表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第3章 蠢きだす闇
93/336

第92話 2人の覚悟


()()()()()()()()()()()()()?」


「ゼオルクに?!」


 カズの質問を聴いてまさかってなってるけど、2人は何も答えない。


「どうやってあの世界に入る事が出来たのか、俺は2人に聞いてるんだが? 調べたら直ぐに解る事だぞ?」


 カズはいたって冷静だ。でも、その目には段々と怒りが滲み出て来ていた。それを察してか、桜ちゃんがオドオドとした顔になると、ようやく正直に答えてくれた。


「お父さんに頼んだの。最初はダメだって怒られたのだけれど、何回か頼んでようやく行く事が出来る様になったの」


「だろうな、じゃなきゃ入れねえ。それともう一つ……、()()()()()()()()?」


 それには志穂さんが手を挙げた。

 志穂さんは俺達が座る場所の近くまで来ると、本棚へと手を伸ばす。するとそこから黒くて小さい何かを取り出して、それをカズに見せると遂に激怒し始めた。


「テメェ……志穂、なんでそんなもんを俺の部屋に仕掛けた?」


 それは盗聴器。いつの間にそんな物を仕掛けたってカズは激怒して、それを志穂さんから奪うと目の前で握り潰した。


「テメェ、やって良いことと悪い事ってあるだろうが……。俺をそんなに怒らせてえのか? あ?」


 でも志穂さんはカズと目を合わせず、腕を組むと溜息を吐き、ジャングルの方に顔を向ける。


「聴いてんのか? おい、なんでこんなもんを仕掛けたって聞いてんだよ。女だからって俺がお前を、許すとでも思ったか!」


 ヤバイ!


 カズが志穂さんの胸ぐらを掴もうとしたから、それを俺達が咄嗟に動いて抑える。

 桜ちゃんや志穂さんですらカズの怒りを感じ取ったのか、その場で呼吸が出来なくなる程でもあったからよ。


「カズ、やり過ぎだ。桜ちゃんの体の事も考えろ」


 俺が耳元でそう言うと、カズは慌てて桜ちゃんを見た。

 その桜ちゃんは胸に手を当て、苦しそうな表情を見せている。


「ちっ! どうりで行けた訳だ。テメェが仕掛けた盗聴器で俺達の会話を聴いていた。それを理由に頼んだんじゃ無く、脅したんだろ? じゃなきゃそう簡単に官房長長官である、サーちゃんの親父さんが許可を出す訳ねえんだからよ。何時からだ? 何時からいた?」


「今日……、初めて行った……」


 桜ちゃんはカズの目を見るのが怖いからか、(うつむ)きながら酷く怯えて話す。

 カズは手に持っているタバコを消すと新たにタバコを出して吸い始めようとした。けどそここで、桜ちゃんの体を思い出してか火をつける前にやめて、深い溜息を吐きながらソファの上に深く座る。


「一瞬、2人の記憶を消そうかと考えたがやめだ。正直、流石の俺でもまだ怒りがおさまんねえけどな。2人が見た物、聞いたこと、それら全てを他言しないと誓うなら記憶を消さずにいてやる」


