第84話 羽化
次の日の夜。
21:10
カズは部屋の電気を全部て消して、今から新たな姿で生まれ変わろうとしているギルを、皆で今か今かと待っていた。
この日はちょうど台風が東京に近づいていて、外は台風の影響で雨風がめちゃくちゃ酷い。
でも、カズの部屋は強化された防音ガラスになっている為、外からの音が殆ど入ってこない。
そんな静寂に包まれた部屋で、遂にその時がやってきた。
蛹状態のギルが放つ、青い光りが益々強くなると、その周りには蛍みたいに青く光る"クレッセント・ビー"達の群れが集まり始める。
クレッセント・ビーがどうしているのかって言うと、カズが部屋をもっと幻想的な空間にしたいからって、つい先日捕獲して来たんだと。
お前はどこを目指してんだ?
でも確かに、そのクレッセント・ビー達が今から羽化するギルの周りに集まる事で、より幻想的な光景が広がるから何も言えねえ。しかも、今から羽化してくるギルを祝福してるのか外の雨風が急に静まり返ると、クレッセント・ビー達が急に明滅を繰り返し始めて、より強い光を放つと遂にギルが中から出て来た。
その瞬間、誰も何も言わず、黙ってその瞬間を静かに見ていたかったからだ。
黒い体に青い光の筋が明滅を繰り返し、その大きな羽を広げるとカズの部屋が強い光で照らされる。
<キュッキュルルルルル!>
言い表す事が出来ねえ美しい鳴き声を上げ、ギルが完全に羽化を完了させた。
「綺麗……」
「あぁ、マジで綺麗だ……」
沙耶はその余りにも美しく、幻想的な姿にそれ以上の言葉が出て来なくなる。
それはここにいる誰もがそうだ。
<キュルルルルル!>
中にはその美しさの余り、涙を流すのもいる。
誰とは言わねえけどよ……。
「おはようギル」
美羽がそう言うと、ギルがゆっくりとした足で美羽の元まで降りてくる。
ギルの触角はめちゃくちゃ長く、その触角で美羽の頬を優しく撫でると、美羽はギルの頭を撫でる。
<キュルルルルル>
「うん、おはよう。思ってた以上に綺麗な姿になったね。ふふふっ」
無事に羽化したギルを見て満足そうだ。
見た目はめちゃくちゃ長い触角を持つ、黒い蝶、又は蛾みたいな姿で。体全体がクレッセント・ビーよりは弱いけど、青く発光している。
目は少し細い青色。首の周りにはまるでファーみたいな長い体毛に覆われている。
両手と4本の足にも体毛が生えていて、手首と足首の先に行くにつれて体毛が長く、例えるとしたらルーズソックスみたいだ。
両手の先は鎌みたいな1本の鋭くて長い爪で、4本の足は尖った爪が1本ずつ。
羽はめちゃくちゃデカくって、不思議な模様が青く光って輝いている。
腹部は頭と胸部を合わせてもまだ大きく、まるで蜂みたいな形に、ナイフの様な湾曲した針が生えていて、その腹部には黒と白の花びらの様な形をした甲殻が腹部の周りに生えている。その甲殻の隙間からは青い光りが強く、明滅を繰り返している。
「美羽、新しい名を付けてやったらどうだ?」
「うん」
カズは、羽化したギルに相応しい名前にしてやればって提案した。
「んじゃ……、今日からアナタの名は"ステラ"。これからも宜しくね、ステラ」
<キュキュルルル!>
へっ、喜んでる喜んでる。
ステラって名前、なかなか良いじゃん。
「しかし思ってたより小さくなったな。一度どれだけデカいか測るとするか」
だいぶ小さくなったステラがどれだけデカいのかカズが気になって、作業用巻き尺を用意するとステラを測り始めた。
「先ず触角の長さは2.5メートル。頭は20センチ、胸部で30センチで合わせて50センチ。腹部で約90センチ。体長は140センチ。美羽より小せえが触角がやたら長いな。んで翼開長は8メートル」
黒い体に青く光るその姿は正に生きた幻想。
ネイガルさんは余りの美しさに涙を流し、感動の余り言葉を失っている。
ちなみにさっき泣いてるって言ってたのはこの人の事だ。
そこへ。
「感動してるとこ悪いが、鑑定の方を頼めるか?」
「し、失礼しました。では、鑑定をさせて頂きます」
カズはネイガルさんの感動を邪魔をした……。
申し訳ないけどステラの鑑定たのんます。
「鑑定」
鑑定内容を羊皮紙に転写させ、それを見たネイガルさんは真っ赤なサングラスで表情は分からないけど固まった。
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ステラ 性別 (雌)
種族名 不明
Lv. 50 Sランク
体力700 魔力1200
攻撃500 防御300
耐性500 敏捷1000
運100
スキル
回復魔法 状態異常回復魔法 幻覚魔法 触角強化 索敵能力 索敵能力強化 魔物探知 光魔法 光耐性
ユニークスキル
多重魔法 分裂 自己再生 念話
アルティメットスキル
守護者
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羊皮紙に何が書いてあるのかいつまで経ってもネイガルさんが説明しないから、俺がそっと取ると書かれた内容を見て絶句した。
「……種族名が不明になってる。しかもランクは予想通りSかよ……。それになんだよこのスキル……、"守護者"? どう言う事かサッパリ分からん……」
「俺にも分からん」
なんでだよ! しかもアルティメットスキルだぞおいっ!
