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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第2章 哀しみ
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第77話 海の命


 カズ達をあまり待たせたくない俺は、即行で着替えを終わらせて戻ると。


「もう少し待っててくれ美羽。いずれはその答えをきちんと伝えるから」


 少し暗い顔のカズが美羽になにか言っている場面に遭遇しちまった。


 ヤベェ~、なんか気まずい雰囲気に来ちまった……。


 美羽は「うん」と答えるけど、その顔はどこか嬉しそうに見えた。

 するとそこに他の連中がやって来て、その気配に気づいたカズが俺達に声をかけた。


「用意は良いか? んじゃさっさと行くぞ」


「お、おう……」


「おい美羽、B、そろそろ出かけるぞ」


「はぁい」

「はい、和也さん」


 いったいなんの話しをしてたんだ?


 そう思ってると。


「いや待て美羽、ちゃんと帽子被らねえとまた周りが騒ぎ出すぞ。サングラスもほら」


 カズが美羽に帽子を被せると次に黄色いサングラスを掛けさせ、ようやく出かける準備が整った。


「んで? どこ行くんだ?」


 どこに行くのかまだ聞かされていないからそう聞くと。


「あ? ただの買い物だ買い物。それと、お前達を連れて行きたい場所がある」


 ん?


 なんとなく、カズが俺達になにかを教えたそうな感じがした。


 そうして最初に向かったのは新宿。

 カズは新宿にあるペットショップに入ると、そこで餌を買ったりしながら色々な動物を見ている。


「ねえカズ、この子カワイイ!」


 美羽が見ているのはシマリスで、確かに可愛い。


「欲しいのか?」


 そう聴かれた美羽は頭を横に振った。


「私はカズみたいに上手く育てる事が出来る自信が無いから良いよ。ギルやバウはなにかと皆んなが見てくれたりしてくれるし、向こうで連れて歩けるから良いけど。この子は連れて歩くのが難しいでしょ? だから見るだけで良いの」


 そう言って美羽も色々な動物を見て回る。


「え?! ペンギンもいる!」


 そこにはキングペンギンって種類のペンギンが売られていた。


「カワイイ!」


 何気なく値段を見た俺と美羽は驚いてその場を離れたけどな。

 ……理由はそのお値段が全然可愛くなど無かったからだ。

 Bはアルダブラゾウガメってと言うリクガメをジッと見つめているし、このペットショップは色々な種類が売られているので何気に全員が楽しんだ。


 それからデパートで買い物を楽しんだ後、カズは次の場所に行くと言って、組員の人に車を用意させていた。


 向かった先は横浜八景島シーパラダイス。

 水族館に来た事で女達は楽しみと言ってはしゃぐ。が、しかしだ、カズがここに来た目的はただ遊びに来た訳じゃねえのがその顔を見たら分かる。

 どこか、悲しそうな目をしてるからよ。


「お待ちしておりました」


 そこに年配の男の人が声を掛けにこっちに来た。


「どうぞこちらです」


 ここの職員の人なんだろ、その人に案内されたのは通常一般人が立ち入る事が出来そうにない通路で、どこか厳重な雰囲気があった。


「最近の調子は?」


 カズがそう尋ねると、職員の人は暗い顔で頭を横に振る。


「最近は全然元気が無いんです……」


「そっか……。まぁ、傷が深かったから致し方無いのかもなぁ……」


 俺達にはその話がさっぱり分からなかったけど、奥の方へどんどん進んで行くと、そこにはとある生き物が存在していて、驚きのあまり逆に声が出てこなくなっちまった。


「カズ、これって……」


「流石にコイツがなんなのか知ってるよな?」


 知ってるさ。ワニみたいな風貌で足じゃなくヒレを持つそいつを、俺は知っていた。

 そしてそこには巨大な水槽があり、そいつはその中をゆっくりと、()()()()泳でいた。


「紹介しよう、コイツは"モササウルス"。本来なら絶滅した筈の古代生物の生き残りだ」


 そこにいたのはだいたい10メートル以上はある、モササウルス。

 でもそのモササウルスの左前ヒレが失われ、痛々しい傷跡が残っている。


 よく見ると体のあちこちが傷だらけじゃねえか……。


「コイツは日本近海の網で捕獲された奴なんだ」


 その言葉を聞いて俺達は驚いた。


「捕獲された場所は詳しく言えねえんだが、長崎県の沖合で捕獲された。捕獲された時、コイツはその網に絡まったせいで左前ヒレを切断したのか無くなっていて、全身傷だらけの状態だった。コイツを捕獲した漁師はまだ生きているコイツを殺そうとしたんだが思い留まり、漁港になんとか連れて帰った。流石にその漁港で騒ぎになってテレビ局を呼ぼうとしてたんだが、その前に漁港側が市役所に電話すると今度は政府に連絡が行き、俺達の元に電話が来た。話を聴いて近くにいた組員を派遣させ、なんとかコイツの存在を口外しないようにしてここへ運ばせたんだ。……流石にここまで運ぶのに苦労したなぁ、運び込まれて約2ヶ月は経つな。いっ時は回復を見せてたんだが、どうやらそろそろ無理みたいだ……」


