第2話 破邪の魔力
「よう、リナリーのねえちゃん。あれの報酬、そろそろいただきたいんだが」
そう言いながら冒険者ギルドへとやって来たのは、なかなかがたいのいいベテラン冒険者の剣士であった。
彼の名はジンク。この町では数人しかいないCランク冒険者の内の一人である。
そしてそんな冒険者ジンクに対して、受付嬢のリナリーは告げる。
「ごめんなさいジンクさん、ちょっと色々と問題があって、依頼者さんがあの状態なので…」
リナリーが手を向けた先には、このギルドの隅っこでテーブルの上に突っ伏しているゴーレム技師ゼノの姿があった。
「ゴーレム屋のあんちゃん、あんなとこでいったい何やってんだ?」
「法律で武具以外への魔法金属の使用が禁止になったのを聞いてから、ずっとあの状態でして…」
「ああ、なるほど。そりゃあのあんちゃんがああなるのもわかる…って、じゃあ俺が取ってきたミスリルはどうなるんだ。報酬はちゃんともらえんのか?」
「どうなんでしょうね。この分だとゼノさん、依頼をキャンセルしかねない気もするんですけど」
「そりゃ困るぜ。せっかく苦労して取って来たってのによお」
ゼノの依頼したミスリル採取クエストを受けていたジンクは、その報酬がもらえないかもしれないことにものすごくがっかりしている。
すると、そんな彼の背後に小さな人影が……。
「あの……」
ジンクの背後にいたのは、とてもきれいな銀色の髪を持つ小柄な少女であった。
「おお、わりいわりい、嬢ちゃん。いつまでもこんなとこに居座ってちゃ邪魔だよな」
ギルドの受付カウンターの前にいたジンクは、この少女がギルドに何かを依頼しにやって来たのだと思い、カウンターの前からどいた。
そして受付嬢のリナリーはこの少女に尋ねる。
「クエストの依頼かしら。魔物の討伐?アイテムの採取?それとも護衛…」
「ううん、違う」
だがどうやら、この少女がここに来た理由はクエストの依頼が目的ではなかったようである。
「登録しに…来た」
「登録って、冒険者の登録?」
「うん」
あまり表情が変わらないこの少女は、小さくうなずきながらそう肯定する。
だがそんな少女に対してジンクは告げる。
「嬢ちゃん、冒険者の登録は十五歳からだぜ」
「知ってる。昨日、誕生日だったから来た」
ジンクにはこの少女の容姿が実年齢よりも幼く見えたため、冒険者の年齢制限のことを告げたのだが、一応この少女はその条件を満たしていたようである。
だがしかし、いくら年齢の条件を満たしていたとしても、この少女は小柄でか細く覇気もなく、どこからどう見ても冒険者をやるような人間には見えない。
そこで受付嬢のリナリーは、念のためもう一度この少女に尋ねてみた。
「本当に、冒険者の登録に来たの?」
「うん」
「どうして、あなたのような子が冒険者に…」
「国の偉い人?…に言われた。十五歳になったら、これを持って、冒険者ギルドに登録しに行くように…って」
少女は一枚の紙切れをリナリーに差し出した。
そしてリナリーがその紙に目を通すと……。
「この少女リシェルは、破邪の魔力を持つ存在であると、賢者ヴィルヘルムが証明する…って書いてありますね」
「賢者ヴィルヘルムって、王宮に仕えてるあの大賢者様だよな。ってゆうか破邪の魔力って……」
破邪の魔力とは、魔物が体内に秘める邪悪な魔力…瘴気を打ち消す力のある魔力である。
ゆえに通常魔物から受けた傷は普通の傷より治りが遅いが、破邪の魔力持ちにはそれが当てはまらず、またその破邪の魔力を魔物への攻撃に活用できれば、魔物に対してとても大きなダメージを与えることが出来る。
ゆえに破邪の魔力を持つ者はこう呼ばれている。
世界を救う者、勇者…と。
「嬢ちゃん勇者なのかっ!」
「……ん?」
どうやらリシェルは、自分自身が勇者であるということをいまいちよくわかっていないようである。




