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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第3章 蠢きだす闇
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第83話 援軍


「西門より入電! ラーティム王国、総勢5万の援軍到着!」


「東門からも入電! レオンネル王国から総勢4万の援軍到着!」


 その日、稲垣陸将の元に援軍が来たって報告が入った。



 8月15日



 ゼオルクの街に友好国のラーティムとレオンネルって国から合わせて9万の援軍が到着。

 ラーティムの軍を率いるのはラーティムの第一王子、"テオ"。

 レオンネルの軍を率いているのはレオンネルの王女、"リリア"。

 この2つの援軍が南門に移動すると、そこに自衛隊が用意していた駐屯する為の場所を提供し、2つの軍が合流すると、テオとリリアが互いに久しぶりと挨拶をして、兵士達はそこでテントの設営を始めた。


「久しぶりに彼と会えるのは嬉しいけど、こんな形で会う事になるのはなんか嫌だな」


 テオ。

 金色の髪に爽やかフェイス。歳は俺達と余り変わらない。

 青い鎧を装備し、肩から白いマントを棚引(たなび)かせている。

 腰には何処かの名工が鍛えたんだろ、綺麗な青色の剣を持っている。


「そうね、会うならお茶会とかでお会いしたかったわね」


 リリア。

 こっちも綺麗な青色のロングヘアーが特徴で、一見穏やかに見える美少女。彼女も俺達と余り変わらない歳だ。

 そんな彼女は白い鎧を装備していて、左手には長いロッドが握り締められ、その先端にはまるで翼、もしくは太陽をイメージしたと思う形になっている。

 だってその先端の中心に青色のデカい、丸い水晶が宙に浮いてるからだ。


 そんな2人が話をしている所に、言い知れぬ威圧感を肩に伸し掛からせる奴が近づいていた。

 2人はそれがいったい誰なのか一瞬で気づくと、その威圧感を放つ方へと顔を向けて微笑み、リリアが話しかける。


「久しぶりね、和也」


 そう、そこには俺達を連れてカズが2人の元に来たからだ。


「よう、テオ、リリア。来てくれてありがとな」


 カズが不敵な笑みを浮かべて2人に軽く挨拶をすると。


「君は相変わらずだな」


 テオはそう言って右手を伸ばし、カズはテオの右手を取ると硬い握手を交わした。


「和也、貴方の後ろにいる方々は?」


 リリアは後ろにいる俺達が誰なのか知りたそうにしているから、俺はカズに頼んで2人を紹介してもらい、その後、俺達も2人に自己紹介しながら握手をして、歳も近い事もあって直ぐに打ち解け合い、仲良くなる事が出来た。

 そして俺達がカズ率いる冒険者チームのメンバーであり、毎日手解(てほど)きされていると聴くや否や、2人は俺達を羨ましがった。


「なんて羨ましいんだ! 俺もそのチームに入りたい!」


 テオはマジで羨ましがってんだろ、羨ましさからチームに入りたいと嘆く。


「何言ってるのよ。貴方は一国の王子なのだから無理に決まってるじゃない」


 リリアにたしなめられながらも、そのリリアも本当はテオと同じ事を思ってたりするんじゃねえの?