でもカズですらなんでそんなスキルをステラが持っているのか本当に分かっていないらしく、軽く頭を右手で抱える。
「お前、何した?」
絶対何かしたに違いない。
俺は次の標的をカズから美羽に移した。
すると美羽の肩がビクリと動いたから、その反応を見た俺は確信した。
犯人はお前か。
「あっ、あは、あはははははは。実はステラがまだギルの時に魔導書とかを幾つか買ってあげてたの……」
目が動揺で泳いでいやがる……。
そして美羽は必死で何か言い訳をしようとするが、そこでカズが美羽の援護に入った。
「別に悪い事をしてるんじゃねえから良いだろ? それにステラはお前らと敵対してるモンスターなのかよ? ちげえだろう?」
うんまぁ確かに。
「それに俺が美羽に色々と覚えさせてやれって言ったからこれだけのスキルを手に入れたんだ。それの何が悪い? あぁん? 美羽に喧嘩売るなら俺に売れやゴルァ、何時でも相手になってやるぞオイ?」
最早途中から喧嘩腰じゃねえか。
「別に喧嘩をしたくて言ってるんじゃねえよ」
俺は冷や汗をかきながらその後、どうにかカズをなだめる事に成功した。
ステラのスキルには謎が多いけど、戦闘させればその答えも解ることだし、ここでステラの話を終わらせる事にした、んだけど。
「ちなみにステラ。"分裂"ってどんなスキルなの?」
終わらせようとしたのに、なんで聞くかなぁ……。
美羽が聴くと、ステラは体を青色の淡い光りを強く発光した後、そこには掌サイズのステラが100匹ぐらいの数に分裂していた。
「"分裂"ってそう言う事か……」
俺は驚き、分裂したステラがカズの部屋をより幻想的な空間になったのを見回した。
そして1匹のステラが俺の肩に乗ると。
「(ねぇ、聞こえる?)」
「ん?!」
頭の中に直接、美羽の声が聞こえてくる?!
それは俺だけじゃなく、他の皆んなもそれに驚いていた。
「(ステラのスキル、"念話"。スキルを介して直接こうやって話しが出来るみたい)」
「(凄え……、ステラがいれば戦ってる中でも相手に悟られずに作戦を話し合える事が出来るな!)」
「(ふふふっ、そうだね)」
はっ!
俺は純粋にステラの能力が凄いと感じ。これなら何処にいても話しが出来ると思った。
「なぁ、"念話"があれば向こうの世界にいても何処でも話せるよな? だって向こうの世界はスマホが使えないんだぜ?」
その話に皆んなが確かにと言った顔で気がついた。
「"分裂"に"念話"。使い様によっては戦局を大きく変えれる。しかもだ。"分裂"した状態で強力な攻撃が出来るとしたら正にSランクに相当する」
カズは微笑みながらそう言うが、俺達にしてみれば逆にそれが恐ろしくもある。
「ちなみに明日からゼオルク内ならスマホ使えるようになるけどな?」
「「……………」」
そう言われ、俺達はどう反応したら良いのか解らない様な顔で固まった。
「そりゃそうだろ? いい加減、こっちと向こうと連絡が取れる様にしないとマズイだろ? だから自衛隊が密かに特殊なアンテナやらなんやらを開発してたんだ。かなり時間と金が掛かったけどな」
「そ、そう……だったのか……」
んじゃそれならそうともっと早い段階で教えてくれよ……。
「ところでカズ、種族名が不明だけどどうして?」
お前はどうしてスルーする?
