第32話 暗闇の一撃
今回の戦いは対人戦であるため、リシェルが今手にしているのは破邪の力を放出する魔法剣ではなく普通の剣。
リシェルはその剣を振り回して、武器を失ってしまったロベルトに攻撃を仕掛けていく。
リシェルの放つ攻撃は、鎧の力で多少スピードが上がっている程度の素人剣術。
ゆえにこの程度の攻撃ならば、武器を失った状態のロベルトでも簡単に回避できるはず…なのだが、どこかロベルトの動きがぎこちない。
そしてその理由に最初に気づいたのはクレアであった。
「ロベルトくん、あの子のスカートにやられてるね。短くてひらひら揺れるスカートに」
「ああ、あいつむっつりのくせにクソ真面目気取ってるからな」
「あたしもローブの丈なんとかならないのかってよく言われたし。そんなに短くないのに」
ロベルトがリシェルの動きをその目でよく見ようとすると、どうしても見えるか見えないかギリギリな感じで揺れる短いスカートが、ロベルトの目に映りこんでしまう。
そしてそのスカートから目をそらそうとすれば、リシェルの攻撃をしっかりとその目で捉えることは出来ず、雑な回避の仕方になってしまう。
そんな二人の戦いを眺めるゼノは、勝ち誇った顔をしながらつぶやいた。
「全て計算通り。俺は対人戦でのこういう場面を想定して、あのちょうどいい感じに揺れるスカートを設計したのさ」
「いや、どう考えても後付けだろ、それ」
「ただのゴーレムさんの趣味でしょ」
すぐさまジンクとルルカから突っ込みが入ったのは言うまでもない。
ただこのスカートは、見えそうでギリギリ見えないように調整されているため、実際にはロベルトがそこまで気にする必要もないのだが、戦闘中のロベルトはそんなことを知らないため、ついつい揺れ動くスカートに目を奪われてしまう本能と、絶対に見てはいけないと目をそらそうとする理性との葛藤で、精神がどんどんとすり減っていく。
その結果、普段は冷静なはずのロベルトが、思考能力を大きく奪われてしまい、ものすごくアホな行動に出てしまった。
「もう、惑わされはしない。これでどうだ!」
ロベルトは目を閉じて、心の目でリシェルの動きを捉える策に出たようだ。
これならば揺れ動く短いスカートに惑わされることなく、リシェルの攻撃に対応できる…つもりのようだが、そんな修業は一切やっていないので、何も見えるはずはない。
「さあ、どこからでも来るがいい」
ロベルトがそう言うので、リシェルは足音を消してロベルトの横に回り込んでみた。
当然何も見えていないロベルトは、リシェルのいるほうに体の向きを変えることもなく、これはリシェルにとって最大の好機。
リシェルは手にしていた剣を逆手に持ち替えると、その剣の柄尻で、ロベルトの横っ腹を思いっきり突いた。
「えいっ!」
「ぐはぁっ!」
リシェルが着ている鎧は、今のリシェルの感覚でもついていけるよう、スピードは普段の動きよりほんの少し速い程度に抑えられているが、パワーのほうは特に何の制限もされていないため、この突きはロベルトの横っ腹にすさまじい圧力をかけ、ロベルトを悶絶させた。
「う…あ…がっ……」
ロベルト、撃沈。
どうやら完全に戦闘不能なようである。
「えー、ロベルトさんは起き上がれそうにない様子なので、第二試合、勝者、勇者リシェル!」
こうして第二試合目はリシェルの勝利で幕を閉じた。
その後ゼノたちの所へと戻って来たリシェルは、表情の変化は少ないものの、ずいぶんとうれしそうな顔をしているように見える。
「勝った」
「うん、すごいよ、リシェルちゃん! あんな強そうな人相手に勝っちゃうだなんて、さすがあたしたちの勇者様!」
試合に勝利したリシェル自身よりもはるかに盛大にに大喜びし、リシェルを強く抱きしめるルルカ。
そしてそんなルルカに抱きしめられたまま、リシェルはゼノのほうへと視線を向けた。
「ゼノさん…」
「ああ、よくやった。あとは任せておけ。あのバカ勇者が相手なら、俺が負けることはあり得ない」
そしてそのバカ勇者サイドでは……。
「ああっ、まさかロベルトくんが負けちゃうだなんて…」
「だがこれで、このおれに出番が回ってきた。そう、これは最初から、こうなる運命だったということに違いない!」
この状況でも能天気なことばかり言っているシオンに、そこそこ大きな不安を覚えるクレア。
「シオンくん、そんなにお気楽にしてて大丈夫なの? 相手はシオンくんより上のBランクなんだよ」
「はっはっはっはっ! いくらBランクでも、戦闘職じゃない錬金術師なんて大したことないに決まってるだろ」
「でもあの子の装備があの錬金術師さんが作ったものなら、ロベルトくんはあの錬金術師さんに負けたってことでもあるわけだし、あまり油断は……」
「勇者シオン、参上!」
シオンはクレアの忠告も聞かず、意気揚々と戦いの場へ飛び出していった。
「もう知らない……」
そしてついに最終試合が始まる。