 チラチラと見てるし、そうだろきっと。


「時間があればお前らの特訓に付き合ってやるよ」


 カズがそう言うと、テオとリリアの目がギラリと光った。


「でも時間は大丈夫なの? 予想よりも向こうが動き出したのが早いけど」


 そう心配するのは美羽だ。

 カズの話しだと、だいたい約半月は帝国は動かないって予想されてたのに、その予想よりも早く帝国は動き始めていた。


「まだ動き出したに過ぎねぇ。確かに予想してたよりもかなり早えが、報告ではまだこっちに向かって来ていないから大丈夫だ」


「だと……良いんだけど」


 カズは大丈夫だって言うけどよ、美羽はまだ不安を拭い切れてないみたいだな。


 美羽はこの時、嫌な予感を感じ取っていたって話す。

 そして、その嫌な予感は的中する事になる。


 しかも……、最悪な展開が、だ。



 ー 夜城邸 ー


 テオとリリアがカズの部屋にやって来ると、その部屋の中を見て驚いていた。


 まぁ、無理もねえわな。


「久しぶりに来たけど、前よりジャングルになってるな」


「そうね……」


 2人共前にも来た事があんのかよ。


 でもその時よりもよりジャングルになってるって言って、唖然としている。


「実は今夜辺りにとあるモンスターがようやく羽化する」


 カズがそう話すと、テオとリリアはそのモンスターがいる場所へと案内された。

 それはギルだ。

 (サナギ)状態のギルが淡い光りを何度も放っていて、いつ羽化してもおかしくない状態になっていた。


「このモンスターが話に聞いていたタイラント・ワームの変異種……」


「綺麗……」


「実はこのモンスターは、今はコイツのパートナーになってる」


 カズは改めて美羽を紹介し、何故そうなったのか2人に話した。


「テオ、お前んとこの国で暴れ回ったタイラント・ワームは覚えてるな?」


「勿論。俺はそのタイラント・ワームを討伐する為に冒険者やハンターに依頼を出す事なく、軍を動かしたからね」


 王様じゃねえのに、タイラント・ワームを討伐する為に軍を動かしたのかよ。


「でも討伐する事が出来ず、結局こちら側に迷惑をかけて申し訳ない」


 テオはカズに迷惑をかけた事に頭を深々と下げ、謝罪する。でも、そんなことしたしなくたってカズは別に気にしちゃいなかった。


「だがお陰でギルと言う得難えがたいモンスターを手に入れ、美羽に譲渡(じょうと)する事が出来たんだから別に良いさ。まぁ、犠牲になった奴には申し訳ない気持ちではあるけどな」


 確かにタイラント・ワーム変異種の犠牲になった女子高生は可哀想だけどよ、でもそれは誰が悪いってこともねえんだから言うなよ……。


「そのギルは現在確認されているタイラント・ワーム変異種の唯一の生き残りだ。そのギルには俺が進化出来る様に力を与えた。下手なモンスターと比べて、このギルが羽化すれば一気にそのランクは跳ね上がる程までに強くなるだろうな。元々タイラント・ワームは成長すればそれなりにランクの高いモンスターになる。そこへ来て変異種となり、更に俺が力を与えたんだぜ? ましてやそのギルにこの美羽はより強いモンスターとして進化する為にと、色々なモンスターをギルに食わせてきた。はっきり言ってどんな風に進化するのか俺にも分かんねえ」


 カズが不敵な笑みで2人に説明すると、テオとリリアは眉をひそめて軽くドン引きしていた。


 うん、そうなるよな。


「和也も和也だけど、美羽ちゃんも和也に負けず劣らず、なんて恐ろしい事をするんだろう……」


「確かにその力には魅力を感じるけど、あの和也が力を与えたのだからきっと凶悪なモンスターになるはずだし、そのモンスターを制御仕切れる自信が無いから私は遠慮したいわね」


 テオとリリアはある意味、美羽は勇者かも知れないって思ってるかもな。


 でもちょっと待てよ? テオとリリアは、カズの能力を知ってるってことなのか?


「な、なんでよおぉ」


 美羽はちょっと傷ついたのかしょんぼりとした顔になると、直ぐ横にいるカズの胸に顔を埋めてしがみ付き、そのカズはそんな美羽を軽く抱きしめると右手で頭を撫でた。

 その姿にテオとリリアの2人は驚いた。

 俺達はそんな2人の反応を見てなんだか新鮮な気分だ。


「そういやまだ言ってなかったな。俺と美羽は付き合ってんだ。だから今まで遊んでいた女達とは綺麗に関係を終わらせてある」


 美羽と付き合う事にしたから、今まで遊んできた女性達ときちんと関係を終わらせたって? いつの間に終わらせたのお前?


