第91話 銀月と炎剣
試合が終わってから数時間後。
22:30
俺はカズの部屋にあるソファに座り、皆んなでこれからの戦術について勉強会を開いていた。
美羽に戦術の勉強も良いが、それだけのやる気があるなら学校の勉強にもやる気を出せとツッコミを入れられもしながら……。
でもそんな美羽は数時間前にカズからカラミティー・ドラゴンの子供を譲って貰ったからめちゃくちゃ機嫌が良い。
カズは「お前にもなにかくれてやる」と言って姿を消して、今だに帰ってきていなかった。
「でもさ〜、やっぱカズに色々と教えて貰ったせいか、美羽メッチャ強くなったよね〜」
沙耶も思ってたより美羽が強くなっている事に驚いていた。
「結局、美羽が手に入れたからめっちゃくちゃ羨ましい」
俺は悔しがった事を口にしたけど、なんか晴れ晴れとした気分だった。
それは今の自分の欠点と、反省すべき点を見つける事が出来たからな。
そこでヤッさんが思った事を俺達に話す。
「相手と相性もあるけどさ。初めて戦う様なモンスターとか敵に対して情報を持ってる訳じゃ無い。そこからどうやって情報を引き出し、どう対処しないといけないのかを色々と学んだ気がする。現に僕と憲明はステラが持つスキルを理解出来なかった。そのせいで僕は負けたんだけどね」
ヤッさんが苦笑いしながら美羽に視線を向けると、美羽は木の根元に座り。その膝を枕にして、アクアとカラミティー・ドラゴンの子供が仲良く寝ているところを優しく撫でていた。
「今まで知ってた様で知らなかった。今回の試合は俺達にとって良い経験にはなったな。俺達はカズを頼っていたから周りが見えていなかった。カズばかりを頼るんじゃ無く、俺達自身の事をもっと知り、お互いの弱い部分を補って協力しなきゃいけなかった。気づいてる様で何も気づかなかったからこそ、俺達は負けた」
一樹は沙耶との勝負を振り返る。
一樹にしてみればこれまでの戦闘は自然とそう言った事が出来ていると思っていたのが、それは単なる思い過ごしであり。これまではたまたま上手く連携が出来ていただけなんじゃないかと考えたみたいだ。
「俺達が1人1人戦って、自分に合った戦闘距離とかってあるだろ? でもよ……、やっぱ誰がどの位の距離が1番良いのかってわかんねえよな。解るとしたら本人が気づいた時であって、他人から見てそれが合ってるのかどうかって本当はわかんねえもんな?」
一樹の考えは最もだ。
でも……、それでもそんな俺達ですら解る相手が1人だけいる。
カズだ……。
俺は苦笑いを浮かべながらカズがどんな戦闘をするのか、改めて考えて口にした。
「アイツは近接戦は勿論、中距離、遠距離とバランスが取れた戦闘が出来る。凶悪な握力を持つ手に、"デュアル"を装備して見ろ。正直言って近づきたく無え。だからって距離を取れば、あの"ゼイラム"がもの凄え速さで攻撃してくる……。それよりもっと離れれば、こっちの攻撃の威力は弱くなる。ましてや闇の剣を出して、あの黒い大砲をカズが撃ってくる。あるいは"ブローニングM2A1マシンガン"をゼイラムに装備させて撃ってくる。何時だったかそれで森を破壊……。それにアイツの事だから他にもまだまだ色々と隠してるし、アイツの強さを考えたら間違い無く最強だろ……」
それを聞いた全員の顔が青ざめて、コクリと頷く。
そこで沙耶が今まで疑問に思っていた事を聞いてきた。
「そう言えばさ。"ゼイラム"の先端に付いてるあの鎌みたいな怖いヤツって、結局なんの材料を使ってるんだろ? 帯状の紐って確か"ディラルボア"と"八岐大蛇"の皮で作られてんでしょ? やっぱアレもそうなのかな?」
沙耶の発言を聴き、俺はもしかしたらと思った事を口にした。
「カラミティー・ドラゴンの親とか?」
俺は死んだカラミティー・ドラゴンの親から、爪か何かを素材にして使っているんじゃないかと思った。
当然その発言で全員がハッとした顔になる。
"デュアル"は"ディラルボア"の牙等を使って作られていると聞いた事がある。
美羽が譲って貰ったカラミティー・ドラゴンの子供の親は既にこの世にいない。つまり、その親をカズが倒したからなのではないかとも考えたけど、そこで美羽もその話に入って来ると気になった事を口にする。
「ねえ、この間、マークさんが竜の話をしてくれたの覚えてる? それってもしかして、この子の親なんじゃない?」
確かに!
