第93話 招かれざる客
翌日の朝。
09:00
「おはよう、皆んな」
桜ちゃんが満面の笑顔でカズの部屋に来た。その傍らには、まだ眠そうな顔をした志穂さんも一緒だ。
今日の2人は3人の自衛隊に護衛をしてもらって来たんだとか。
そんな2人の目の前に、ちょうど骸が寝そべっていた。
「久しぶり。私の事……覚えてるかな?」
桜ちゃんは骸が覚えているか尋ねると、目をうっすらと開けてゆっくりと動き出し、桜ちゃんの前に顔を近づける。
「私、桜だよ?」
骸はそれでも薄目でジッと桜ちゃんの顔を見る。
「お、覚えて無い……?」
いや、覚えてると思う。
桜ちゃんの顔が不安になっていくと、骸がうっすらと微笑んだ様に見えた。
そこにアクアが来て、骸はアクアを連れてプールの方へと歩いて行く。
そんな骸を見て、志穂さんは「やっぱ覚えてないのかな?」って言うと、桜ちゃんは目を細めて微笑み、首を横に振る。
「うぅうん、そんな事無いよ。だって微笑んでたから」
骸が桜ちゃんのこと覚えてねえ訳が無いさ。
その後、俺達は2人に挨拶をしてから顔を洗いに行き。戻ってくると、美羽はステラ達を呼んでソファに座る。
「美羽ちゃん、カッちゃんは?」
「え? いませんでした?」
桜ちゃんがそう尋ねると、美羽も朝からカズの姿を見ていないので解らないって言った。
「用事がまだあるからって昨夜はまた出かけて行きましたけど。帰って来てないのかな?」
「そう言えばBちゃんも帰って来てないよね〜?」
沙耶はBも帰って来ていない事に気が付いた。
カズとBの2人が帰って来ていない。それはもしかしたらと美羽と沙耶だけじゃなく、俺達男3人もまさかと思った。
するとそこに骸がBを口に咥えてやって来る。
なんだ、いたのかよB。
そのBはまだスヤスヤと眠ったままだ。どこで何をしていたのか知らねえが、Bは取り敢えずいつの間にか帰っていた。
「Bちゃ〜ん? お〜い」
沙耶が呼んでも起きない。そこで骸はBを口から放り投げると頭から地面に落ち、それでようやく目を覚ました。
「いったぁ……。ちょっと誰だい? ボクの頭を蹴ったのは?」
「「(いやいやいや、誰も蹴ってない)」」
マジで誰も蹴ってないからな。
そこで女性4人が手を振りながら骸を指差して、骸が放り投げたから頭から地面に落ちたと伝える。
「ちょっと酷くないかな? ボクは昨日、屋台の仕事をしていて帰ってくるの遅かったんだぞ? そんなボクを口に咥えたまま放り投げないでくれるかな?」
Bがニコニコとした顔をしているけど、明らかに骸に対して怒っている。骸も悪びれた様子も無く、毅然とした態度でその場に座っているし。
「後で和也さんに言いつけてやる」
しかし、それを言われても骸は動じず、逆に骸が溜息を吐くとBは「なっ?!」と言って益々怒りだす。
「ボクは昨日、和也さんが主催するイベントでずっと屋台の裏方で仕事してたって言うのに。キミはいったいその間、何をしていたのかな? うぅん?」
え? そうなの? Bもどっかで屋台出してたんだ?
