技術の融合を目指す
だいぶ間があきましたが、ヴェルトリアとアルディナの架け橋になるべくやってきたヴァルグとの作戦会議の続きです。
「なるほど、ヴェルトリアでは光の干渉を用いて回路を作っているんですね」
ヴァルグの説明をひとしきり聞いたソーマが、理解を確かめるように言った。
「その通りだ。ヴェルトリアはアルディナほど魔石を大量に得ることができない。
先人が工夫の末に辿り着いたのが、ガラスを利用した制御回路なのだ。
光の位相を精密に制御すれば、魔力をほとんど消費せずに演算できる。」
ヴァルグの言葉に、部屋の空気がわずかに温まる。
透明な管を流れる干渉光は、まるで心臓の鼓動のように脈動していた。
エルドランが腕を組み、独り言のように呟く。
「ヴェルトリアとアルディナの技術を組み合わせて、
魔石の使用を抑えながらも、作成に手間がかからない魔導回路が作れれば……両国の架け橋となりえる、か」
リィナも悩ましげな表情でつぶやく。
「そんなことが、できるんでしょうか?」
「難しいだろうが、不可能ではない」ヴァルグが答える。
「問題は、二つの技術がまったく異なる原理で成り立っていることだ。
光は連続的な位相で計算するが、魔導回路は離散的な魔力の流れで動く。
同じ“信号”として扱うには、何らかの橋渡しが必要になる。」
ソーマは腕を組み、考え込むように水晶板を見つめた。
「それ自体はできます。事実、ヴァルグさんが作っていた偽ノードでは、そうやって魔導回路に干渉していました。
問題は、それをするだけのメリットがある利用例ですが……」
ヴァルグが申し訳なさそうな表情で言う。
「その節はすまなかった。」
「まあまあ」とソーマは笑って制しながら言った。
「そういえば、偽ノードはずいぶん早く信号を返していましたね。あれも光回路のメリットですか?」
「そうだ。光による干渉では、魔導回路のように複雑な演算を積み重ねる必要がない。
処理したい情報を投入しさえすれば、あとは速い。
私もヴェルトランでその動作を見たときは驚いた。」
ヴァルグがうなずく。
「……データを投げ入れさえすれば速い。
それなら大容量のスイッチに使えるんじゃないですか?
それがあれば、魔導回路と組み合わせて――FPGAが作れる!」
ソーマが顔を輝かせて大きな声を上げた。
「FPGAとは、そなたが作りたいと言っていた魔導回路のことか?」
エルドランが尋ねる。
「そうです。FPGAは、あらかじめ作っておいた魔導回路の上で、
さまざまな魔導回路を模倣できるようにする仕組みです。
そのためには、基本的な魔導素子と、それらをつなぐ“パス”が必要なんです。
でも今の魔導回路では、そのパスがどうしても上手く作れなかった。
いえ、作れたとしても、使いものにならないほど遅かったんです。」
思わずというように、ソーマが早口で説明する。
「けれど、光の回路で高速な応答ができるなら――
それをスイッチとして使えば、両方を組み合わせてFPGAが作れる!」
お読みいただきありがとうございます。
耳慣れない技術用語もあるかもしれませんが、そんなものかと読み流していただけると嬉しいです。