確かにマークのおっさんは開会式の時、カラミティー・ドラゴンの事で妙な事を言っていた記憶がある。
そしてカズが"曼蛇"を作る為、"八岐大蛇"を起こした時期と、カラミティー・ドラゴンの卵を入手した時期が一致するのであれば、その可能性が高くなる。
っと、そんな話をしているところに、そこへカズが何か大きな荷物を持って帰って来た。
「待たせたな憲明。こっちに来てくれるか?」
「ん?」
呼ばれた俺はなんだろうと思いながら行くと、手に持っていた荷物を手渡されるけど、なんだか軽かった。
それは布に包まれた木箱で。カズが「開けて見ろ」と言うから下に置いて木箱を開けた。
そこには、一本の大剣が入っていた。
「うおっ! カッけええ! なんだよこの剣!」
持ち手となるグリップ (握り) は黒く細いものの、俺の手に不思議と馴染む。鞘は真紅色の鳥みたいなデザインで、めちゃくちゃカッコいい。
ガード (鍔)とボンメル (柄)はまるで炎の翼の様なデザインがされている。
そして、鞘から剣を抜いて見ると、ブレイド (剣身)も鞘と一緒で美しい真紅色。そのブレイドには黒い模様が入っていて、まるで芸術品の様な大剣だった。
羽みたいにめちゃくちゃ軽い! 持ってるって感覚が殆ど無い!
俺はその剣に一目惚れした。
「欲しいか?」
え?! マジっ?! ……でも。
カズの言葉に欲しいって言いそうになるけど、その剣は俺でも分かるくらい、なんか高価そうに思えた。
「確かに欲しい……、でも、これってめちゃくちゃ高いだろ?」
「あ? 何言ってんだお前? これは俺が作った剣だ」
「はあ?! マジか?!」
カズの手で作られた物と知り、俺は軽く驚いた。
「この剣の名は"フレイムバード"。武器のランクはB判定が付いている。お前にやるよ」
「えっ?!」
マジで言ってんのか……?
剣はめちゃくちゃカッコよくて綺麗なのに、Bランクだと聴いて驚きつつも、その後の言葉にもっと驚いた。
「その"フレイムバード"は名前の通り炎属性の剣だ。お前にピッタリだろ? それにBランクの武器と言えど、その剣には魔鉱石とかをかなり使ってるからな。持ち主によってその剣は成長し、形を変える。だから今はBランクだが、お前次第でその剣はAにもSにもなれる」
な、なんだって?!
カズはそう言って懐からブラックデビルを取り出し、タバコに火をつけて吸い始めた。
「強化したけりゃそれなりのモンスターを倒し、その素材を使って強化する事も出来る。炎系だからモンスターも炎系じゃねえと意味ねえからな?」
「……大事にする!」
剣を鞘に戻し、俺は心の底からカズに感謝した。
それを見ていた一樹とヤッさんが更に羨ましがるけど、俺が決勝戦でそれなりに良い試合を魅せたからこそ与えたって、カズが言って2人を黙らせた。
「今回は憲明も頑張ったからくれてやったんだ。欲しけりゃテメェの力で素材を集めて持って来い。そしたら作ってやる」
2人はそれを聴くと、どんなモンスターの素材を集めようかと話し合いが始まる。
けど、カズはその後「金は勿論払えよ?」の言葉に涙目になった。
「当たり前だ馬鹿が、美羽だってちゃんと金を払ったんだぞ?」
そこで全員が美羽の腰に、見慣れない短剣があるのを思い出してそっちに視線が集まる。
「美羽は"ルプトラ・マンティス"と"ルーナファーレ"の花を使って俺に依頼したんだ。それなりに良いのが出来たぜ?」
美羽はアクアとカラミティー・ドラゴンの子供を起こさない様に、静かに短剣を出そうとするけど、結局2匹とも起きた。
「あぁゴメン。寝てて良いよ?」
そう言ってもアクアとカラミティー・ドラゴンの子供は完全に目が覚めたのか、その場でじゃれ始める。
「そういやお前、そいつの名前は決めたのかよ?」
カズにそう聞かれて、美羽はまだカラミティー・ドラゴンの子供に、どんな名前が良いか悩んでいるみたいだ。
「逆にどんなのが良いと思う?」
「自分の家族の名前くらいは考えろよ……」
「そうだけど……」
