表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

「MADO」計画ツアー — 再訪者の足跡

城の作戦室。

巨大な地図の上に、赤く点滅する無数の地点が浮かび上がっている。

それが、不安定な結界システムの場所だ。


リィナが地図の中央を指差す。

「ここに、全世界の結界を同期させる“大基準点”を作ります。

それが――MADO計画です」


一瞬、彼女は言葉を区切った。

「Modular Architecture for Dynamic Optimization」


「……つまり、世界規模のクロックツリーを作れと?」


「はい。あなたの”エフ・ピー・ジー・エー”技術で」


俺は頭を抱えた。

だが、脳裏にはあの奇妙なコードが浮かぶ。


// Keep the phase locked, no matter the cost.


(……本当に、僕のやることなのか?)


* * *


翌日から、各地の魔導回路修復の旅が始まった。


第一の町――錆びた配線を交換し、安定化モジュールを挿入。

村人たちは初めて見る基板に目を丸くし、やがて静かに手を合わせた。


第二の村――魔力ノイズを除去するフィルタ回路を追加。

回路が静まると、井戸水の音まで澄んで聞こえた。


第三の砦――外部クロックの位相をPLLで同期。

波形が揃った瞬間、兵士たちは小さく息を吐き、笑みを交わす。


作業を終えるたび、誰かの暮らしが守られたことを実感できた。

それは研究室の中では味わえない感覚だった。


移動の合間、リィナがふと笑った。

「あなたが回路を組んでいるときの顔、ちょっと楽しそうですね」

「……そう見える?」

「はい。魔導回路を解析しているときの私と、たぶん同じ顔です」


そんな何気ない会話が、旅の中で少しずつ増えていく。

気づけば、彼女の指示や癖を言われなくても理解できるようになっていた。


……だが、同時に胸の奥に引っかかるものがあった。

まるで、すべてが最初から僕を待っていたかのような――。


どの現場でも、不思議なことが起きた。

古びた基板に刻まれた「soma」の文字。

黄ばんだ図面の抵抗記号は、僕の手癖そのもの。

デバッグ用のメッセージに無造作に書かれた hoge の文字列。


どれも些細なはずなのに、冷たい指先で心をなぞられたような感覚が残る。

通りすがりの誰かが、ぽつりと「再訪者」の名を口にするたびに、その感覚は強まっていった。


* * *


旅を終え、すべての結界がMADOに接続された。

いよいよ世界規模同期の実験の日。

城の中枢室で、最終クロック信号を有効化する。


LEDのように各地の結界が一斉に点滅を始めた瞬間――

画面に現れるメッセージ。


Replaying prior session…


スピーカーから、ザラついたノイズ混じりの声が流れた。

「……この回路で、平和は守れる……はずだ」


背中を冷たいものが這い上がる。

息を呑む僕に、周囲の視線が突き刺さる。

心臓が、一拍だけ打ち損ねた。


それは紛れもなく――自分の声だった。

お読みいただきありがとうございます。

耳慣れない技術用語もあるかもしれませんが、そんなものかと読み流していただけると嬉しいです。

続きは、明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