 カズのその言葉を聴き、2人の顔は若干、明るくなった。


「だがしかしだ。今から用意する紙にサインしろ。その紙に書かれてる事を守らなかったその時は、問答無用で記憶を消させてもらう。いいな?」


 2人は無言で何度も(うなず)いて誓うと口にした。

 誓うと聴いたカズは、テーブルの上に紙とペン、そして朱肉を用意し、そこにさっき話した事を書く。

 書き終えると2人にそこへサインと指印しろと伝え。2人は順番にサインと指印をすると、カズはそれを確かめた後にその紙を2枚、コピーしろとセッチに伝える。


「今、2人の目の前にはこちらの世界にはいない生物がいる。それは向こうの世界にしかいない生物達だ。バーゲスト、カーバンクル、ロックタートル、ブラックスコルピオ。この部屋にはその他にもいる。本来なら絶滅したとされる恐竜だって向こうの世界で進化して生き残っている。ちなみに美羽の側にいるワニみたいな奴はモササウルスで、こちら側で生き残っていた生物。だが、ある程度の力を与えて俺がモンスターにした。本来なら死ぬだろうが俺の手にかかれば簡単だ。そしてそんなモンスター達がいる異世界で、そろそろ大規模な戦争が始まる。お前らも一応よく聞いとけよ? 奴らが国境を越えるのは5日後だ。国境付近には既に幾つもの罠が仕掛けられ、その付近には自衛隊が既に幾つもの班に分かれて監視をしている。だからその近くに、明日から絶対に近づかねえ様にしろ。他の冒険者やハンター達は既に準備を整えている。テオやリリアが連れて来てくれた援軍もだ。戦争が落ち着きを見せるまで、クエストは中止になってる。だからサーちゃんと志穂がまた向こうに行こうと考えてるならそれはやめろ。戦争に巻き込まれるだけだぞ?」


 カズはドスを効かせた鋭い眼光で2人に行くなと話し。2人は汗を滲ませながら(うなず)く。

 俺達は帝国がもう時期来ると聞き、その目に闘志を燃やしていた。

 でも……、そんな俺達にカズは来るなと言って、俺達はどうして駄目なのかを聞く。


「お前ら、本当に()()()()()()()()?」


 ……戦争は確かに人と人が殺し合う。カズは俺達に人殺しをさせたくなかったからそう言ってくれてるってのがよく分かるんだけど……。


「俺が人を殺したのはお前らを助けた時が初めてじゃ無い。それ以前から数えきれない人間を殺している。お前達まで人殺しをさせる訳にはいかねえよ」


「カズ、お前の言いたい事はよく解る。でもな、俺達はもう……人1人殺してるも同然じゃねえか……」


 そう、俺達はヘカトンケイルとの戦いで、既に人間では無くなったものの人を殺したと思っている。

 ヘカトンケイルをどの様にして生み出したのかは解らねえ。それでも、その材料になった人達はそれで死んだとしても、ヘカトンケイルの中にその魂が残り続けている限りそれは本当の死じゃ無いって思っている。


「お前の気持ちは分かるよ憲明……。だがな、それとこれとは ーー」


「あぁもう、うっせえなあ」


 俺はカズの胸ぐらを掴んで軽く怒鳴った。


「カズ! 俺達はお前とチームを組んでる! 自衛隊や他の皆んなが戦うなら、俺達の出る幕は無えかもしんねえ。それでも俺達にだって戦う理由はある筈だ! お前は俺達を戦争に巻き込みたく無いからそう言ってるだけだろ? 俺達だって戦えるだけの力はある筈だ。違うか? お前がいくら俺達を止めようと、俺達は絶対に行くぞ!」


 俺達はとっくに覚悟を決めていた。だから、それだけは絶対に譲れねえ。

 そうして暫く睨み合い。俺の手をカズが払い退けると、深い溜息を吐きながら立ち上がって舌打ちをした。


「っとによぉ……、だったら約束しろテメェら。絶対に死ぬな。いいな?」


 その言葉に俺達全員の顔は明るくなり、感謝の言葉をカズに贈る。


「カズって本当に優しいね」


「あ?」


 美羽は、カズが俺達に人殺しになってほしく無いからと、戦争が終わるまで来るなと言ってくれている優しさが嬉しいからそう言った。

 俺達はそんなカズばかりに罪を背負わせたく無い、だからこそ自分達もその罪を共に背負いたかった。

 だからこそ逆にカズは、俺達に戦争に参加して欲しくなかったってのがよく分かったし、嬉しかった。


「……戦場で()()()()()が咲き出したら離れろ。もしくは()()()()()()()()()()()()()


 俺達の説得を諦めたカズはそう話した。

 黒い彼岸花が咲いたら何が起こるのか知らねえ。だけど、『巻き込まれたくなきゃ逃げろ』って言葉に、それが咲いたらヤバイ事が起こるということは理解した。


「お前らは出来るだけ後ろにいろ。俺は朱莉さん、刹那、B、骸、犬神でチームを組む。俺達が出る事が無ければ良いんだが、相手は恐らくまたヘカトンケイルを作って前線に出して来るだろう。その時は俺達が相手をする、お前達は絶対にヘカトンケイルには近づくな。良いな?」


