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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第3章 蠢きだす闇
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第89話 俺がアイツの右腕だ


 もう少しで試合の時間か。


 俺は1人控え室の中、美羽との勝負に緊張していた。


 まず間違い無くステラを出してくるに違いない……。でもどう対策したら良い……。


 そう考えていると、扉をノックする音を耳にして入り口へ顔を向ける。そこには俺に微笑みかける犬神さんが立っていた。


「犬神さん、どうしたんすか?」


「ん? 邪魔したか?」


「そんな訳無いっすよ!」


 俺も微笑んで、犬神さんを控室の中へ通した。

 そして犬神さんは何も言わず俺の横へ静かに座ると。


「随分と悩んでる様だな」


 犬神さんにはバレバレで、悩む事は大切だとも言ってくれた。

 その後、犬神さんはカズの事を話し出した。


「お前は前に、若のステータスプレートを見た事あるんだって?」


「はい、あります」


「お前から見てどう思った?」


 そう聞かれ、苦笑いしながら素直に見た時の感想を口にするしか無い。


「なんか、ここに来た時はこれでようやくアイツに追いつけるかもって思ってたんすけど。自分のステータスプレートとアイツのステータスプレートを見て、その差が開いていてショックでした」


 俺が話す間、犬神さんは優しい微笑みのまま、黙って隣で聴き続けてくれた。


「スキルもチート過ぎて、後でそれを思い出して笑いましたね。1人で……。"創造"とか、なんすかアレ、反則過ぎませんか? でも……、アイツがなんであんなに強いのか納得した自分もいたんすよ……。アイツには追いつけない。けど、それでもなんとかアイツに近づけられる様に頑張りたい自分がいるんすよ」


「そうか」


 犬神さんは一度目を閉じた後、ある事を告げた。


「実はお前達全員には、いずれ話さなきゃならないと思っていた事があるんだ」


 それを聴いてなんだろうと首を(かし)げると。


「お前達が見た若のステータスプレート。恐らくあれは幾らか改ざんされている」


 改ざんされてるって聴いても、別に驚くことじゃ無かったから、俺は軽く笑った。


「犬神さん、そんな事っすか?」


 すると逆に犬神さんが驚いたって顔になった。


「驚かないのか?」


「当たり前じゃないっすか。そんな事、俺達全員がとっくに気づいてましたよ」


 そう、俺達はその事に気が付いていた。

 カズの実力と、ステータスプレートに書かれている内容が全然違う。だからカズはステータスプレートを幾らか改ざんしたんじゃないかって、以前から疑問に思っていた。


「だって犬神さん。アイツ、強過ぎるんですよ。だからワザと弱い数字にしてるのか、それ用にあえて作っていたけどそれでも見せる気にならなかったんじゃねえかと思って、皆んなで話した事があるんすよ。アイツは秘密主義なところがある。だから本当の強さを隠してるんじゃないのかって」


 俺はヘカトンケイルとの戦いや、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の皮で作った曼蛇(マンダ)の事を思い出した。


「アイツから漂う異常な雰囲気は、前の俺達なら分からずに、ただ怖がっていたと思うんすよ。でもここに来て、俺達にも気配や雰囲気を理解出来る様になりました。だからなんとなくアイツがどれだけ強いのか、ヒシヒシと伝わってくるんすよ」


 そこで目の前にはある液晶モニターに目が行くと、そこには今までの試合が何度もリプレイされて流れている。


「不思議ですよね。俺達は異世界の存在を知らなかった。でも今はこうして異世界に来て、カズが主催するこんなイベントで試合をしている。現実では理解する事が出来ない様なモンスター達がいる。そして、そんなモンスターをテイムする事が出来たら、パートナーとして一緒に戦う事が出来る。最初はペット的な感じがしたけど、今はパートナーって言われる通りで俺も家族の様に思えます。そして魔法がある。だからまるで夢を見てるんじゃないのかって思う時があるんすよ。だからここに連れて来てくれたカズやBには感謝してるっす」


