表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/52

31.乱入

『うーむ、勝てそうかなあ?どう思う?』


『厶、ムリだよ。もう逃げよう!』


『……ここまで来たってのに』


この窮地を切り抜けられるか。

三人の知恵を出し合い模索したかったが、S級という言葉が思考に圧力を掛ける。


暫くだんまりを決め込んでいた。

すると踊り場側にいた、無精ひげの男が両手を上げて、歩き始めた。


「おうおう。ちょっくら治療させてくれや。もちろんお前らじゃないぜ?お前らが殺しそこねた仲間をだ。いいな?何もすんじゃねえぞ?」


無抵抗を前面に押し出し、手をひらひらさせながら、三人の厳しい視線を横切っていく。


彼は大きな穴を見下ろして、ピューと口笛を吹いたと思えば、深く膝を曲げて跳躍した。


「っしょっと」


S級を名乗る男から、ペリーロと呼ばれた冒険者を受け取る。

そして、そっと床に寝かせてから、魔力で包み込んだ。


「ん〜。肋骨、頭骨、鎖骨、それから内臓もやられてるなあ!こりゃあ死にかけだあ!俺が来なかったら、おっ死んでたかもなあ!仲間をこんなんにされて悔しいなあ!」


わざわざ大きな声でペリーロの容態を語ると、治癒の呪文を詠唱して治療を開始した。


三人の少年は、突き刺さる無言の圧力に、心が揺らぐ。


殺す気はなかった。

死なないと思った。


そうやって死の可能性から目を背けた。


正当化しようと思えばいくらでもできる。

奴から手を出したし、殺そうとしていた。

実際彼は「死ね」と口に出していた。


だから……。

そうして正しさを主張し、傾く天秤を水平に保つことはできた。


しかしそれは、恐ろしく身勝手であることも理解していた。


『……こ、降伏して謝ろう?僕たち、やり過ぎたと思う』


ノピーがそう言うのも無理はない。

廊下を伝ってくる殺気には、仲間に手を出された怒りが乗せられていたからだ。


『やり過ぎかなあ?殺そうとしたんだから、殺されても文句は言えないんじゃない?あの人が実力不足なだけだよ。まあ、強かったけどねえ』


アスドーラの飄々とした言葉が、脳内に響く。


『……お前たちだけ帰れ。そもそもこれは、俺の問題だ。ここまで来たってのに引き下がれねえ』


ジャックには、すべてがどうでも良かった。

ただ妹を救いたいだけ。

ペリーロが死ぬのは本意ではないが、構いやしない。

妹が救えればそれでよかった。

それ以外は些細な事柄で、陳腐な与太話である。


そうやって、どうにか心に思い込ませていた。


けれど本心は、言葉になって表れている。

2人をこれ以上、巻き込みたくない。


するとペリーロを治療していた男が、すくっと立ち上がる。


「おう終わったぞー」


三者三様、意見はまとまらず。

蛇に睨まれた蛙のように、冒険者たちの殺気に身を固くする。


『よぉぉし、こうなったら戦おう!危なくなったら、僕が転移させるからさッ!』

『で、でも、相手はS級だよ!?転移させてもらえるか――』

『今すぐ逃げろッ!残るのは俺だけでいい!』


頭の中では、必死に意見を交わすが平行線のまま。


リーダー不在。

即席チームである3人に、本当の窮地を切り抜ける力は……まだなかった。


S級を名乗った男は、コクリと合図をした。


すると、踊り場側の冒険者と穴の向かいにいる冒険者それぞれ2名ずつが、バッと手をかざした。


亜空断絶障壁コンロコンテヌディーレ


ズァァアッ!


三人を取り囲むのは、五方を阻む亜空の結界。


一体何が!?


思案する暇は一時もない。


影が結界に入り込んだ時には、全てが終わっていた。


「っぐぁぁあ」


アスドーラの首を掴むのは、ホテル前で失神させられた、あの冒険者の手だった。


『早く逃げ――』


ゴスッ!


アスドーラを持ち上げながら、ジャックの脇腹を器用に蹴り飛ばした。


「ぐぁっぐぅぅ!」


締め付けられた喉でジャックの名を叫ぶ。

だがその声は届かない。


アスドーラは抵抗した。


魔法が使えない今、腕力でどうにかするしかない。


腹部を蹴りつけてみるが、山を蹴飛ばしたかのように、ビクともしない。

爪を立て、必死に藻掻くが、すべてが無駄なあがきに思えてくる。


でん゛……い゛(ゴン゛ゴ……ル゛ダ)


どうにか転移で脱出し、再度戻ってきて戦おう。

その策略も、締め付けられた喉では実行不可能であった。


マズい。

これは、勝てそうにない。


敗北が頭をよぎる。


諦めかけたその時、眼前の男の視線が、腰の抜けたノピーに向けられた。


彼らは僕たちをどうするのだろう。

このままだと、ノピーはどうなる。ジャックは?