ん、確かにカズの言う通りだ。自分の家族なのだから自分で考え方が良いに決まってる。
「何でも良いって訳にもいかねえけどよ。お前がそいつを見て、これだって名前で良いんじゃねえのか?」
そう言われると、目の前でアクアと遊んでいるカラミティー・ドラゴンの子供をジッと見つめる。
「銀……、3本首……、竜……、月……、なんか月ってイメージも良いんだけどなんか無いかなぁ…………。あっ! "銀月"ってどうかな?!」
「"銀月"……、単純だな、でもなんか悪くねえ。……良いんじゃねえか? でもなんでまたそんな名前にしたんだ?」
カズの質問に美羽はカラミティー・ドラゴンの子供を抱き上げながら説明してくれた。
「この子の体って白変種って言われる白い体なんでしょ? 白銀色で綺麗だし、どこか月って感じもするじゃない? なんか今、閃いたんだよね」
〈クルル?〉
〈キュルル?〉
〈フルルッ?〉
三つの頭がそれぞれ違った鳴き方をして、そのどれもが「何の話し?」って言いたげに頭を傾げるから可愛い。
次に、美羽はスマホを取り出すと何かを検索し、出て来た内容をメモしだした。
「今日からアナタ達3人の名前は"銀月"です。ちなみに真ん中の君が"千月"」
〈クルル?〉
「右側の君が"夕月"」
〈キュルル?〉
「そして左側の君は"葉月"」
〈フルルッ?〉
「皆んな、改めて宜しく!」
美羽はひとつひとつの頭にも名前をつける為に、どんな名前が良いかスマホで探し出したみたいだ。
「"千月"は月の輝く光りが、何千里も離れた場所まで照らしているって意味があるんだって。"夕月"は日が暮れる前に、もう空に登っている白い月で、秋の季語なんだってさ。"葉月"は汚れていない、純粋で綺麗な心を意味してるらしいの。どう? 気に入ってくれた?」
3つの頭、もとい3匹は互いの顔を見合わせると、どうやらその名前を気に入ったのか、なんか嬉しそうに美羽に甘え始める。
「あははっ! 気に入ってくれたみたいで良かった!」
「お前らしいよ美羽。大事にしてやってくれ」
「うん!」
するとそこにアクアが来て銀月に遊ぼうと誘い、喜んで遊び出す。
美羽はそんな2匹? 4匹? を見て微笑むと立ち上がり。2本の短剣を改めて俺達に見せてくれると、改めてカズが説明をした。
「こいつにはまだ名前が無い。名前は美羽に任せたからな。今この短剣は無属性。強化や成長するにしたがい、どう変化をするのかは美羽次第。だが切れ味は抜群だ。この純白の短剣にはさっき言った2種類の他に魔鉱石しか使っていない。白を強調したいなら白いモンスターの素材を使っても良いし、他の色が混ざっても良いなら好きに強化すれば良い」
俺達はその短剣をもっと近くで見たいと思って顔を近づけると、ある事に気がついた。
「これ、光ってるよな?」
そう聴くと、カズは軽く鼻で笑う。
「その通りだ、その剣には"ルーナファーレ"が使われているからな。だから ーー」
カズが話してる途中で部屋にセッチが入って来たから話が突然中断した。
でもそれだけで話を中断する事をカズはし無い。ましてやセッチの様子がおかしい。それは俺達でも直ぐに解った程で、顔が何故か動揺している。
「あ……あの……」
セッチがカズに話しかけようとするけど、それを手で遮り、頭を横に振る。
その顔は怒っていると言うより、なんか悲しげな表情に近い。
「そこにいるんだろ? 入って来たらどうなんだ?」
いる? 誰が?
カズがそう言うと、部屋に2人の女性が入って来た。
その女性の顔を見た俺達は、何故、この2人が此処にいるのか疑問を抱きながらも驚いた。
それは桜ちゃんと志穂さんの2人だったからなんだ。
ギ○ラもとい、銀月。真ん中は"千月"、右側が"夕月"、左側が"葉月"。皆様的にはこの名前、どうでしょうか? 私としてはかなり気に入っております✨
さて、この銀月ですが。皆様も御想像されてるとは思いますが、正に最強と呼ばれるモンスターに成長致します。
まぁ、そのお話はまだまだ先も先の話になりますが。
それではまた次回に♪