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魔導回路調査の報告・前半

王都の城、玉座の間。

国王――アルディスからは「友人として付き合いたい」と告げられていた。

それでも、いざこの場所に立つと自然と背筋が伸びる。

高い天井、金糸で縫われた紋章旗、重厚な赤絨毯――すべてが威厳を帯びてこちらを見下ろしていた。


「よく来てくれたな、ソーマ」

玉座に腰掛けるアルディスが、ゆったりとした声で迎える。

「図書館での研究はどうであった?」


僕は一歩進み出て深く頭を下げた。

「まずは、王立図書館を利用させていただいたことに感謝いたします。

あれほどの資料がなければ、実験をここまで進めることはできませんでした。

ルシアさんにも大変お世話になりました」


アルディスの口元がわずかに緩む。

「うむ。学びを重ねた顔をしておるな。続けよ」


「はい。……まだすべてを理解できたわけではありません。

けれど、“なぜ魔導回路がその形を取ってきたのか”、少しずつ理由が見えてきました。

論理で語れる部分と、理屈を越えてなお動く部分――

その両方を抱えた体系として、魔導回路は存在しているように思います。

そしてその一部は、私が学んできた技術とも確かに通じていることが分かってきました。

もっとも、まだまだ分からないことも多いのですが」


実験を共にしたリィナも誇らしげにうなずく。


アルディスはリィナに視線を移し、口を開いた。

「リィナよ。研究所の様子はどうだ?」


「はい。皆で少しずつ仕組みを理解できるようになってきました。

私自身も、ソーマさんと一緒に回路を組み直す中で学び直すことが多くて……」


「うむ。さっそく成果も出たと聞いている。人々の結界が安定しつつあるのは喜ばしいことだ」


その言葉にリィナの顔が明るくなり、僕も自然と胸の奥が温かくなった。


――とはいえ、本当に分からないことも多い。

魔導回路を構成する素子やつなぎ方は少しずつ理解できてきたが、その原理を説明できるにはまだ遠い。

もっとも、元の世界でもトランジスタの奥底の振る舞いまでは大学で聞きかじった程度なので、

その点では大差ないのかもしれない。

――もう少し勉強しておけばよかったな、と心の中で苦笑する。


そして、この世界にはまだ解けない謎が山ほど残っている。

なぜ僕が持ちこんだFPGAと魔導回路が直接つながるのか。

いつのまにか現れた MADO Quartus Prime はどこから来たのか。

僕の名前を知り、声を記録していた仕組みは誰が作ったのか。

「再訪者」とは何を意味するのか。

そして――そもそも、僕はどうやってこの世界に来たのか。

考え始めればきりがない。


「……ここで、ひとつ報告しなければなりません」

国王とリィナのやりとりが終わったタイミングで、僕は口を開いた。


視線を落とし、慎重に言葉を選ぶ。

「私がこちらの世界に持ち込んだFPGAは、あと一枚になってしまいました」


ことさら大げさにならないよう努めつつ、しかし事の重大さは伝わるように告げた。


リィナの顔に驚きが走る。

声には出さなかったが――

「……そんな大事なこと、どうして先に言ってくれなかったんですか、水くさいですよ!」

と、ふくれっ面で僕をにらむその拗ねた表情が雄弁に語っている。


アルディスは静かに目を細め、ゆっくりと頷いた。

「つまり、尽きれば二度と同じ手段を取れぬ、ということか」


「はい。その通りです」


お読みいただきありがとうございます。

耳慣れない技術用語もあったかもしれませんが、「そんなものか」と軽く流してもらえれば幸いです。

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