第72話 暴君
ネイガルさんの言い方と、その後ろから聞こえてくる鳴き声でカズは何を連れてきたのか気づいた。
「もしかして……、見つけたのか?」
カズは目を大きく見開いて聞くと、ネイガルさんはただ一言「はい」と応えた。
見つけた……、 ……まさか?!
「さあこれから御紹介致しますのは貴方様が持つに相応しい、まさに一級品。どうぞご覧くださいませ」
ネイガルさんが右手を胸の前に置いて頭を下げながら言うのと同時に、後ろにある檻を隠した布が取られた。
その中にいたのは誰が見ても同じ答えしか出ない生物達。
それを見たカズは興奮し、目を細めてニヤリと笑う。
「先日、和也様より承っておりました。"ヴェロキラプトル"に御座います」
そう、檻の中にいたのは紛れも無くヴェロキラプトルだ。しかも今回は4匹。
「素晴らしい! 実によくやってくれたよ!」
「お褒めの言葉、感謝致します」
そこでネイガルさんはまた何時もの様に右手を胸の前に当てて頭を下げた。
「ネイガル、もう一つには何が?」
「はい、先日和也様に頂きました"恐竜図鑑"なる書物の中に描かれた恐竜と、全く同じモノを今回、捕獲する事にどうにか成功致しましたので、お連れしました」
俺はそいつの咆哮で中にいるのが何かしらの肉食恐竜なんじゃって思った。
周りの人達はラプトルが生き残っていただけで奇跡だって言うのに、他にも存在していた事でかなり驚いている。
しかもかなりデカい。
ラプトル4匹が入っていた檻と比べるとその倍以上はある。
「ヴェロキラプトル4匹だけでもかなり危険だったそうですが、こちらはそれ以上に危険極まりなかったとか。捕獲するのに危うく犠牲者が出てしまうところをなんとか運良く捕獲する事が出来たそうです」
「マジかよ……、だったらそれ相応の礼を捕獲してくれたメンバーにしないといけないな。ネイガル、早く見せてくれ」
「かしこ参りました」
ネイガルさんがまた頭を下げると、今度は右手の指を鳴らし、檻を隠していた布が取り払われた瞬間に周りの人達は驚愕した。
おいおい……、おいおいおい……、コイツ……もしかして……!
黒い皮膚に、若干青黒いワニの様なゴツゴツとした鱗が鼻先から目の周りにあり、首の上から背中、そして尻尾の先近くまである。
黄色い眼に黒い瞳、そして大きな牙がどれだけその生物が凶悪なのかを物語っていた。
「御紹介致します。ヴェロキラプトルだけで無く、こちらも貴方様こそが持つに相応しき生物と言っても過言では御座いません」
マジか……、マジでこんな奴まで生き残ってたのかよ?!
「"ティラノサウルス・レックス"。性別は雄、体長約11メートル。貴方様が以前、最も欲しいと仰っておりました恐竜を無事に捕獲いたしました」
<グアアアアアアアアア!!>
ティラノサウルス・レックス。
ティラノは暴君、サウルスはトカゲ、レックスは王を意味する恐竜の中でも最強の一角が今、俺達の目の前に!
「……買おう」
出ました即答!
「お買い上げ、誠に有難う御座います」
「幾らになる?」
「そうですな、ヴェロキラプトルは1匹ミスリル金貨5枚。そしてこちらのティラノサウルス・レックスは先程仰って頂けましたので、御言葉に甘えてミスリル金貨12枚でどうかと」
に、日本円でヴェロキラプトルが1匹、五千万円。ティラノサウルス・レックスが一億二千万円……。
ほ、欲しい!
「まだ安いほうだ。おい、今すぐ俺の金庫からミスリル金貨を32枚持って来い」
カズは近くにいた組員の1人にそう言って、取りに行かせた。
待っている間、ラプトル4匹は檻の中で暴れ、ティラノサウルス・レックスは頭で檻を破壊しようと暴れながら吠えている。
「あっ、ちなみにティラノサウルス・レックスですが、先程鑑定をしたところ、その強さはAランクでした」
それを耳にした自衛隊や組員の人達がそれぞれ銃を構え、ティラノサウルス・レックスが檻を破壊した時の為に周りを囲んだ。
いやいやいや……、Aランクならそんなの無意味なんじゃねえの……? そうなる前にカズがゼイラムを使って取り押さえちまうって……。
ましてや骸までいるんだぜ?