 チームに犬神さんまで加えると言う事は、犬神さんも相当な実力者なんだな。中にはBまで加えているし。


 それに俺はタイラント・ワームの時に見た光景を思い出して、あの時は全然、カズが本気を出していた様には思えなくなっていた。それはここに来てカズの実力を間近で見ていたからこそ、そう思えてならない。


「なんか、ヤバそうなチームだなカズ」


 俺はただ(ひたい)に汗を滲ませ、苦笑いをしていた。


「俺が"黒竜"の二つ名がついた理由を見せてやるよ」


 そう言ってカズは自分の部屋にある冷蔵庫からコーラを取り出すと飲み始めた。


「俺の本気を止められるのは、今じゃ親父と朱莉さん、それにBぐらいだろうな。他にいるにはいるが、今は近くに居ねえし」


 そこでカズは桜ちゃんと志穂さんに視線を向け、2人がただ異世界に行きたかっただけなのかを聞くと、桜ちゃんはそうだと言うけど、志穂さんは違ったみたいだ。


「私もアンタ達みたいに冒険者になりたいと思ってる」


 その言葉に俺達は驚きはしない。でも逆に桜ちゃんが驚いて、志穂さんに顔を向けた。


「冒険者になって、桜の心臓をちゃんと治してあげたいって思ってる。でも……」


 すると志穂さんはカズを睨んだ。


「盗聴器を仕掛けた事は謝るわ。でも、盗聴器を仕掛けた事で私は貴重な情報をもう一つ手に入れる事が出来た。それはアンタよカズ。カズなら桜の心臓を治せるんじゃないの?」


 その事について俺達も気がついていたさ。カズのスキルを使えば、桜ちゃんを完全な健康体に戻すが出来る筈だってな。

 時間がかかってはいるけど、ルカちゃんの目を治す為にカズは毎日能力を使用している。

 それを桜ちゃんにしなかったのは、カズの力を知られる訳にはいかなかったからだろうと思う。その時はカズの力で記憶を改竄(かいざん)させれば済む話だとも思えたりもするんだけど。

 んじゃどうして今までしなかったのだろうと疑問にもなる。


「……確かに可能だ」


 カズも志穂さんを睨みつけると、そう答えた。


「だったら治してよ!」


 怒り混じりの声で志穂さんはカズに伝える。だけど、そのカズは暫く目を(つむ)って、黙っちまった。


「なんで治してくれないのよ! アンタなら出来るんでしょ?!」


 カズなら出来るだろうけど、何かあるから出来なかったんだろうな……。


 俺がそう思っても、志穂さんは今の今までその力を持っているのにどうして桜ちゃんを助けてやらなかったんだって、カズにどんどん怒りが込み上がっていた。


 でもそうじゃないんだろ?


 カズだって本当なら直ぐに治してやりたいと思っていた筈だ。それでも異世界の存在を知っているのは桜ちゃんの親父さんである官房長官ぐらいで。その他に、カズは過去の出来事があってか桜ちゃんに近づくのを自然と恐れていたからなんじゃないかって思っちまう。

 んじゃ内密に会う事が出来なかったのかと言われれば、それは無理だろうな。

 学校、桜ちゃんの家、どこに行こうとどこかで記者が張り込んでいる可能性があるし。だからと言ってその記者が所属する会社に圧力を掛けたところでおかしく思われるとも考えられる。

 実はこの間のカズと桜ちゃんが、学校の校庭で決闘をした事ですら記者に嗅ぎつけられ、その事実を揉み消すのに色々と大変な事になっていたらしい。

 だから下手に動く事が出来ない状態がずっと続いていたんだと思う。


「治せるなら今直ぐ治して!」


 鬼気迫る顔で志穂さんがカズを睨む。するとカズは目を開け、一言だけ2人に伝えた。


()()()


 その言葉を聞いて、志穂さんは更に激怒し始めるけど、その理由をカズは伝えた。


()()()()()()()()()()()()()()()。無理なのはそれが理由だ……。流石に俺でじゃ、()()()()()()()()()()()()()


