城の一室にて
アルディス王はしばし沈思したのち、重々しくうなずいた。
「よかろう。城の一室を貸そう。その中で語り合うがいい。
監視をつけるが、縄は解こう。」
兵士たちがヴァルグを伴い、ソーマたちは王城の奥へと向かった。
* * *
「……改めて名乗ろう。私はヴァルグ。ヴェルトリアでそう呼ばれてきた。
アルディナにいた頃は別の名だったが――もう、その名で呼ばれることを望んではいない。
……今の私は“ヴァルグ”として扱ってほしい」
エルドランはじっと見据え、やがて静かにうなずいた。
「よかろう。ならばヴァルグと呼ばせてもらう」
* * *
ヴァルグは、ヴェルトリアの資源不足や工業化の経緯、両国の価値観の違いを順序立てて語り続けた。
やがて言葉を切ると、しんとした沈黙が落ちる。
長い説明のあと、エルドランが静かに口を開いた。
「要するに……資源の差、発展の差。それが憎しみや焦りに変わった。
ただ――本当は、誰も戦を望んでなどいない、ということじゃな」
ヴァルグはうなずき、苦い笑みを浮かべた。
「もっとも……ヴェルトリアの王はそうは思っていない。
彼はアルディナの民を“怠惰に堕した存在”と見なし、正すべき対象だと信じている。
いわば聖戦のつもりなのだ。ゆがんだ知識と理想に突き動かされて……」
リィナは思わず小さく息を呑んだ。
「……魔導回路をそんなふうに考えているなんて……」
彼女の声は途中で途切れる。
その沈黙を埋めるように、ソーマは口を開いた。
「つまり……誰かが都合よく操っているってことか?」
ヴァルグの瞳がわずかに揺れた。
「……その可能性はある。少なくとも、王の理想を利用している者がいるのは間違いない。」
彼は言葉を切り、しばし沈黙した。
視線を落とし、指先で机の縁をなぞる。
やがて顔を上げたとき、その瞳には揺るぎない光が宿っていた。
「だから私は、二つの技術を融合させたい。
アルディナの“魔導回路”と、ヴェルトリアの“光の干渉回路”。
それぞれの欠けを補い合えば、戦う理由そのものが薄れていくはずだ」
リィナは小さくうなずき、真剣な眼差しで言った。
「……そうすれば、王にもわかっていただけますね。
魔導回路の良さも、アルディナの人々が決して怠惰ではないことも」
ソーマは思わず口を挟んだ。
「……なるほど、それが“融合”か。面白い。まずはヴェルトリアの技術を教えてもらえますか?」
ヴァルグはわずかに口元をゆるめた。
「もちろんだ。時間は限られている。
だが……共に作れば、きっと道は開ける」
お読みいただきありがとうございます。
耳慣れない技術用語もあるかもしれませんが、そんなものかと読み流していただけると嬉しいです。




