結界への攻撃ふたたび?
夜明けの砦を包む結界が、突如としてきしみを上げた。
水晶板に映し出された波形が乱れ、ひび割れのような揺らぎが広がっていく。
「結界が……破られる!」
兵士の叫びと同時に、外壁の光の膜がぱりんと砕けるように散った。
石畳に走る魔力のきらめきが弾け、地面に火花が降り注ぐ。
リィナは思わず立ち上がった。
「ソーマさん! 急いで補修を!」
エルドランも険しい表情でうなずく。
「奴らめ……また偽ノードの類か。早急に繋ぎ直さんと、砦が丸裸じゃ!」
しかし、ソーマは水晶板から目を離さず、ただ波形を凝視していた。
「……待って」
リィナが制御盤に手を伸ばしかける。
「待ってじゃない! このままじゃ砦が落ちます!」
ソーマは水晶板を拡大し、指で示した。
「これは……偽ノードの侵入じゃない。PUFで認証してるから弾かれてる。
外から“無関係の信号”を叩き込んで、結界同士の同期を乱してるんだ。
互いに干渉し合って、波形がぶつかり合ってる……そのせいで外壁の一部だけが崩れてる」
リィナはすぐに切り返した。
「結界同士の干渉なら、共振部の位相をずらせば一時的に安定します。
手動ででも調整すれば持ち直せるはず!」
エルドランも腕を組み、低く唸った。
「あるいは結界の一部を遮断して孤立させるか……そうすれば干渉は減る。
その間に補強回路を差し込めば、ひとまず守れるじゃろう」
ソーマは二人を制して首を振った。
「待って、それじゃ波形の“模様”を消しちゃう」
リィナは一瞬手を止め、眉をひそめる。
「模様……? でも、このまま放っておいたら犠牲が出ます!」
ソーマは視線を水晶板に戻した。
「見てください、この干渉縞……ただの雑音にしては整いすぎてます。
壊すためだけじゃなく、何かを“伝えようとしている”……そんな気がするんです」
言葉を口にした瞬間、ソーマの脳裏にある顔がよぎった。
(……ヴァルグ。これは、あなたの仕業なのか?)
エルドランは重々しい声で言った。
「技術者としての直感は尊重する。……じゃが、結界を守るのも我らの責務じゃぞ、ソーマ」
リィナも強い目で食い下がる。
「犠牲を出すわけにはいきません。私たちができる手立てもあるんです!」
ソーマは二人の視線を受け止めながら、それでも首を振った。
「違う……これは“メッセージ”だ。
誰かがわざと、この波形を通じて何かを伝えようとしてる。
……俺たちに、いや……俺に」
研究室に重苦しい沈黙が落ちた。
結界の外で光が砕け、空気が震える。
反撃か、解読か――。
三人の思惑は交わらぬまま、緊張だけが高まっていった。
お読みいただきありがとうございます。
耳慣れない技術用語もあるかもしれませんが、そんなものかと読み流していただけると嬉しいです。