 俺は心の底からカズとBに感謝している。

 初め、Bは俺達を遊び相手に出来ないか考え、わざわざ夜城邸に言いに来た。そしてその後はカズが連れて来てくれた。

 親父さん達もなんだかんだで俺達を助けてくれる。

 そして、今では多くの友人達を作る事が出来た。

 B、マークのおっさん、テオ、リリア、その他にも沢山の友人が出来た事に幸せを感じる。


「だから犬神さん、アイツがどれだけ強くても良いんすよ。アイツは隠し事が多いけど、それを俺達に教えてくれても良いと思った時には必ず教えてくれます。言わなきゃ教えてくれない事もある。でもそれで良いって、俺だけじゃなく他の奴らも思ってます」


「そっか。お前達がそう思ってくれてるならそれで良いんだ」


 するとそこへ、カメラを持ったヒャッハーなお兄さん達がいきなりやって来て俺達は驚いた。でも、そのお兄さん達は2回戦の時もカメラを回し、俺が闘技場へ行く時も回していたお兄さん達だ。


「よぅよぅよぅ、おっ始める前に質問だ。入場曲があれば流すから教えろってカズからの伝言だぜ?」


 入場曲?


 それを聞いて何にするか考えて、これだなって曲を伝える。

 聞いたヒャッハーなお兄さんが1人、その曲がなんなのか伝える為に走って戻って行く。


 そして、俺は美羽との決勝が近づくにつれ、熱い闘志を燃えたぎらせた。


 絶対に勝つ。"カラミティー・ドラゴン"の子供は俺が手に入れる。

 そして、チーム"夜空"のNo.2は俺だってことを皆に教えてやるんだ!



 18:45



 会場となる闘技場内が突然暗転し、月の光りだけが辺りを照らす。

 すると、2つのライトがマークのおっさんだけを照らし出し、画面にも映し出される。


「皆様大変長らくお待たせ致しました。これより、憲明VS美羽による……、決勝戦の開幕です!」


「「ウオオオオオオ!!」」


 それを聴いた人達が待ってましたと言わんばかりの大歓声を響かせる。


「実況は引き続き(わたくし)、マークがまたまた務めさせて頂きます。引き続きお二人も宜しくお願い致します」


「宜しくお願いします」

「宜しくお願い致します」


 実況は引き続きマークのおっさんが担当、解説としてカズとネイガルさんがまた登場する。


「ではさっそく先にこちらから呼ぶとしましょう」


 そう言うと、会場内にとある入場曲が流れ、イントロが終わる頃にマークのおっさんが語り始めた。


「テオ、沙耶の2人を制し。この男が決勝戦の切符を手にして参りました」


 まずは俺からか。


「カズの横は彼女であるお前にくれてやる。だがカズのライバルは他の誰でも無い、この俺だ。その座は誰にも渡しはしない。チーム夜空のNo.2もこの俺だ! 美羽、覚悟しろ。今夜俺はカラミティー・ドラゴンを手に入れてパートナーにする。そして、伝説級のモンスターへと俺が育て上げて魅せる! (おとこ)憲明花の道。咲かせて魅せるは勝利花。憲明選手、入〜場〜!!」


 西ゲート門にライトが照らされ、門の両サイドから巨大な炎の柱が噴き上がった。


「よし、行くぜクロ!」


<ガウッ!>


 門から俺が出てくると、大勢の人達から盛大な歓声が贈られた。

 そんな中を俺が中心へ歩き始めると、左右から次々と火柱が噴き上がり、その真ん中を突き進む。

 そこでマークのおっさんが解析者席で話を始めた。


「さっ、遂にやって参りました。まず初めに出て来たのは憲明選手です。パートナーはバーゲストのクロ。気合い十分と言った顔をしておりますね」


 それでカズは「そうですね」と相槌をする。

 中心に着くと、俺はそこで軽くシャドーボクシングをする。


「なかなか良い動きです」


 マークのおっさんがそう言うと音楽が止まり、今度は違う音楽が流れ始める。


 やっぱその曲で来たか。


 音楽は美羽が歌手として活動する"MIYA (ミーヤ)"自身の曲、「KIZU」。

 そしてマークのおっさんがまた語る。


「玲司を見事な技で制し、2回戦では決勝のシード券をその運で獲得。憲明よ、私がカズの彼女になれただけで満足してると思ったか? 私を甘く見てたら大間違い。私こそがカズの真のパートナーだ。あの子は私こそ相応しい。あの子を育て、ステラ達と一緒にカズを支えて魅せる! 可憐なる黒き一輪華(いちりんか)。魅せてくれるは竜の花。美羽選手、入〜場〜!」