魔力を制御しながら勝てるだろうか。どうにも勝てる未来が見えない。

ならば本気を……出すべきか。


いや今のまま、できるだけのことをやろう。

全力は最後の手段として、今の状態で全力を出す。

少しのケガも本当は見せたくないけれど、躊躇ってる場合じゃない。


「ぐぅ゛っがぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あッ!」


アスドーラは男の腕を両手で握りしめた。


「ぐっぁ゛ぁ゛あッ!」


足は腹部を蹴り続けながら、男の太い腕に指を突き立て、骨まで圧し折るつもりで握りしめる。


「……っぐ、この馬鹿力が!」


ゴスッ!


大きな拳が顔を殴りつける。

しかしアスドーラは力を緩めなかった。


すると、骨がミシミシと音を立て始め、指がぐちゃっと皮膚を突き破る。


ゴスッゴスッ!


男は焦った様子でこめかみを殴りつけるが、アスドーラにはまったく効いている様子がない。


「リビーディ!魔法で捕縛しろ!腕がもげるぞ!」


S級を名乗る男は、転がってきたジャックの胸を踏みしめながら、指示を送る。


リビーディは苦悶に顔を歪めながらも、頷いてみせた。


首を絞め上げる手を緩め、アスドーラの顎を何度もぶん殴る。

そして同時に、呪文を詠唱した。


水牢(アクカルチャル)


ぽわん、と現れた水の玉がアスドーラの全身を包み込む。

思うように動けないアスドーラは、それでもリビーディの腕を放さなかった。


ジャックは踏みつけられ抵抗不能。

ノピーは震えて動けない。


アスドーラ一人で戦わねばならぬ状況で、全員を一気に相手するのは悪手だ、

だから眼前のリビーディから、まずは倒す。

そう意気込んでいた。


しかし、A級S級の冒険者は、子ども相手でも一切の手抜かりをしなかった。

仲間をやられた後では特に、隙すらもなく。


鉄鎖堅縛(ソロファティーレ)


ブォンッ!


まるで砲弾が空を切るような音がした。

次にはアスドーラの側頭部に鈍い衝突音がすると、首が折れそうな勢いで激しく傾いた。


すると、ギャリギャリと鈍色の鎖が巻き付き、鼻下からすべてが隙なく拘束される。


手、以外は。


鎖の先は、穴の向こうにピンと繋がっていた。


「ッ!?ペリーロ?動いていいのか?」


鎖を握り締めていたのは、目つき鋭く青白い顔をしているペリーロだった。


「……ぅぉおらああ!」


「ちょ待て!それをやったら――」


ペリーロは鎖を振り上げ、そして勢いよく振り下ろした。


ギャリギャリッ!


重たい鎖は鞭のようにしなり、うねりは手首に到達した。


「……ッッッ!」


鎖が巻きつき口を開けないアスドーラは、絶叫の変わりに目を見開いた。


「それをやったら、千切れちまうだろ……」


「……はあ、はあ。自業自得だクソガキ!」


リビーディの腕を握りしめる、2つの手。

ぼたぼたと血が滴り、ぼとりと床に転がった。


「ア、アスドーラ君……」


ノピーは涙を浮かべながら、バタリと倒れた。


「……気絶したか」


憐憫の眼差しで、リビーディはポツリと呟く。


『おいアスドーラ!さっさと逃げろッ!頭の中で詠唱すれば――』


動揺するジャックは『秘匿会話(セクレトコンバル)』で叫んだ。

さっさと転移しろと。

逃げろ、と。

頭の中で詠唱すれば、口頭術は成立すると。


失神せよ(テネコーペ)