「あっ、骸なら昨日、街の周りをずっと見回りしてくれてたよ?」
美羽の援護射撃 発動
「なっ?!」
Bは驚きつつも、まさか骸がそんな事をしていたとは知らなかった為に驚いて何も言えなくなっちまった。
すると今度はそこへ先生が現れ、桜ちゃんと志穂さんの顔を見て軽く呆れた様子の顔をするけど微笑んでいる。
「話には聴いていたけど、まさか本当に貴方達までねぇ」
「おはよう御座います。お久しぶりです朱莉さん」
「お、おはようございます。朱莉さん」
桜ちゃんは笑顔で挨拶してる、けど志穂さんはどこか緊張した様子で挨拶をする。
「おはよう」
そんな2人に先生は挨拶をすると直ぐに骸を呼んだ。
「ちょっと良いかしら骸」
<グルルッ>
「和也が貴方を呼んでるわ。直ぐに行ってあげて貰える?」
<グルッ>
それを聴き、骸は部屋を出て走って行く。
「先生は、カズが今なにをしているのか知ってるんですか?」
美羽の質問に、先生は知りたければ早く準備してゲートの前に来いって伝えると部屋から出て行った。
それから暫くして、準備を整えてゲートに向かうと。
「来たわね? 門を開きなさい!」
先生の言葉に、重々しい音を響かせながら異世界に通じる扉の門が開かれる。
「それじゃ、行くわよ」
そこには先生だけじゃなく、御堂さんや多くの組員の人達も準備して待っていた。
「姉さん、俺達は先に若の元へ行きます」
先生に軽く挨拶を済ませた御堂さん達が次々とトラックに乗り込み、先にゲートを通ってカズのところに向かう。
トラックに何が積まれているのかわかんねえ。わかんねえけど、大型トラックが十台も一斉に行くって言うことは、その積荷は恐らく何かしらの兵器なんじゃないかと思う。
その後、俺達は先生と一緒にゲートを潜り、ゼオルクの街へと入った。
街に入った俺達の後ろから、カズに来るなって言われているのに、桜ちゃんと志穂さんの2人がついてきている。更にその後ろから、ゴジュラス達が地響きを立てながら街中を歩く。
最初の頃は酷く怯えられたものの。カズのモンスターだと知って、街の人々はゴジュラス達を見れば「おはよう」や「元気かい?」と笑顔で声をかけられるようになっていた。ゴジュラス達も声をかけられる事に慣れたのか、時折挨拶がわりに軽く吠えたりもする。
そんな恐竜達とこうして歩ける幸せを、俺は感じていた。
それは美羽や沙耶、一樹にヤッさんも一緒だ。ただ、桜ちゃんとしはそんなゴジュラス達にまだ慣れないのか、顔が強張っていたりするけど。
そんな俺達の前を先生が先頭に立って歩いていると、そこに1人の組員の人が現れて報告をして来た。
「マズイ事態です」
「どうしたの?」
「この街に、奴らが来ています」
それを聴いた先生は足を止め、目を大きく開いてそっちに顔を向ける。
「何人?」
「2人です。妙な二人組がいるなと思い、何者か尋ねたところ……」
すると先生の目が細くなり、段々と怒りを露にし始めた。俺達もその話を聴いて、きっと何か被害があったんだろって思えた。
「被害は?」
どれだけ被害が出たか聞くと、予想とは裏腹の答えが返って来た。
「ゼロです……」
「ゼロ?」
「はい……」
何故被害がゼロなのか逆に戸惑う。
そこで先生は溜め息を吐き、その2人の元に案内してもらうことにした。
到着すると、その場所は意外にもカフェで、組員の人が言う妙な二人組はそこのカフェテラスでのんびりとコーヒーを嗜みつつ、その周りには数人の組員の人達に囲まれている状態だ。
先生は空いている席に座り、「何しに来たのかしら?」と尋ねると。
「礼儀がなっていないな。まずは先に名乗るのが筋ってもんじゃないのか?」
なんかクールビューティーな女が先生を睨みながらそう言った。
先生からなんか苛立った雰囲気が一瞬漂ったけど、確かにそれは失礼だったって直ぐに謝罪した。
「確かに貴女の言う通りね、申し訳なかったわ。私は夜城組の鬼頭朱莉よ」
先生の名前を聴くと、女は不気味な笑みに変わる。
「そうか、貴女があの鬼頭朱莉か。それはこちらも申し訳ない。どおりで只者じゃない雰囲気を纏ってる筈だ」
女は急に明るい顔に変え、逆に先生に謝罪をする。
俺はそんな2人組の格好を見て、とある事を思い出した。
それは初めて会った時の、Bと同じ格好をしている。
「改めて。初めまして鬼頭朱莉。私の名は"ルシファー"。気楽に"ルシス"と呼んでくれ」
「俺様は"ダークスター"。宜しくな」
"ルシファー"に"ダークスター"。それは前にBから聴いていた大幹部。あの凶星十三星座のナンバーズの名前だ。
俺達はその名前を聴いて、緊張で全身から汗が吹き出し始めていた。