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第3話 最弱女勇者

 ジンクが結構大きな声でリシェルのことを勇者と言ってしまったため、ギルド内にいた他の冒険者たちもリシェルのもとへと集まってきた。


「へぇ、この子が新たな勇者か」

「破邪の魔力を持つ勇者はこれまで三人だったから、この子で四人目だな」

「ぱっと見あんまり強そうには見えないけど、この子も勇者なんだから実はものすごく強いんだろ」

「だろうな。なんせ勇者だしな」

「なあ、さっそく勇者の力見せてくれよ」

「ああ、おれも見たい!」

「頼むぜ、勇者の嬢ちゃん!」


 この場に集まってきている冒険者たちが、勇者の力をこの目で見たいと大いに盛り上がってしまっている。

 だがこの状況にどうしたらいいのかと勇者リシェルが戸惑っていると、ジンクがリシェルにある提案を告げた。


「とりあえず、剣でも振ってみせればこいつらも満足するんじゃないか。ほら」


 ジンクは自分が所持していた剣をリシェルに差し出した。

 そしてその剣をリシェルが受け取ろうとすると……


「っ!」


 剣の重みにリシェルの手が耐えられず、リシェルはすぐさまその剣を床に落としてしまった。


「ま…まあ、ジンクの旦那の剣はでかいからな」

「そうそう。さすがに女の子が持つにはちょっと重すぎるさ」

「僕の剣なら細身で軽いから、女の子でも割と扱いやすいと思うよ」


 そう言ってその若い冒険者は、ジンクのものよりもずいぶんと軽そうな細身の剣をリシェルに差し出した。


「はい、どうぞ」

「ん……っ!」


 しかしその剣を手に取ったリシェルは、またしてもすぐさまその剣を床に落としてしまった。


「ど…どうしたの? これでも重かったのかな?」

「うん。結構…重かった」


 どうやらリシェルは見た目通り、細身の剣すらまともに持てないほど非力だったようである。


「な…なあ、この勇者ちゃん大丈夫なのか? こんなにか弱くて戦えるのか?」

「ま…まだ勇者になったばかりなんだから、今はこんなもんだろ」

「そうだよな。一人目の勇者アルフレッドは、勇者の力に目覚めた時点でとっくにSランク冒険者の最強剣士だったけど、三人目の勇者シオンはFランクの新米冒険者スタートで、少しずつ力をつけていってたみたいだしな。この子もこれからに期待…」

「いやいや、シオンは新米スタートとはいえ、元々冒険者志望で最初からそこそこ強かったって話は聞くぞ」


 元から最強剣士だったアルフレッドや、冒険者としてのやる気にあふれてどんどんと強くなっていったシオンとは違い、リシェルは細身の剣すら持てない非力な少女。

 さすがにこれでは、皆もリシェルという勇者に全く期待が持てないようである。


「誰か、この子に剣教えられるか?」

「いやいや、まずはまともに剣を持てるだけの体力作りが先だろ。それもどれだけかかるかわかんないけどな」

「ああー……」


 やはり誰も、リシェルがアルフレッドやシオンのように強くなるとは微塵も思っていない様子…かと思いきや…


「勇者が剣を扱えなくても別に問題はないだろ。この子はきっと、ロザリーさんみたいな魔法タイプの勇者なんだよ」


 ロザリーとは、破邪の魔力を手にした勇者としては二人目となる存在であり、多彩な魔法を操る魔導師の女性である。


「確かに剣が使えなくても、魔法で戦えりゃ問題はないな」

「嬢ちゃん、魔法は使えるのか?」

「使ったことない」


 リシェルはまだ魔法を使ったことはない模様。

 だがリシェルがまだ一度も魔法を使ったことがなくとも、破邪の魔力を持つ勇者である以上、一定量以上の魔力があることは大賢者が証明済み。

 そこで、一人の冒険者があることを口にした。


「なあバラッドさん、この子に魔法教えられないか?」


 バラッドはこの町の冒険者の中では数少ない魔導師の冒険者であり、冒険者ランクもジンクと同じCランク。

 そこそこ腕のたつ熟練の魔導師である。

 そしてそんなバラッドが先ほどの問いに答える。


「どれだけ強力な魔力を秘めていようとも、それだけで魔法の素質があるとは言い切れない。魔法を覚えるには、魔力の流れを感じ取るセンスが必要だ」

「センス?」

「そうだ。センスのある者なら一月も修行すれば簡単な魔法は使えるようになるが、魔力だけあって全くセンスのない人間は、魔法修得まで十年かかると言われている」

「それでバラッドさん、この子に見込みはあるのか?」


 そう問われるとバラッドは、小さな杖を取り出してそれをリシェルに差し出した。


「これに魔力を込めてみたまえ」

「魔力? どうやって?」


 魔力の込め方がわからないリシェルはバラッドにそう尋ねるが、バラッドはその問いに対する答えを持っていない模様。


「魔力の流れの感じ取り方は人それぞれなため、それを言葉で教えることは出来ない。だがセンスのある人間ならば、この練習用の杖を持った瞬間に、魔力というものがどんなものなのかをその身で感じ取ることが出来るはず。さあ、受け取りたまえ」

「うん」


 そしてリシェルはバラッドから杖を受け取った。


「魔力を杖に送り込むことが出来ているのなら、その魔力量に応じて杖の先端が光り輝くのだが…」

「ん……」


 リシェルは杖を手にして集中している……が、特に何も起こらない。

 杖は微塵たりとも光を放たない。


「なあ、バラッドさん、これって……」

「十年、修行が必要なようだな」


 リシェル、剣と同様に魔法の素質も一切なしな模様。

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