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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アリア・アルテイラの手記

ローラン・ヴェルアの秘密

作者: 桜花

魔法士が多く生まれる国に生まれた。

俺が生まれた頃には、隣国と戦争をしていた。

父である皇帝は、魔法士達を集めて魔法士が少ない隣国に対して魔法で対抗していた。

おかげで戦争はこちらが優勢だった。


しかし、俺と同時期に生まれた隣国の王女が膨大な魔力を持って生まれたらしい。

そして、俺が五歳ぐらいの時にはその王女は隣国の兵器として戦争の最前線に立っていた。

魔法士達が束になってかかっても敵わなく死んでいった。

俺は自分の国の兵士や魔法士達が死んでも何も思わなかった。

それよりも、自分と歳が変わらない少女が兵器として扱われていることを哀れに思った。


やがて戦争は隣国優勢になり、今までの復讐と言わんばかりに罪のない国民たちも蹂躙するようになった。

病気の者、体力のない老人、幼い子供。

毎日毎日、数えきれない遺体が燃やされ国中では腐臭が漂っていた。

いよいよ戦える者もいなくなり、降参することになった。

「ローラン、この国は負けた。しかし、志は折れてない。お前はアルテイラ王国へ行き、あの国を地獄へ落とす機会を狙え。それが皇帝であり、お前の父である私の最期の言葉だ。」