「でも後1人は一応いるけどね」


 美羽が微笑みながら顔を上げ、もう1人いると言われるとカズは軽く鼻で笑い、「そうだな」と返事をした。


「くっ、そんな可愛い彼女がいるのにもう1人いるって……」


「そうね……、まぁちゃんとした彼女さんをようやく作ったのだから良いけど……」


 2人はなんとも言えない顔でカズを見た。


「和也、こんな話をして良いのか分からないけど。その……、ヘカトンケイルとの戦いで大切な人を失ったんだろ? だから、その、なんて言うか……、ちょっと白状な感じがするんだ……。だって失ったばかりなのに彼女とそんなに早く付き合う事がどうして出来るんだい?」


 そこで俺はカズと美羽の援護射撃をぶちかました。


「まぁ、テオの言ってることは分からなくもねえけどよ。カズだって美羽と付き合うことに悩んだ筈だ。……悩みに悩んで、苦しんで、ニアちゃんの事を思ったら美羽とは付き合おうとは思わなかっただろうさ。でも、カズは美羽と付き合うことを選んだ。なんでそんなことを俺が言えるのかって言われたら難しいけどよ。……カズは美羽を裏切らねえからだ」


 だって、俺にはカズも美羽の事が好きだってのが分かるからよ。

 カズはサクラちゃんと両思いだったけど、その前から美羽はカズが好きだった。

 それに、なんだかんだでいつも美羽の近くにはカズがいた。

 崖に落ちた時。声を失った時。美羽の為に曲を作り始めた時。カズと一緒にいる時間は俺達の中でも一番なげえ。

 今の美羽がいるのはカズがいたからだし、美羽はカズの影響をかなり受けてる。


「美羽からは常にカズが見え隠れしていた。そう思えるのは、常にカズが美羽を守ってるからじゃねえのか? じゃなきゃカズが見え隠れするか? んじゃなんで守る? 昔から仲が良いからか? そうじゃねえ、それじゃ辻褄が合わねえんだ」


 これだけはハッキリ言っておきてえけど口には出せねえ……。


 美羽はカズの好みにドンピシャ過ぎるんだよ。


「それでもまぁ……、テオの言う事はもっともだよ。大切な人を亡くしたのであれば、立ち直るには相当な時間が必要になるさ。でもよ、冒険者やハンターの仕事ってのは常に命懸けなんだろ? だったらそれは誰もが承知してることじゃねえのか? 確かに都合がいいかもしんねえし、白状かもしんねえさ。それでも美羽と付き合うことになったお陰でカズは少しずつ落ち着きを取り戻してるように思えるのは俺だけか? ルカちゃんが新たに家族になったからか? ちげえんだよ、そうじゃねえんだよ。美羽と付き合う前のカズは親父さんに言われなきゃ気づけねえくらい、本当はめちゃくちゃヤバい状態になってたんだ。それがいつどこでその怒りが爆発するか分かりゃしねえような、全身火薬庫の歩く時限爆弾。マジでそれは恐怖でしかねえよ。本気でブチギレた時のカズがどれだけ危険か知ってるか? それを俺はよく知ってる。だから美羽と付き合うことになって、俺はマジでよかったと思ってる」


 あっ! ヤベッ! 余計なことまで言っちまった!


「なんか、珍しいな。お前がそこまでして俺をかばうなんてよ」


「う、うるせっ」


 怒られるかと思ったらなんだよ。なんでそんな、照れてんだよテメェはよ。

 逆に恥ずかしいじゃねえか。


 カズが照れながらんなこと言うから、俺も恥ずかしくなっちまっていた。

 すると、今度は美羽が口を開いた。


「私からも言わせて。確かに私だってもしそうなったらその人の事しか考えられなくなる……。でも……、そんなカズを私が支えたいと思って、思い切って告白したの……。それでカズは私は受け入れてくれた……。ニアさんには申し訳ないけど、私の方がカズを想う気持ちは負けてる筈が無いと思ってたし、私ならカズを支える事が出来ると思うから……。自分勝手だって事はよく分かってる……、けど……、私ならカズを悲しませる様な事は絶対にしない。カズが私を不幸にするかも知れないのであれば私はその不幸を真っ向から受けて立ってみせる。私は誰にも負けないし、負けるつもりも無いから」