だが全てを言い切る前に、意識は奪われる。


「……ミーティス、ソイツら、思念を飛ばしてるよ」


「ん?そうなのか。ちゃんと報告しろ、また忘れてたんだろ」


「……あー、傷が痛む」


「都合がいい傷だな」


ミーティスと呼ばれたS級冒険者は、唸り声を上げるアスドーラには一瞥もくれず、リビーディの傷に顔をしかめた。


「結界を解くぞ」


「転移されるんじゃないか?」


「構わんさ。2人から内情を聞き出せばいい」


リビーディは得心したように頷き、4人がかりの結界は一気に雲散霧消した。


「にしても……イカれた肺活量だ」


S級冒険者ミーティスは、アスドーラを見ながらポツリと呟く。

水の中でおおよそ1分。

ただならぬ精神状態にあり、なおかつあれだけ暴れておいても、まだ意識を保っていることに驚嘆していた。


「どうする?治すか?」


リビーディは、床に転がる手を見つめながら確認をとる。

しかしミーティスは、首を横に振った。


「気絶してからだ。どうせくっつ……なんだ?」


千切れた腕を見て、ミーティスは怪訝な表情を浮かべた。


水を染め上げ分かりにくかったが、血がいつの間にか止まっていたのだ。

白い骨や筋張った筋肉が見えなくなって、まるで傷口に蓋をしたような。

治りかけの擦り傷にかさぶたができたような……。


「……まさか!?」


ミーティスはポカンと開きかけた口を結ぶと、今までにない表情を浮かべ、突如として魔力を放出した。


それも全力で。


「竜の子だッ!操魔術で拘束しろッ!」


鬼気迫る号令に、冒険者たちも続く。

放出した魔力を、間断なくアスドーラへと差し向けた。


A級、S級が放出した、全身全霊の濃密な魔力が、アスドーラにまとわりつく。


水の中で、もこもこと生え揃う手を見て、魔力の収斂が加速する。


「魔石は持ってるのミーティス!?」


マーテルは冷や汗を流しながら叫ぶ。


「……持っているわけがないだろう」


悲痛に顔を歪めたミーティスに、冒険者たちは顔をしかめた。


「どうする気なのさ。竜の子に魔力勝負でも仕掛ける?」


「つまらないなペリーロ。頼むから気の利いたジョークで笑わせてくれ」


「ムリでしょ。ミッテン連合の騎士が何人死んだと思ってんのさ」


「……さあな。数えるのは止めた」


シンと静まる冒険者たち。


竜の子――。


常識を破綻させる魔力量、魔族以上の回復力、そして至上の魔法。

三拍子揃ったその生物は、まさに神を彷彿とさせる。


魔族の長リンデンバル・アルマは、そんな彼らについて、こう宣言した。

世界の端に君臨する(ドラゴン)の子であると。


「逃げちゃう?名前に傷はつくけど、命は助かるわけだし」


ミーティスは何も言わなかった。

それが仲間たちへの返答でもある。


冒険者集団、解放戦線(リベラティオアンテ)はS級冒険者ミーティスを頂点とした、世界屈指のパーティである。

B級以下の冒険者は居らず、全員がA級。

そして仕事を必ずやり遂げることから、信頼も厚い。


いつもならば、ペリーロの提案は笑って流されるジョークでしかない。


積み上げてきた信頼を一発で崩壊させる愚挙であるから。

どれだけ困難な依頼でも、必ずやり遂げた自信があるから、難しく危険であっても途中放棄は一度もなかった。


しかし竜の子を相手に、今の装備で戦うのは不可能である。

ミーティスはすでに、そう見切っていた。

仮に戦ったとしたら、ホテルの損害は凄まじいことになるだろう。恐らく、二度と警備任務を依頼されないほどに。


だからこそ、逃げるという選択肢は、ありだった。

すなわち任務の途中放棄が、現状の正解であると思いかけていた。


「……あ」


ヒリヒリした現場に響く腑抜けた声。

冒険者たちが声の主を見やる。


「き、騎士団に通報が入った……から来た……んだが」


言葉もままならず立ち尽くしていたのは、騎士だった。


名うての冒険者を知らないはずもなく、彼らを見て固まっている。


「アンタらの手に負えるとは思えないが。代わってくれるなら助かるな」