「な、なぁカズ。モササウルスって絶滅したんじゃねえのかよ?」


 モササウルスは絶滅した筈だ。でも、現実はそうじゃ無かった。


「知ってるか? 長崎の沖合で度々モササウルスらしき生物が目撃されている事を」


「いや……全然……」


「長崎だけでなく、過去に世界各地でモササウルスらしき謎の生物が目撃されたと言う報告がある。そして今回、そのモササウルスがついに生きたままの状態で捕獲された。学者達が物凄く驚いていたんだぜ? だから今でも学者がコイツを観察しているんだ」


 そう言われると確かに、周りに学者っぽい人達が沢山いるな……。


「現在確認されている未確認生物はコイツを含めて結構いる。"イエティ"、"ネッシー"、"モケーレムベンベ"とかな。だがそれを表舞台に出す訳にはいかねえからこうして秘密裏に飼育されていたり、保護されたりしている」


「マジかよ……、なんで今まで見つかんなかったのか、なんとなく分かった気がする……」


 イエティにネッシー、それにモケーレムベンベ。

 どれもUMA好きにはいて欲しいって思える未確認生物じゃねえか。

 つまり見つからねえ訳じゃ無く、秘密にされてるから今だに見つからないと報告されていた訳か……。


「それで? 後どのくらいもつ?」


 カズが聞くと、職員の人は「もって数日かと」と答えた。


 数日? どういう意味だ?


「最近は何も食べないんです。魚がダメなら肉をと思い与えてみても、食べようともしないのです」


()()()()は?」


「日に日に大きくなってる様ですが、母親が死んでしまえばお腹の子が危ないかと」


 ちょっとまて……、子供? 子供がいんのか?!


 目の前にいるモササウルスは妊娠している。でも傷が元で元気が無く、今にも死んでしまいそうな目をしていた。


「カズ! なんとかなんないの?! このまんまじゃ可哀想だよ!」


 俺が言うより先に、美羽はどうにか助けられないかカズに聞いた。


「モササウルスってのは一見、ワニの様に見えるが実はオオトカゲやヘビに近い海棲爬虫類(かいせいはちゅうるい)で、兎に角とんでもないくらい獰猛(どうもう)で危険な生物だ。だから下手に近づけば襲われてひとたまりも無い。ましてや下手に傷を治す為とは言え、麻酔なんか使ってみろ。それこそ腹の中にいる子供にどんな悪影響が出るか知れたもんじゃねえから使いたくても使えねえ」


「だったらカズの力を ーー」


「ここでそんな事ができる訳無いだろ」


 周りにいるのは異世界の存在を知らないだろう人達だ、下手にカズが"創造"や"変換"を使う訳にもいかねえってことか……。

 でも……、どうにかして助けてやりたい……。


 美羽もそれに気がついたのか、悲しそうな顔でカズを見ている。

 助けられる命をそんな理由で助けられないもどかしさに、俺達は苦しかった。


「ひとつだけ手が無い訳じゃ無い」


「それってなんなの?!」


「母親が死ぬ前に子供を腹の中から出す」


 ってことは、帝王切開でもするつもりか?!


「お前らをここに連れて来た理由はな、世の中にはこんな古代生物がちゃんと生き残っている事を知って欲しくて連れて来たんだ。向こうからやって来た奴もいれば、絶滅を(まぬが)れて生き残った種が存在する。中には愚かな人間の手によって完全に絶滅した種もいる。だがそれでもちゃんとお前達の目の前に生きた化石が存在しているんだ。アリスやゴジュラスなんかとは違い、純粋(じゅんすい)にこの世界で産まれた奴が。……それを知って欲しかった。それに、この世界にはコイツみたいな古代種が生き残っているんだ。この世界もまだまだ捨てたもんじゃないよな」


 俺達は素直な気持ちで(うなづ)いた。でもよ……、だからこそどうにか助けてやりたかった。


「カズ、帝王切開って確か腹を切って赤ちゃんを取り出す事だったよな?」


 俺は真剣な顔でカズの横に立って聞いた。


「そうだ」


「カズ、美羽の言う通り、なんとかあのモササウルスも助けてやれねえか?」


 どうしても救いたい。

 母親がいないってのが、どれだけ苦しくて寂しいことか俺は知ってる。

 俺にはお袋がいる。でも俺には親父がいねえからよ。


「俺の話を聴いてたのか? ここには多くの人間が常に観察している。ましてや周りには多くのカメラがあるんだぞ? そんな中どうや ーー」


「そこを頼む! 赤ちゃんには母親が必要だろ?!」


 俺は深々と頭を下げて懇願(こんがん)した。

 どんな手を使ってでも、腹の子の為に母親を救ってやりたくて、俺は何か助けられる方法があります様にと祈りながら無我夢中だった。

 そして……。


「……わかった」


 カズのその言葉に俺だけじゃなく、全員の顔が明るくなった。


「本来ならこの手は使いたく無かったんだがな……。だが覚悟しておけよ?」


「お、おう!!」


 覚悟ならいくらでもしてやる!


 そしてカズはスマホを取り出して、どこかに電話かけた。


 それから10分後。


 カズの元に一本の電話が入って来た。その電話に出たカズは電話先の相手と10分以上も話し込み、ようやく電話が終わると俺達に顔を向けた。


「喜べお前ら。たった今からこのモササウルスは()()()()()()()()()()()()。しかも()()()()()()()()()()()


 凶悪な笑みを浮かべ、カズは俺達にそう報告した。


今回はモササウルスが登場です。

しかし、そのモササウルスには酷い傷があり、残り僅かな命の状態でした。

さて、そこで和也は何をしたのでしょうか?

次回もお楽しみに✨

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