スマホが使えるって話をスルーして、美羽はどうしてステラの種族名が不明なのかカズに聞いた。
「不明って事はその種族が確認されていないからだ。それはネイガルの記憶にある、どのモンスターにも当てはまらないからってのもある」
「じゃぁ、新しい新種って事?」
「その通り。お前のバウと一緒だ」
「それじゃこの子にも新しい種族名を与えないといけないね」
楽しそうだな。
美羽はどんな種族名が良いのか考えるが良い案が思い浮かばず。
「カズ、お願いして良い?」
「ん……」
美羽に頼まれ、結局はカズがステラに似合う種族名を考えることになる。
「"ルナソル・モス"ってのはどうだ? ルナソルは「月と太陽」を表す言葉なんだが」
「メッチャ良い! ねっ? ステラ」
<キュルルルル>
普通にカッケー。
美羽とステラも、その種族名が気に入ったみたいで喜んでる。
種族名が決まったことだし、そこで俺はなんとなく感じていた事をカズに聞いた。
「ちなみにお前、まだ何か隠してる事あるよな?」
俺はまだ何か隠してると確信してるから、カズに目を向けた。
カズは微笑んだまま何も言わない。前に一度、そんな事を言ったらやっぱりカズは黙っていた事があるが。
「カズ、何を隠しているのか話してくれよ」
「……確かに憲明の言う通りだ、そろそろ言っても良い頃合いか……」
ようやくか。
「元々美羽、お前のパートナーにしてやろうと思って育てていたモンスターが実はこの部屋に隠れている」
いやんなこと聞きたいんじゃねえんですけど?! モンスター?!
俺達は驚いて辺りを見回すけど、どこにそんなモンスターがいるのか分からなければ、どこら辺に隠れているのかも解らない。
「お前は先にステラをパートナーに選び、その後はまさかのバウをテイム。そして今度はアクアを育てる事が出来るからと率先して手を上げてテイムした。つまりお前は今、3体のモンスターをパートナーにしている訳だ。まあその前に俺が離れてる間、憲明がカノンやソラをテイムしていたし。沙耶、一樹、ヤッさんの3人は今だに1体しか育てていない。それはそれで良いと思う。何故ならその1体に集中して育てる事が出来るからだ。俺がこう言うのもなんだが、お前はどう言う訳かモンスターを育てるのが上手い。だから4体目のモンスターを手に入れて育ててみろよ美羽」
「え?! そんないきなり言われても! それにどんな子かまだ解っていないのに!」
ペットショップに行った時、上手く育てられないとかなんとか言ってたけど、美羽って面倒見があると思う。
ましてやギルをステラに、めちゃくちゃ綺麗なモンスターに上手いこと進化させられたしな。
カズはそことかを見て、評価したんだろ。
「ん? それもそうだな。そいつはとある"竜種"の生き残りだ。性格はとにかく凶暴で攻撃的な性格をしてる」
「えぇぇぇ……」
不安そうだな、美羽。
でも……、竜種?
「先にこれも言っておくが、そいつは今の時点で最後の1匹の可能性が高い、極めて希少な存在だ」
「はあ?! マジかよそれ?!」
「マジだ」
そのモンスターが最後の生き残りかもで希少な存在って聞いて、俺は一気に興奮した。
それがどんなモンスターなのか早く見たいと心が躍る。そんな俺とは逆に、美羽は益々 不安がる。
「んじゃ呼ぶとするか」
どんな奴だどんな奴だ?!
カズが指を鳴らすと、幻想的になっている部屋のどこかから、羽を羽ばたかせる音が鳴り始めた。
羽ばたく音が俺達の上を通過して、なんか白くて綺麗なのが上から降りてくると、カズの左肩に着地した。
ヤバい……。
そのモンスターを見た俺達は、ステラとはまた違った美しさに驚いた。
まさかそんなモンスターまで手に入れてたのかよ……!
「紹介しよう、コイツの種族名は"カラミティー・ドラゴン"。絶滅したと考えられている"古代種"で最後の生き残りと考えられている存在だ」
〈カロロロロッ〉
マジでカッコよすぎる!
「カラミティー・ドラゴン。その名は【厄災】を意味する三首竜だ」
その体は美しい白銀色の甲殻と鱗に覆われ、凶々しい大きな翼には赤い皮膜。
頭には六つのツノがあり。目の周りには蛇の様な黒い筋模様と、翼に黒い模様があるだけで後は染みや汚れが一切無い美しさ!