「わ、私では判断できない!あ、あ、あれだ!上長に確認してみる!」


「……走って逃げなくてもいいだろうに」


騎士は全力で階段を駆け下りていた。

感じたことのない、恐ろしいほどの魔力と殺気に、汗が止まらなかった。

解放戦線(リベラティオアンテ)のリーダーであるS級冒険者ミーティスとその仲間たちの、オーラたるや凄まじく、それだけで肝が冷えた。


しかしアイツはなんなのだろうか。

彼らが意識を向けていた、あの子どもは、

そして床に倒れていたエルフと赤髪は、一体誰なのだろうか。




「はあはあ。騎士長!」


「んあ?どしたー。ホテルの件片付いたかー?」


「それが……」


中央区中心部にあるラハール騎士団詰所に帰還した彼は、一服する騎士長へ経緯を報告した。

すると、すべてを聞く前にティーカップが手から滑り落ち、汗まみれの彼に掴みかかる。


「お前、何かしたのか!何もしてないよな!」


「は、はい。解放戦線(リベラティオアンテ)がいたので、とにかくどうしたらいいのか騎士長へ確認を取ろうと思いまして」


「よしっ!」


そう言って騎士長は、詰め所の階段を駆け上がる。


「騎士隊長!例の少年と解放戦線(リベラティオアンテ)がやりあっております!いかが致しますか!」


「間違いないのか?」


「エルフの少年と一緒であったと――」


「騎士将へ確認してくる!」


騎士隊長は、同階にある将校の部屋へ飛び込んだ。


「ノックをせんか!」


「騎士将閣下!例の少年――」


「マズイ!騎士団長へ確認する!暫し待て!」


そう言って騎士将は、遠隔通話の魔道具で王都にいる騎士団長へ連絡を試みる。


「なんだ」


「例のアスドーラという少年が、セントラルグランドホテルで解放戦線(リベラティオアンテ)と戦闘中であります!対応のご指示を!」


「……解放戦線(リベラティオアンテ)からアスドーラを救出したまえ」


「し、しかし。よろしいのですか?解放戦線(リベラティオアンテ)ですが」


「アスドーラ、並びにその友人を傷つければ、国が危うい立場に置かれてしまう。これ以上は機密故語れぬが、そういうことだ」


「か、畏まりました!」



そうして中央区の騎士たちへと緊急呼集が掛かり、出払っていた騎士や休みの騎士も動員して、セントラルグランドホテルは物々しい雰囲気に包まれる。


ドタドタドタッ!

5階の踊り場から騎士が溢れ出し、ミーティスは胡乱な目で状況を観察する。


「その少年を解放しろ!これは正式な命令である!」


「正式とは?」


「この国の治安機関の長たる騎士団長からの命令であるッ!」


「……俺たちはこのホテルの支配人と警備の契約をしている。要するに仕事だ。強制的に放棄させたと話はつけてくれるのか?」


「警備?何の話だ!」


「俺たちは雇われてここにいる。コイツらが忍び込んだから捕らえた。それだけの話だ」


騎士将はチラリと騎士隊長へ視線を送り、騎士隊長は騎士長へと視線を送り、そして事を伝えた平騎士へと視線が送られる。


「……わ、私ですか?賊との通報があったことは、騎士長もご存知だったでしょう?」


「……申し訳ありません騎士隊長。報告に穴がありました」


視線のバトンは騎士将へと戻された。


「……分かった!ホテルとは話をつける!だから解放しろ!」


「オーケーだ」


あっさりと了承したミーティスは、仲間たちに視線を送る。

しかしペリーロは不安が隠せず、頬を引き攣らせた。


「絶対怒ってるよね?こんだけ拘束されて、ブチギレないわけないよね?」


「……確かに。おいアンタら!俺たちのことも守ってくれるよなあ?」


「ま、まままあな!いいだろう!」


騎士将は動揺しながら、隣の騎士隊長へこっそり尋ねる。「あの少年、強いの?」と。

すると騎士隊長は「さあ」と答え、それを聞いていた騎士長と平騎士たちの顔が引き攣る。

どうせ戦うのは俺たちだもんな、と。


「解いたら下がれ。ヤバいと思ったら拠点に転移だいいな!」


ミーティスはそう言うと、首を大きく縦に振った。


ズァァアッ!


