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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第3章 蠢きだす闇
88/336

第87話 準決勝


 15:00



「さあ間も無く第二回戦が始まろうとしています。司会進行は(わたくし)、マークがまた進行を務めさせて頂きます。そして解説にはこちら、和也さんとネイガルさんにまたお越し頂いております。和也さん、ネイガルさん、また宜しく御願いします」


「宜しくお願いします」

「宜しく御願い致します」


 3人はこれからどんな試合になるのかを話しつつ、それを聴いている会場の人達をより盛り上げる。

 そんな会場となる闘技場の外は最早お祭り騒ぎで、色々な屋台が立ち並んでいた。

 勝負に負けたテオはリリアと共に屋台を周って楽しむとか言ってたし。一樹とヤッさんは男2人で楽しんでるみたいだ。



 15:20



「さていよいよ時間だ。これからクジを引く訳だが2回戦は3人しかいねえ。だからクジで名前を呼ばれなかった奴は自動的に決勝戦へと歩を進めるって訳だ。さぁ、誰が出るんだ? まず1人目はコイツだ!」


 俺はその瞬間を控え室の画面越しで見ていた。

 マークのおっさんが透明な箱の中に手を入れて1枚の紙を取って開くと。


「1人目はコイツだ! サ~ヤアァァァ!!」


 1人目は沙耶か。


「2人目は! ノ~リアキィィィィ!!」


 ……俺か。


 これで美羽は自動的に決勝戦へのシード券を獲得した事になる。

 正直、美羽と沙耶で当たって欲しかったのが本音だ。

 その2人が当たったのなら、俺は直接2人の立ち回りかたをこの目で見たかった。

 むしろ美羽の動きを観察したかった。 


東ゲート(青コーナー)、憲明選手、入場!」


「「ウオオオオオオ!!」」


西ゲート(赤コーナー)、沙耶選手、入場!」


「「ウオオオオオオ!!」」


 ……行くか。


 大画面に俺と沙耶の写真が映し出され、呼ばれた俺達はお互い違う控室から出るんだけど、その様子をカメラが映している。

 その片隅には解説画面も映し出され、マークのおっさんとカズの2人がとても良い、ニコやかな笑顔で解説し続けていた。


「さあやって参りました第二試合。和也さん、この試合どう予想されますか?」


「そうですね。まず沙耶選手には強力な武器があります」


「それはあのガルですね?」


「はい。それに初戦で魅せたあの"F2"と言う竜巻を使った技は見事でしたね」


「確かにそうですね。"F2"をしながらガルのコンボはちょっと強力ですね」


「次に憲明選手ですが、彼のポテンシャルは私が言うのもなんですが結構良いところまで育ってるんじゃないですかね」


「っと言いますと?」


「話によると初戦で魅せた"炎狼斬(えんろうざん)"ですが、あの技は頭に思い浮かんだからやってみたそうなんですよ」


「ほう? それはなかなか面白い話ですね。普通なら鍛錬してようやく技を獲得するものですが。やはり和也さんがシゴかれただけの事はありますね」


「いやいや、私はただ彼らの基礎を鍛えていたにすぎませんよ」


「はははははっ! またそんな御謙遜(ごけんそん)を。おっと? ここで両者が遂に闘技場へやって来たようです」


 俺達が姿を現した事で観客達は待ってましたと言わんばかりの大歓声で盛り上げをみせる。


「さあここでジャッジが代わり、第二試合からはこの方がしてくれます」


 ん? そのまま稲垣陸将じゃねえの?


 そう思ってたら、まさかの先生がヴァンパイア・モードで空から闘技場の中心に降り立ち、その姿に観客達は更に熱くなる。


「稲垣陸将に代わって今から私が審判をします」


「「ウオオオオオオ!!」」


 なんか……、顔には出してねえけど恥ずかしがってる感じがするな……。


 俺はそう感じながら中央に行く。


「まさか先生が審判かよ」


「しかもヴァンパイアの姿だし〜」


「ふふっ、宜しくね2人共。さっ、準備は良いかしら?」


 先生の言葉に俺達は同時に「いつでも」って応える。

 先生は微笑むと、静かに両手を広げ、一気に両手をクロスさせると開始の合図を言った。


「始め!」


 まず先に動いたのは沙耶だ。アーチェリーで風の矢を何度も放ちながら俺との距離を取る。


「クロ、頼んだ!」


〈ガウッ!〉


 クロが俺の肩にしがみ付き。長いチェーンで風の矢を迎撃。

 そのままクロに迎撃をさせながら、俺は沙耶との距離を縮める為、前へ走る。


「ピノ! "物理魔法結界"!」


<キュウ!>


 ピノの魔法で沙耶は物理攻撃を跳ね返す結界を張る。


「"ファイヤーブレット"!」


 俺は背後に炎系魔法陣を3つ出すと、炎の弾丸を沙耶目掛けて放つ。


「ピノ! "対魔法結界"!」


 今度は魔法をある程度の威力なら跳ね返す事が出来る結界をピノに張らせる。いわゆる"リフレクト"ってやつだ。でもピノはそこまで強く育っていない為、ある程度の攻撃しか跳ね返す事が出来ず、一定の魔法攻撃をされると直ぐに消えちまうのが弱点だってことを俺は知ってる。