尻尾はめちゃくちゃ長くて、先端は扇みたいな形をしているけど、そこには幾つものカギ爪みたいな鱗が存在している。たぶんそれで相手を簡単に引き裂いたりして命を奪う事が出来るんだろうな。
するとそこでネイガルさんがカズに代わって、俺達に説明を引き継いだ。
「カラミティー・ドラゴン。この種は先程、和也様に御説明をして頂きましたが、本来であれば既に絶滅している古代種の生き残りなのです。実は私もこの子を知っておりまして。数年前にとある洞窟の中で発見された卵からようやく孵ったのです。今から100年程前。この種は余りにも凶暴かつ獰猛であるが為に、多くの軍や冒険者、ハンター達の手によってなんとかその数を減らし、滅ぼす事が出来た種なのですが、その生き残りがおりましてね。その生き残りがなんとか大切に守っていたのです。……ですがその親であるカラミティー・ドラゴンは既にこの世にはおりません。現状、この子はこの世で生き残っている唯一の存在かと思われております。ランクは既にA。まだ産まれたてで弱いのですが、いずれはSSランクになるかと思います。また、本来のカラミティー・ドラゴンの体は黒い色なのですが、この子は産まれてきた時から白銀の様な美しい色で産まれてきました」
ネイガルさんの説明に俺達は息を呑んで、目を輝かせながらそんなカラミティー・ドラゴンの子供を見つめた。
マジヤベー……、カッケえぇ……
そして俺は一目惚れしてしちまっていた。
「コイツは白変種、つまりリューシスティックと呼ばれるタイプで、アルビノとはまた違う。アルビノと呼ばれるのは遺伝子に欠損があり、メラニン色素が生成されない為に体が白くなる。だが逆にリューシスティックってのは遺伝子に欠損が無く、メラニン色素を生成する事が出来るが体が真っ白な奴を表す。ちなみに現在、口元から首の付け根までの長さは約40センチ。胴体で約25センチ。尻尾の長さは約100センチ。全長は約165センチ。翼開長は約4メートル。コイツのスキル能力は凶悪だ。見てみるか?」
カズは不敵な笑みを浮かべ、カラミティー・ドラゴンを鑑定した羊皮紙を懐から出して俺達に見せてくれた。
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カラミティー・ドラゴン (雄)
種族名、カラミティー・ドラゴン白変種
Lv.5 Aランク
体力200 魔力300
攻撃350 防御200
耐性150 敏捷300
運80
スキル
雷耐性 風耐性 索敵能力 魔物探知 嗅覚強化 身体能力強化
ユニークスキル
自己再生 追跡者
アルティメットスキル
暴風雷支配
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はい出ましたアルティメットスキル。それになんですかこのステータス……。
レベル5なのになんですかこのステータスはと俺達は言いたい顔になるが、言葉が出て来ない。
それにレベル5でこれだけのスキルと強さはチート過ぎる。育ったらどれだけ強力なモンスターになるんだと目を見開き、口を開けて驚くだけだ。
……でも。
「ヤバイな……、メッチャ欲しい……。それにこの"暴風雷支配"ってなんだ? 風と雷を支配する事が出来るって事か?」
「ね〜! 美羽ばかりズルいよ〜!」
「こ、ここは皆んなでジャンケンしようよ!」
「まてヤッさん! それなら俺達でバトルして勝ち残った奴が手に入れるべきだろ!」
俺、沙耶、ヤッさん、一樹は、このカラミティー・ドラゴンがどうしても欲しくてたまらなかった。
肝心の美羽はと言うと。
「可愛い〜!」
ベタ惚れじゃねえか……。
「可愛いだろ? これでもまだ産まれて1週間しか経ってねえんだ。んじゃ美羽も気に入ったみてえだし、ここは一樹の案を採用するか」
「よしっ!」
カズは一樹の案を採用すると決め、一樹は軽くガッツポーズして喜ぶ。
「良い機会だ、お前らで1対1のバトルをしろ。それでお互いの力を確かめろ」
その言葉に俺達はお互いが敵同士になり、誰もが負けられないバトルへと発展した。
そこでテオもそのバトルに挑戦したいと手を上げ、カズはその挑戦を許可。それで俺達6人による熱いバトルが始まろうとしていた。
正直に話します。"ルナソル・モス"のステラは、あの大怪獣、モ○ラをイメージしております!
そして、更にそうとしか思えないモンスターも出てきましたが、け、け決して違いますからね?! 本当ですからね?!
では次回もお楽しみに!
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