玉座の間の再会
砦の扉が、ぎいいっと音を立てて開いた。
入ってきたのは王城からの使者だった。
鎧の上から外套を羽織り、顔には緊張の色が浮かんでいる。
「ソーマ殿、――お伝えすべきことがございます」
張りつめた声に、ソーマたちは思わず姿勢を正した。
「……ヴァルグと名乗る黒衣の技師を、我らが軍が捕らえました」
部屋の空気が一瞬にして凍りつく。
リィナは息を呑み、エルドランは険しい表情を浮かべた。
(ヴァルグ……本当に?)
ソーマは矩形のパルスと干渉縞の曲線が重なり合う様子にふたたび目をやった.
(平和を望む符号を送ってきた直後に捕らえられた。
これは、ただの偶然なのか……それとも)
使者は続ける。
「陛下アルディスは、直ちにお会いになりたいと仰せです。
捕虜の身なれど、尋常ならざる技術を持つ者。
その取り扱いについて、ソーマ殿にもご意見を賜りたいとのこと」
「もちろん。ぜひ会わせてください。これからすぐに向かいます。
……リィナさん、エルドランさんも一緒に来てください」
* * *
王城の玉座の間。
高い天井から降り注ぐ光が、赤い絨毯の上に影を落とす。
その中央に、黒衣の男――ヴァルグが兵士に囲まれて跪いていた。
両手を縛られたその姿は捕虜のものだったが、伏せられた瞳には妙な静けさがあった。
むしろ決意を宿すかのような光が、暗い影の底で確かに燃えている。
アルディス王が玉座から口を開いた。
「黒衣の技師ヴァルグよ。そなたがアルディナを幾度も揺さぶった攻撃の首謀者であること、すでに確認しておる」
玉座の間がざわめく。
だがそのざわめきを断ち切ったのは、エルドランの低い声だった。
「……ヴァルグ、か」
「……エルドラン……」ヴァルグが顔を上げる。
リィナが驚きに目を丸くした。
「ご存じだったのですか?」
エルドランは頷いた。
「もちろん,名だけは耳にしておった。だが、正体までは分からなかった。
――ヴァルグ、その名はヴェルトリアに渡ってからつけたのか?」
ヴァルグはわずかに苦笑した。
「ええ。アルディナに居場所を失い、ヴェルトリアに渡ったあと、あちらで与えられた名です」
エルドランは目を細める。
「ずいぶん久しいな.言いたいことも聞きたいこもあるが.......なぜ今戻った?」
玉座の間に沈黙が落ちる。
縛られたまま、ヴァルグははっきりと答えた。
「……俺は争いを望んでいない。
アルディナの“魔導回路”と、ヴェルトリアの“光の干渉回路”。
本来相容れぬ二つを融合させ、平和への道を探りたい。
それができるのは、両者の技術を知る俺と――ソーマしかいない」
ソーマは息を呑み、リィナは目を丸くする。
エルドランはしばし瞳を閉じ、やがて重々しく言った。
「……まだ完全に信じるわけにはいかん。
だが――かつて共に結界を支えた者として、その意志だけは受け取ろう」
彼は王に向き直り、深く頭を垂れる。
「陛下、この場は儂にお預けいただけまいか」
お読みいただきありがとうございます。
耳慣れない技術用語もあるかもしれませんが、そんなものかと読み流していただけると嬉しいです。