「くっうっ!」


 クロの物理攻撃と、俺の魔法攻撃による同時攻撃で、ピノの能力が全然追い付かず、沙耶を押すことが出来る。


「うおぉぉぉぉぉ!」


 沙耶との距離を縮めた俺は剣で"物理魔法結界"を何度も攻撃して、同時にクロもチェーンで攻撃。更には"ファイヤーブレット"で沙耶を圧倒する連携に持ち込む。

 沙耶は何度もピノに結界を張らせ、反撃に出たそうにすっけど、それを俺とクロが許さない。


「グッ! ウッ……! だったら!」


 沙耶が足元に風を集めると、空高く逃げた。


「お返しだよノリちゃん!」


 上空から風の矢が雨の如く降ってくる。


「ヤベえっ!」


 慌てた俺は立ってた場所から逃げるけど、沙耶は逃げる俺に向かって次々と風の矢を放ち続ける。


「くそっ! 空に逃げるなんて卑怯だぞ!」


「これのどこが卑怯なのよ!」


 そんな俺達の戦いを見ていたマークのおっさんがカズに質問を投げたのが耳に入ってきた。


「和也さん、沙耶選手が空を飛んでる様に見えますがアレはもしかして」


「はい。恐らく彼女は無意識に使ってるのでしょう。風魔法、"スカイハイ"。自身の周りに風を集め、飛ぶ事が出来る魔法ですね」


「やはり"スカイハイ"ですか。ですが確かそれは……」


「そうですね。自身を飛ばせると言う事はそれだけの風を集め、集中しないといけません。そして、それは同時に大量の魔力を消費します」


 大量の、魔力を使う?


 カズがそう説明をしていると、確かに沙耶の高度が段々下がり始めていた

 その顔からは、どこか焦りも感じられる。


 おや~? もしかして? もしかしてもしかして? 俺、大チャンスじゃね?