 東ゲートが照らされ、俺の時とは違って大量の、色々な彩の花弁(はなびら)が舞い上がる。

 門が開くと美羽が現れ、"分裂"したステラが周りで美しく舞い飛び、会場内の人達はより一層、夜に輝くステラの幻想的で美しい光りに見惚れて言葉が出ない状態になった。

 その美羽はV系メイクをしている。

 美羽が静かに歩き出すと、その左右から次々と大量の花弁(はなびら)が舞い上がり、ステラの光りと花弁(はなびら)が合わさる事で、誰もが魅了される。

 そんな中、マークのおっさんが静かに話し始めた。


「パートナーのステラと共にやって参りました。夜に見るとその美しさが更に際立っております。それに今回はメイクをしていて可愛いのにカッコいいですね~。その表情には不適な笑みが(こぼ)れ、勝利する自信が(あふ)れている様です」


 中心にやって来た美羽に、俺はシャドーボクシングをやめて話しかけた。


「珍しいな、お前がメイクするなんて。キマってるじゃねえかM()I()Y()A()


「ふふっ、だって今夜はカズの為のステージだもん」


「ははっ、ステージってきたか」


 美羽が微笑んだ表情で返事を返してきたその数秒後。


「アイツは俺が貰う」

「あの子は渡さないよ」


 俺達2人の言葉が重なり、睨み合いを始めた。

 そんな俺達を見て、会場を揺るがす程の声援が会場を包み込み。大画面には俺の写真と、美羽としてじゃなくMIYAとしてのカッコいい写真が映し出されてマークのおっさんが紹介を始める。


「まさかここで美羽選手がMIYAとして出て来るとは予想もしておりませんでした。御存知の方もおられるかと思いますが、美羽選手は向こう側の世界では世界の歌姫(ディーヴァ)として超有名な人物。その歌声は多くの人々を(とりこ)にしてしまう程。今流れている曲も彼女自身の曲です。もしかし和也さんがメイクする様に伝えたんですか?」


「はい、私がせっかくだからメイクしたらどうだと話しました」


「成る程そうだったんですね。しかし、メイクをすると雰囲気が随分と変わりますね。おっとここで美羽選手は軽くスパーリングを始めました。こちらも気合は十分の様です」


 俺は美羽のスパーリングを見てもう一度シャドーボクシングを始める。

 すると夜空から無数のコウモリが集まりだし、俺と美羽のところに降りて来るとそれは徐々に人の形に変わり、コウモリの形をしたオーラを放ちながら先生が姿を現した。


「待たせたわね。準備は良いかしら?」


 先生は凛とした表情で微笑み、俺と美羽に質問した。


「「ウオオオオオオ!!」」


 先生の登場に多くの人達が歓声を上げ、俺達2人は頷いた。


「そぅ、それなら始めましょうか。これより! 憲明VS美羽の決勝戦を始めます!」


「「ウオオオオオオ!!」」


 歓声と共に闘技場はようやくライトで明るくなり、いよいよ決勝戦の時間がやって来た。


「両者前へ!」


 先生の言葉で前に進むと、待ってましたと言わんばかりの大歓声が更に上がる。

 俺達は再び睨み合う。

 俺達2人は先生の合図を黙って待ち、先生が両手を軽く広げて定刻通りの時間が来るのを待つと、会場内は完全に静まりかえった。


次回、憲明と美羽がバトル。

さて、勝負は如何に?

それではまた次回をお楽しみに♪

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