「‥‥はい、皇帝陛下。」

それだけを言い、父は自決した。



身分を隠し、アルテイラ王国での生活が始まった。

ヴェルア帝国の民の多くは、アルテイラ王国へ移り住んだ。

しかし、元敵国の民が快く受け入れられるわけがない。

スラム街のような劣悪な場所で生活を強いられ、働きに出ても給金はアルテイラ王国の労働者の半分にも満たない。

それでも、あの腐臭が漂う自国よりも幾分かマシなのだ。


この国のことを調べようと俺は元兵士達に命じた。

そして、この国の唯一の花畑にあの王女がいると聞いた。

あの王女、アリア・アルテイラ。

ヴェルア帝国をめちゃくちゃにして国民が苦しむ原因になった女。

恨んでないわけがない。

父もあの女のせいで自決したといっても過言ではない。

俺はアリア・アルテイラを狙うことにした。


翌日、俺は例の花畑へ行った。

そこには長い黒髪のどこか儚げの美しい女がいた。

あれが、アリア・アルテイラか。

俺が声をかけると振り向いた。

一度だけこの女を見たことがあった。

幼い時に離れた所からだったが、その眼には寂しさや孤独が宿っていた。

成長して美しくなったが目は変わっていなかった。

しかし、話してみると仏頂面ではあるが意外と年相応な少女だった。

俺は嫌なことを思いついてしまった。


この女の心を奪い、味方にする。

そうすれば、この国を地獄へ落とせるだろう。


俺は身分を隠し毎日王女と会った。

どんな話をしても絶対に笑わない。

それもそうか。

彼女は幼い頃から兵器として扱われ、愛情もなく育てられたのだろう。

俺は、厳しい教育を受けながらも両親から愛された。

そんなことを思うと心が少しだけ苦しくなった。

少しでも笑ったり幸せそうにしていたら恨めた。

俺の国をめちゃくちゃにしたくせに何幸せそうにしてんだって。

でも、彼女は今も戦争の時も同じ顔をして笑わない。


俺はこの女の笑った顔を見たかった。

いつの間にか惹かれていることに気づかないふりをした。


「皇太子殿下、あまり干渉されぬようお気を付けください。」

「‥‥分かっている。これも全て、あの女を味方にする為だ。」

この国のことを調べてくれている従者から報告を受けていると、そんなことを言われた。

『あの女を味方にするため。』

この言葉は自分に言い聞かせているようなものだ。

そう自分に暗示しないと俺はきっとアリア・アルテイラを愛してしまいそうだったからだ。

月が雲に覆われて見えない夜は暗い。

いっそのことずっと月が見えなければ明かりを探して彷徨うこともなくなるだろう。

俺の中のアリア・アルテイラという女は徐々にそういう存在になっていった。


そんな時だった。

「ねぇ、名前を呼んで。」

アリアからそんなことを言われた。

その顔はいつもより悲しげで苦しそうな顔だった。

今にも泣きだしそうで目には涙がたまり始めていた。

「お前と出会わなかったら、こんな感情抱かなかった。お前が私にこんな感情を教えたんだ。」

アリアは俺の胸に飛び込み涙を流していた。

俺の胸の中で泣くアリアは普通の少女だった。

兵器でも、俺の国を壊滅させた女ではなかった。

「‥‥アリア。」

俺たちは花畑でキスをした。

もういっそのこと全てを投げ出して、アリアを連れて遠いところに逃げようか。

もし、俺が自分の身分を明かしたらお前は俺のことを嫌いになるだろうか。

俺はお前に拒絶されるのが怖い。


それほどまでに、アリア・アルテイラを愛してしまっていた。


「今日の報告は以上です。」

「あぁ、ご苦労。下がっていいぞ。」

俺は月を眺めながら従者の報告を受けていた。

「それから、今日は皇太子殿下にお客様がいらっしゃております。」

「俺に客?」

ヴェルア帝国の元国民だろうか。

それ以外に俺を訪ねてくるなんて塑像できない。

しかし、訪問者は意外な人物だった。

「やぁ、君がヴェルア帝国の皇太子だね?」

「!!お前は‥‥ルノワール・アルテイラ!」

先の戦争で魔力がないにもかかわらず、ヴェルア帝国を窮地に陥れた男。

アルテイラ王国の英雄、ルノワール・アルテイラだった。

「この国の王太子様が何の御用だよ。」

「随分な挨拶だな。用なんて一つに決まっているだろ?」

「あのな、王子様よ。穏やかな口調で微笑みながら話してるけどよ、お前殺気が駄々洩れだぞ。」

そういうとルノワールから笑顔が消えた。

「‥‥ローラン・ヴェルア。貴様を反逆罪・国家転覆罪で捕らえる。」

「やっぱりな。」

恐らく、従者は間者だったのだろう。

皇太子の情報を渡せば、アルテイラ王国での生活を保障するなんて条件を出したのだろう。

ルノワールが連れてきた兵士のよって俺は捕らえられた。



俺はあの従者に裏切られたなんて思えなかった。

だって、俺が先に自国を裏切りアリアと逃げたいなど思ってしまったのだから。

これは、俺への罰なんだ。

そして、ルノワールの私怨によるものだ。

「貴様の目的はなんだ。」

「別に。皇太子としての身分を捨て、ただの平民として生きていこうとしただけだ。」

「戯言を。貴様がアリアと密会をしていたのは知っている。アリアを誑かし、この国を滅ぼそうとしたのだろう。」

「‥‥最初はそんなこと考えてたっけな。でも流石にそんな無謀なことできるわけねぇって気づいたよ。」

ルノワールは牢獄の前に立ち、俺を見下ろしていた。

こうして見るとアリアと似ている。

確か腹違いだったが、この冷たい目はであった頃のアリアにそっくりだ。

「ふっ、だろうな。アリアは身も心も全て俺の物だからな。」

「は?」

ルノワールは水晶を取り出し光にかざした。

「我が国はここ数年魔法道具に力をいれていてな。これは映像を記録して残しておくことができるのだ。」

その水晶からは、おぞましい光景が映し出されていた。




アリアがルノワールに凌辱されている映像だった。


あぁ、分かった。

アリアはだから戦争が終わっても、あんな悲しい目をしていたんだ。

あの涙を流したのは、限界のサインだったのだ。

もっと、もっと早く気づいて行動していれば、アリアを助け出せた。

アリア、お前は一人でずっと苦しんでいたんだな。

「ルノワール!!お前、妹相手に‥!!」

「妹?そんな安い言葉で俺たちの関係を語るな。俺たちは愛し合っているんだ。」

「アリアは兵器として育てられて、戦争が終わっても一人苦しんでいた!!俺の前で涙を流すほど、あいつは苦しんでいたんだ!」

俺は怒りで体が震えた。

「‥‥お前ごときがアリアを語るな。」

「お前のそれは愛なんかじゃねぇ!!独善的で、支配的な歪んだ感情だ!アリアはお前なんか愛してねぇんだよ!!」

「ならば、お前のことを愛しているとでも?」

ルノワールは殺意の籠った目で俺を睨みつけた。

「お前なんかが現れたからアリアは壊れた!それまでは従順で俺のことを愛していたアリアが!お前さえ、お前さえいなければ‥‥!!」

アリアはこんなイカれた奴なんかに、ずっと苦しめられていたのか。

苦しかったよな、辛かったよな。

助けられなくてごめんな。



何日も拷問が続いた。

悲鳴も上げず、暴力を受けた。

これが自国を裏切ろうとした罰だ。

暴力だけなら何も苦しくない。

ルノワールは何回も俺の元へ来た。

「アリアは昨日も俺を受け入れたよ。やはり、アリアは俺のことを愛しているんだね。」

ルノワールは水晶でアリアを凌辱している映像を毎日流した。

その映像を見せられるたび、俺は気が狂いそうだった。

「アリアを諦めるなら、貴様にいくらでも女を用意しよう。お前のことも殺さないでやる。」

「いるかよ‥‥そんなもん。」

「遠慮するな。どんな女が好みだ?長い黒髪で赤い目をもつ女でも用意しようか?」

ルノワールは水晶の映像を見て笑いながら俺に問いかけてきた。

「そうだな‥‥それに付け加えて気色の悪い兄に執着されている可哀そうな王女様なら完璧だ。」

「‥‥やはり、貴様は殺さなければならないな。」

別にこの命なんてやすいものだ。

この苦しみだってなんてことはない。



ただ一つこの世界に未練があるとすれば、アリアを笑わせてやりたかったなぁ。



多くの国民。

アルテイラ王国の王族たち。

処刑台には俺とルノワール。

今日俺は処刑される。

アリアの姿はない。

最期にアリアの顔を一目見たかった。

ルノワールが俺の罪状を読み上げる。




アリア、お前が笑っている姿を一度だけでいいから見たかった。

俺が死んだ後でもいい、お前は幸せになって笑って暮らせる日が来てほしい。


ヴェルア帝国の伝承だ。

とある幸せな家族の息子が魔女に魔法を与えられた。

その少年が魔法を望んだのは、愛する人がいつまでも笑って幸せに暮らせるためだった。


俺はお前みたいに強い魔法は使えない。

だけどな、俺にも唯一使えるものがあるんだ。

「アリア、愛している。」

「‥‥最期の言葉はそれでいいのか?」

「‥‥あぁ。これでいい。」

俺は自分の魔力を手放し、アリアに与えられるよう願った。


俺の人生はこれで終わり。

だけど俺の魔力はアリアの中で生き続ける。

いつもでも、いつまでもお前のそばにいるよ。






愛しているアリア。


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