵士はこの少女に尋ねた。


「ねえ、この家、今は他に誰かいないかな? すごく強い魔法が使える人とか…」


 だがその問いに対して、少女は首を横に振っている。


「ううん」

「あれ、おっかしいなー。いくらなんでも、ヴィルヘルム様が間違えるとは思えないし……。あの、ヴィルヘルム様…」

「この子じゃ」

「え?」

「この子がその魔力の持ち主じゃ。しかもこの子の魔力、まるで眼が眩むほどにまぶしく光り輝いておる」

「……んー、何も見えませんけど」

「当たり前じゃ。魔力そのものを視認できる人間など、片手で数えられるほどにしかおらんからのう。だがこの輝きは、間違いなく破邪の性質を持つ魔力」


 破邪の魔力とは、魔物が体内に秘める邪悪な魔力…瘴気を打ち消す魔力であり、その破邪の魔力を持つ者は勇者と呼ばれる。


「じゃあヴィルヘルム様、この子は…」

「うむ。もしかするとこの子は、アルフレッドやロザリーを超える、とんでもない逸材かもしれぬ。のう少女よ、おぬしの名は?」

「リシェル」

「年はいくつじゃ?」

「十二歳」

「ふむ、やはりまだ冒険者になれるような年齢ではなかったか」


 この国では破邪の魔力の持ち主…勇者は、必ず冒険者として登録するよう国の法で定められている。

 だが冒険者として登録できるのは十五歳からで、リシェルはまだそれに達していない。

 そこでヴィルヘルムは、この場で一枚の紙に何かを書いて、それをリシェルに差し出した。


「リシェルよ、十五歳になったらこの紹介状を持って冒険者ギルドに登録しに来たまえ」

「……どうして?」

「おぬしが破邪の魔力の持ち主だからだ」


 そうヴィルヘルムに告げられたリシェルは、真剣な目つきでじっとヴィルヘルムの顔を見つめているようである。

 そしてそんなリシェルの様子から、自分の言いたいことは全て伝わった…と、ヴィルヘルムは思ったようだ。


 しかし、このときリシェルには一切何も伝わってはいなかった。

 この町周辺は魔物の出現も少なく平和なため、魔物や勇者に関する話が出ることもあまりなく、リシェルは破邪の魔力というものが何なのかを全く知らない。


 先ほどリシェルがヴィルヘルムの顔を真剣な目つきで見ていたのは、ただ単にリシェルは表情の変化が乏しい子であったため、この人何が言いたいんだろう?…と思ってヴィルヘルムの顔を見ていたのを、勝手にヴィルヘルムが勘違いしただけである。


「ではリシェルよ、三年後を楽しみにしておるぞ」


 そしてヴィルヘルムは重要なことを何も伝えられないまま、護衛の兵士と共に帰っていってしまった。

 その結果、自分が勇者であるということを全く知らないリシェルは、体を鍛えることも魔法について学ぶこともなく、ただの町娘として数年の時を過ごすことに。


 ただ、賢者という偉い人が冒険者ギルドに登録するよう言っていたことだけは理解していたため、十五歳の誕生日を迎えたリシェルは、この町から一番近くにある、冒険者ギルドのある町へと向かうことにしたのだった。




 そしてフィルドルブの町の冒険者ギルドへとやって来たリシェルは、そこで初めて自分が勇者であるということを知り、ゴーレム技師を名乗るゼノという男に連れ去られてしまう羽目となった。


 ここはゼノの家兼工房。

 周囲には、これまでゼノが作ったと思われる多数のゴーレムや、錬金術に使用する様々な素材などが所狭しと置かれている。


 そんな中で、ゼノはどこからか大量のねばねばした液体を持ってきて、それを手に取りながら不敵な笑みを浮かべる。


「フフフ…。勇者の少女よ、名前は何だったか…」

「リ…シェル…」

「そうか。ではリシェルよ、早速勇者の装備作りを始めようじゃないか。これを使ってな」

「あ…あうぅっ……」


 ねばねばした気持ち悪い液体を近づけられて、リシェルは絶体絶命のピンチ…なのかもしれない。

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