 美羽が力強くそう言うと、テオとリリアは思わず狼狽えた表情になった。


「私はカズが好き、大好き! 幼い頃からの付き合いだからカズがどんな性格なのかをよく知ってる。口は悪いし怒ったら誰よりも怖い……、けど! カズは誰よりも心優しい事を私だけじゃなく皆んなが知ってる! だからノリちゃんが真っ先に言ってくれた!」


 んなもん当たり前だろって。


「私はどれだけカズに助けられているのか分かんなくなるくらい助けて貰ってる。そんなカズが私は好き。この近所だけじゃ無く、どこであろうと困ってる人を見るとカズは手を差し伸べる。だからカズがヤクザの息子だろうと皆んなから慕われている。そんなカズが好き。カズが怒ったら大変な事になる。それでもカズは何かあれば必ず助けてくれる。そんなカズが好き。カズは誰よりも自然を愛している。この部屋をジャングルにしてしまう程に。それは自然を愛しているだけじゃ無く、全ての命ある物が好きだから。そんなカズが好き」


 コラコラ美羽さん、その辺にしておけよって。カズがかなり照れ始めてますよ?


「ニアさんが死んでからと言うもの、カズはずっと苦しんでいる……、実際今でもそう……、ただそれを表に出さないだけで本当はニアさんの事しか今は考えていないと思う……。だからカズは帝国を前にしたらきっと、ノリちゃんの言うと通り、誰にも止められなくなる様な怒りを爆発させると思う。だから私がそんなカズを止められる存在になりたかったし、側で支えてあげたいから告白したの……」


 そうだな、それはその通りだ。お前をカズが受け入れてくれてマジで俺は嬉しいよ。


「最初は受け入れてはくれなかったよ……。でもカズはそんな私の事をずっと考えていてくれて、受け入れてくれると知った時は本当に嬉しかった。だから、私は全力でカズを支えたい」


 美羽が優しい微笑みでそこまで語ると、テオとリリアはもう、何も言えなくなっていた。


「違うぜ美羽。私じゃねえ、私達だろ?」


 俺は笑って間違ってると指摘する。

 美羽だけじゃなく、俺達全員でカズを支えるんだ。


「ふふっ、そうだね」


「カズが帝国を前にして暴走しそうなら、俺達が全力で止めて支える。それがチームであり友達(ダチ)だからな」


「そうだよ〜、何もかも1人で出来る訳無いんだから皆んなで協力しないとね〜」


 一樹と沙耶の2人も、美羽に微笑みながらそう声をかけた。


「いざって時は僕達に相談してくれよ美羽。一樹はチームで友達って言うけど、僕達はカズのファミリーも同然なんだから」


「確かにヤッさんの言う通りだな」


 ヤッさんがトッカーの顎を撫でながら微笑んでそう言うと、一樹はそんなヤッさんの言葉の方が合ってると言って、2人して笑う。

 そんな光景をテオとリリアが羨ましそうな目をしながら微笑んでいた。


「和也が羨ましいよ。俺にはそんな友人がいないから、そうやって支えてくれる者がいない」


「私もそうね。私が友人と呼べるのはテオと和也だけしかいないから」


 2人がそう言うから、俺は思わずキョトンとした顔になっちまった。


「何言ってんだよ? 俺達はもう友達(ダチ)だろ?」


 俺の言葉に、今度はテオとリリアの2人が逆にキョトンとした顔になった。


「まだ俺達と友達(ダチ)じゃないと思っているならよ、改めて今から友達(ダチ)になろうぜ?」


 すると、2人は満面の笑みで頷いてくれた。


「その前に。テオ、お前は俺とリリアの事を友人とは思っていなかったのかよ?」


「あっ、いや、そんなつもりで言ったわけじゃ……」


 コラコラコラ、カズさんや、そうテオを苛めるんじゃねえよ。


 でも、テオがそれで慌てるから俺達は笑った。


さてここで新キャラ登場です。

ゼオルクの街に2つの国から援軍が到着。それを率いる王子と王女。

どちらも和也の友人であり、和也が頼りにしている友人でもあります。


よかったら感想を宜しくお願い申し上げます。


⭐、いいね、ブックマークも宜しくお願い申し上げます(圧)✨

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