アスドーラを拘束していた魔力が、勢いよく冒険者たちのもとへ還ってゆく。

水の玉はパシャリと落ちて、鉄の鎖は灰のように淡く崩れた。


「……」


空気がピンと張り詰める。


何を考えているのか、アスドーラは床に横たわり天井を眺めたまま動かない。


「ア、アスドーラ殿?医者が必要かね?」


アスドーラは、首を傾け倒れている二人を眺める。

そしてゆっくり立ち上がると、少し後ずさる騎士将に答えた。


「あの二人を治してくれます?」


「あ、ああもちろん。やれ!」


ぞろぞろと横切る騎士たちを見送り、アスドーラは警戒するミーティスたちに笑顔を向けた。


「言わないでね?僕のこと」


ミーティスが怪訝な表情を浮かべると、アスドーラは両手をひらひらさせてみせた。


「俺たちに報復しないなら黙っておく」


「報復?しないよ。友だちは生きてるし、仕事だったんでしょ?」


「ああ。分かってくれて助かる」


「それとさあ、君たちと秘密のお話しがしたいんだけど、いつもどこにいるの?」


「……殺しに来る気か?」


「ハハハ違うよ。()()()の件だよ。ちゃんと聞きたいなあ」


「……1週間はこのホテルにいる。それ以降はまだ決まっていない」


「ふーん」


騎士たちに、この会話の意味はまったく理解できなかった。

けれどそれで構わないと、全員が考えていた。

どうせ厄介事。

どうせ面倒事。

貴族同士のいざこざに関わらないように、化け物と謎の少年のいざこざにも関わるべきではないと、人生の経験が警鐘を鳴らしていた。


だから皆が素知らぬ顔であった。


「……ア、アスドーラ君。アスドーラ君!」


ノピーは目を覚ました途端に飛び上がり、騎士たちを押しのけアスドーラとミーティスたちの間に割り込んだ。


「……ご、ごめんなさい。やり過ぎたのは謝ります!降伏するので許してください!」


「いや――」


「すみませんでした!」

と言いながら頭の中ではアスドーラに指示を飛ばす。

『アスドーラ君転移して!ジャック君はどこにいるの!?』


「いやだから――」


「……ひぃぃぃ!助けてください!騎士様!」

『アスドーラ君!?ジャック君はどこにいるの!答えてよ!まさか……まさか!』


ミーティスの言葉を遮り、ひとりで大立ち回りを演じるノピーの記憶は、アスドーラが手を断ち切られたところで止まっていた。


どうして騎士がいるのか……。

恐らく宿泊者が、騒ぎを鎮めるために通報したのだろう。

どうしてアスドーラが解放されているのか……。

それを考えるよりも、さっさと逃げてから手を治療するのが先決だ。


記憶の続きを勝手に補完して、三人で逃げるために必死であった。


「ノピー、ジャックならあそこにいるよ。騎士さんが治療してる」


『ダメだよ!相手に情報が筒抜けになるから、頭の中で話して!』


たぶん思念で会話してるんだなと察したミーティスは、混乱するノピーへ落ち着いた調子で語りかける。


「降伏は結構だが、もう終わったぞ少年。手打ちだ」


『何言ってるのこの人。アスドーラ君殴った?頭をやっちゃったのかな?』


『殴ってないよ。ノピー本当に全部終わったんだ。ごめんよ守れなくて』


「お、終わったの?本当に?」


ノピーはようやく振り返り、アスドーラの手が戻っていることに気づく。


「……よ、良かったあ。治してもらったんだね」


「あー、あうん。うん、そうそう。あの人に」


「そっか。良かったよほんどうに゛……」


アスドーラは、泣きながら崩れ落ちたノピーの肩を笑顔で叩く。


「痛ってえなッ!もう起きたって!叩く……オェ」


「魔力酔いを起こしてますね」


「んなことは分かってるわッ!」


騎士に治療ビンタを受けていたジャックも見事に回復した。

ペリーロに刺された肩も元に戻り、怒鳴る元気もある様子。


「……争いが終わったのならば、我々は行くが。ミーティス殿、手を出さぬようになッ!」


「俺らが悪者みたいになってんじゃん。意味分かんねー」


「何か言ったかそこの!」


文句を言ったペリーロを下がらせて、ミーティスが代わりに返答をした。


「ああ問題ない。これ以上は何も起きない」


「うむ。ではな」


急ぎ足で去っていった騎士の一行。

ホテル前に待機していた騎士たちも、ぞろぞろと退却していった。


ポツンと残された解放戦線(リベラティオアンテ)と少年たちは、互いが憎くて争っていたわけでもないので、不思議な距離感で見つめ合う。


「もう帰れ。暗殺はなしだぞ」


「……暗殺?何の話をしてるの?」


ミーティスの言葉にアスドーラは首を傾げる。


「とぼけるな。手練れを送り込んだ黒幕を知りたいところではあるが、まあ今回は見逃してやる」


「……だから何の話?僕たちはジャックの妹を取り返しに来ただけだよ」


「……マジ?」


「うん」


再び微妙な空気に包まれるのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうごさいます。

作者の励みになりますので、下の☆マークを押していただけると助かります。

☆一個でも嬉しいです。

ブックマーク、いいね、コメントもモチベーションになります。

お手数だとは思いますが、よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