「そ……そんな……」


 その理由にショックを受けた志穂さんは、愕然とした顔で黙った。


「理由はいくつかある。1、その心臓との適合率だ。適合率が高かったから手術をした。だが、中にはその適合率がいくら高くても、中にはそう長くないのも事実。2、だからそんな心臓をいくら俺の力で治そうと、拒絶反応を引き起こす可能性がある。3、そんな心臓と体の適合率を100%にしたとしよう。そうなれば最早別人だ。サーちゃんはサーちゃんでも、正真正銘のサーちゃんじゃ無くなる。DNA自体が変わっちまうんだからな。だから無理だ。出来る事は俺のスキルでちょくちょく安定させてやる事しか出来ねえ。これが仮に、まだ手術前であれば話は別だったんだがな……」


 つまり、手術をする前であれば、カズは桜ちゃんを完全に治す事が出来たって事だ。


 って事は、カズの力を使えば、なんとか延命させられる事が出来る……、って事だよな?


 それは志穂さんだけじゃなく桜ちゃんも気がついた。


「つまり、アンタがいれば……」


「あぁ……、俺がいればサーちゃんは早死にしなくて済む」


 それだけでも涙を流しながら2人は喜んだ。

 そしてカズは、2()()()()()()()()()()()()()()が気になり、話を聴くと2人はどうやら市ヶ谷駐屯地から来た事が判明した。


「っとに……、後でサーちゃんの親父さんが文句を言われるんじゃ無く、俺が文句を言われるじゃねえか……」


 カズは頭を抱えて嘆いた。


「さっき言った通りそろそろ戦争が始まるんだ。だからあっちこっちで自衛隊が忙しくしてる中を来るなんて……」


「確かに。なんか向こうに行く為の地下道を車で乗せてもらってる時、戦車とか何かの部品やらなんやらを運んでいたね」


 桜ちゃんは人差し指を顎に当て、その時に見た物がなんなのか話してくれた。


「この貸しはデケェからな?」


 改めてカズが軽く2人を睨むと、桜ちゃんと志穂さんは流石に申し訳ないと思ったからか、顔を下に(うつむ)かせる。


「っとによぉ……。取り敢えずサーちゃん、今から俺の力を使うからジッとしてろよ?」


「え? うん」


 カズは桜ちゃんの横に座る志穂さんに離れろと言って、桜ちゃんの側に移動すると、その胸の上に右手を軽く当てた。


「始めるぞ」


 カズの右手から赤黒い魔力が光る。時間がかかるかと思ったけど、それを数分で終わらせるとまた向かい側のソファへと座った。


「どうなってんだよその心臓。去年手術した割にはかなり弱ってるじゃねえかよ」


 カズは眉間にシワを寄せて驚き、俺達もその話を聴いて驚いた。


「うん……、このままだったらもう、長くないって言われたんだ……」


 そっか……、だから桜ちゃんはカズを……。


 桜ちゃんは胸の前に右手を置き。カズがまだ生きられる様に力を使ってくれた事が嬉しいからなのか、優しい微笑みを見せてそう話した。


「正直危なかったぞ……。そんなに弱ってる心臓を移植しちまったのなら、さっきの話は尚更だ。これからは定期的に俺が力を使ってやるよ……」


「……うん!」


 カズにそう言ってもらって、桜ちゃんの顔からその嬉しさが滲み出ていた。

 桜ちゃんとしては前にカズとの決闘をした時の約束があるんだろうけど、それを無かった事に出来たら良いなって、俺は思う。

 それに桜ちゃんは、今はカズと美羽が付き合っている事を知っている筈だ。それでもカズと仲直りしたいと思っているならどうにか協力してやりたい。また……、昔みたいにはいかねえかもしんねえけど、仲直り出来ればと俺は思っていた。


 その日はそれで桜ちゃんと志穂さんは帰り、俺達はジャングルの中にあるテントに入って寝る事にした。

 カズはカズでまだやる事があるからと1人で何処かへと出かけ。美羽はその日、沙耶と一緒にカズのベットの上で寝る。

 でもその日の晩、カズが帰って来る事は無かった。それはBも一緒で、全然帰ってくる様子が無かった。


和也の部屋に突然現れた桜と志穂。

この2人がどうして異世界に行けたのか。そして、なんの目的があって異世界に行ったのか。その理由が解って貰えたかと思いますが、桜の心に巣食い始めた闇はいったいどうなったのか疑問ですね。

では、それはまたいずれどうなるのか解って頂くためにも、今後も読んで頂けますと嬉しいです✨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