 しめたとばかりに俺は体を反転、反撃に打って出た。


「ファイヤーブレット!」


「くうぅっ! うぅっ!!」


 沙耶は接近戦では分が悪い。どっちかと言うと遠距離からの攻撃が得意だ。

 逆に俺は接近戦が得意で本来は遠距離攻撃に弱え。でもそれをクロと、俺自身の魔法でカバーしている。

 それを和也はこの試合がどうなるのか、既に予想が出来てるっつう顔をしていやがる。

 すると沙耶は"スカイハイ"って魔法を解除して地上に降りて来て、俺はすかさず、待ってましたと言わんばかりに走った。


「うおぉぉぉぉ!」


「ガルちゃん!」


 沙耶はガルを投げ、持ち手のリングで微妙な角度を指示しながら鎖で俺の体を拘束して、動きを止めにきた。


「いっけえぇぇガル! "ボム"!」


 そのままガルが俺目掛けて突っ込み、大爆発を引き起こすけど。


「えっ?」


 クロがチェーンでガルに巻き付き、攻撃を塞いでくれていた。


「でかしたクロ! うおぉぉぉぉぉらあぁぁぁぁぁ!!」


 俺は無理矢理ガルの鎖から抜け出ると、そのまま鎖に剣を突き刺して動けなくさせ、更にクロはチェーンでもっとガルを封じ込めて、そのまま沙耶に突っ込んだ。


「え! "F2"!」


「おせえよ!」


 沙耶は咄嗟的に"F2"を放つ。でも俺はそれをジャンプしてかわすと、両手両足に炎を(まと)わせた、ファイヤーフィストで沙耶に攻撃を仕掛ける。


「うるあぁぁぁぁ!!」


「ひっ!」


 沙耶は目を(つむ)り。軽く悲鳴を上げると両手でガードした。

 数秒後、沙耶が恐る恐る目を開けると、その目の前には炎を(まと)った俺の拳がある。

 俺はすんでとのところで止めたからだ。


「……え?」


「沙耶、もう勝負はついた様なもんだ。だから俺はこれ以上、殴りたくねえからこのまま降参してくれ」


「……は?」


 どうやら沙耶は、俺が何を言ってるのかパニックで理解出来てねえみたいだ。


「はあぁ……」


 でもようやく理解出来た沙耶は目を大きく見開くとパチクリとさせ、残念そうな顔で微笑んだ。


「あ〜ぁ、本気で欲しかったのにな〜」


「へへっ、俺も欲しい」


 沙耶は軽く溜息を吐き、先生の方に顔を向けると。


「降参します」


「そう、分かったわ。勝者! 憲明!」


「「ウオオオオオオ!!」」


 沙耶は諦めて降参した。


「ノリちゃん、私を負かしたんだから絶対に手に入れなさいよ〜?」


「あぁ、そのつもりだぜ!」


「でも注意しなよ〜? 今の美羽はマジでヤバイよ〜?」


「分かってる」


 歓声が響く中、俺達は声をひそめて話した後。沙耶は手をヒラヒラと振ると自分が出て来た入り口に戻る。

 そんな沙耶の後ろ姿を見送ってから、俺は自分が出て来た入り口に戻った。


「いやああなかなか面白い試合でしたね和也さん」


「そうですね」


 解説席では、さっきの試合を見て和也と話を始めている。


「沙耶選手のあのコンボはなかなかでしたね」


「いやマークさん。私としては彼女のコンボはまだまだと言いたいですね」


「これはまた手厳しい御言葉ですね和也さん」


「彼女は遠距離タイプです。そして憲明選手はどちらかと言うと近距離タイプ。距離を作れば彼女の有利です、ですが彼はそれをクリアしました。彼は対遠距離戦を想定していたかどうか分かりません。ですが彼はクロと魔法攻撃で彼女の攻撃を迎撃し、距離をどんどん詰めて行った。褒めるべきは彼です」


「確かに和也さんの言う通りですね」


 なんか、嬉しいこと言ってくれてんなアイツ。


「それに私は彼女が最後の最後に、あの窮地(きゅうち)を打破するかもと思ってました」


「ほう? それは何故です?」


 それは俺も気になる。


 気になった俺は急いで控え室に戻ると、ちょうどその話をカズが話すところだった。


「彼女は"スカイハイ"で上空に逃げました。そこでもし"F2"を使って憲明選手を牽制(けんせい)し、ガルで反撃。先程の様にクロのチェーンでガルの動きを封じられたとしてでも、魔力を使い果たすつもりでそこから更に"F2"を放っていたら、もしかしたら勝てていたかも知れません。ですが彼女はテンパってしまい、どうすべきなのか見失ってしまっていた様に私の目には写ってました」


 成る程?


「成る程! 確かに仰る通りですね!」


 マークのおっさんは次に、カズなりの戦術を聴いた。


「仮にそれで倒せなかったとしても、体術を覚えているのならばまた話は変わっていましたね。それで憲明選手を追い詰めていたかも知れません。または、どうにかガルを回収し、再びガルで攻撃をする事が出来ていれば彼女が逆転していたかも知れません。何故なら彼女は、ガルにそれだけの魔力量を溜め込んでいるのですから。ようは今の彼女の戦術では勝てない。彼女にはもっと多くの戦術を勉強してもらう必要がありますね」


「う〜む……、確かに和也さんの言う通りかも知れませんが、果たしてそれが出来たとしても彼女は逆転出来たでしょうか? 私には今の彼女にはそれが無理な様に見えましたが?」


 ん~確かに、その通りだ。


「マークさんの(おっしゃ)る通りです。先程言った戦術の他に、それなりの体力と力が要求されますからね」


「ですよね? では今後、彼女はそこを重点的に鍛えるのが課題になりますね」


 そう言うことか。

 ってことは、沙耶も美羽みたいに体術とかを習い、それなりに体力とかをつけてれば、結果はもっと違った形になってたってことか。


「そうですね。まぁ負けはしましたが彼女にとってプラスになる試合だったと思います」


「なんとなく見えて来ました。和也さんが何故、この様なイベントを主催したのかが」


 俺もなんとなく解った気がする。

 ようは、俺達に試合をさせる事で、自分達の弱点や戦術を考えさせる為に、カズはカラミティー・ドラゴンって言うモンスターを餌として準備したんだな。


 回りくどいやり方かも知れねえ。でもそれは今の俺達を今よりもっと成長させる為ってことだ。

 カズの考えはこうだ。

 直接言うのは簡単だ。でも、教えるのと考えさせるのとでは違って来る。教えるよりもまずは自分で実際に体験し、そこで考えさせる。

 教えるのはその後で良い。

 カズはそうやって俺達をここまで成長させてくれた。

 その事に、マークのおっさんも気づいたみたいだった。


「この後は決勝戦になりますが、その前に憲明選手は先程の試合で魔力を使い疲れていると思いますので、ここでまた休憩を挟みたいと思います」


 そりゃ助かるぜ。


「決勝戦の時間は今夜7時に始めたいと思います。それまで皆さんどうかお待ち下さい」


 7時からか。それまで時間があるならカズ達と外に出て気分転換でもすっかな。


いつも読んでくださり誠にありがとうございます✨

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