まっ、無理も無い。Aランクと鑑定された奴が大暴れでもすれば、それだけでそうとうな被害が出ると思うからよ。
だから皆んな思った筈だ、早く金を持って来てくれって。
提示された金額を用意出来れば、カズが直ぐにでもテイムして落ち着かせ、周りに被害が出ないで済む。
……でもその間の待ってる時間が長く感じられる。
既に檻は内側から変形してて、何時壊れてもおかしくない状態にまでなっていた。
5分、10分、15分、時間が経つに連れて皆んなが精神的に疲れてきてるのが顔に出始めていた。
いったい捕獲してからどれだけの時間が経って、ここへ運ばれて来たのか分からねえ。
俺としてはいざって時に、カズが絶対動くだろうと思えるから、別にそこまで焦りはしなかった。
そこでようやく金貨が入った袋を持った組員の人が現れると、直ぐにネイガルさんへと手渡す。
ネイガルさんは袋の中を近くにあった机の上に出して確認すると、カズに向けて頭を下げた。
「本日は御買い求め頂きまして誠に有難う御座いました。今よりこの恐竜達は全て貴方様の物に御座います」
そこから先は殆ど時間がいらなかった。
カズは真っ先にティラノサウルス・レックスを4本のゼイラムで動けなくしてテイム。その後はラプトルを1匹ずつ捕まえてテイムしながら性別を確認。
これで5匹の恐竜が全てカズのパートナーになった。
「クックックックックッ……、ククッ……、クッ……、ふはははははははははははは!!」
悪い顔になってんぞカズ。
両手を軽くて広げ、目の前に立つ恐竜の姿を見てカズは興奮してなのか、笑い出す。
「やったぞ! あのT・レックスを手に入れたぞ! さあお前達に名前をつけてやらないとな! まずはお前からだT・レックス! 今日からお前の名は"ゴジュラス"だ! 俺の好きな怪獣から取った名だ!」
<グオオオオアアアアアア!!>
「次はお前達だ!」
次にカズは4匹のラプトル達に名前をつける。
4匹は先にテイムされていたアリス達みたいな模様があって、灰色の体にエメラルドツリーモニターって言う、カズが飼育しているオオトカゲみたいな模様がある。
赤色、黄色、緑色、紫色。
なぜこんなにも1匹1匹の色が違うのかは知らねえけど、お陰で分かりやすい。
赤は"ベリー"雌、黄は"レモン"雌、緑色は"メロン"雌、紫色は"カシス"雄。
「え? なんで皆んな果物の名前に?」
4匹のラプトル達の名前がなんで果物なんだろうと美羽は不可思議そうに聞いた。
確かに俺も何でだ? って思った。
「なんでって、そりゃ果物の名前にしてでも面白いし可愛いだろ?」
「いやそうだけどさ、もっと色んな名前があるじゃん。可愛いけどさ」
そこへ先輩恐竜のアリス、ヒスイ、ダリアの3匹が今回新たにファミリーの一員となった5匹の恐竜に挨拶をしているのか、軽く鳴くと5匹も軽く鳴いた。
「和也様、取り敢えず鑑定をして羊皮紙に写しておきましょうか?」
「あっ、それじゃ頼むよ」
ネイガルさんは羊皮紙を出すと、1匹ずつ鑑定を始めた。
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ゴジュラス 性別 (雄)
種族名、ティラノサウルス・レックス
Lv.56 Aランク
体力1200 魔力500
攻撃1300 防御550
耐性200 敏捷450
運70
スキル
攻撃力強化 防御力強化 嗅覚強化
ユニークスキル
暴君 闘争本能
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ある意味なんとなく分かっていたよ…、ああ分かっていたさ。
そこには思ってた通りのスキルがあった。
ベリー達の鑑定は最初の頃のアリス達とほぼ同じで、ランクはC。
一方、今のアリス達のランクはあのカズが育てているせいか既にAランクに近いB+ランク。
鑑定書を見終わったカズは何かを企んでいる様な顔で微笑んだまま黙った。
なに企んでんだコイツ。
絶対良くないことをしようとしてるぞきっと。
……まてよ。
俺はその時、脳裏にとある爬虫類が過った。
カズが飼育しているカーコンドロパイソンって蛇で、ジャングルカーペットパイソンとグリーンパイソンのハイブリッド、つまりキメラって奴だ。
するとカズがティラノサウルス・レックスのゴジュラスに何かを話しかけている。
その顔は実に悪い顔をしている。
「カズ……、お前……まさかしないよな?」
俺は不安を押し殺して一応聞いてみると、カズはニヤリと不安を煽る様な微笑みを見せた。
コイツやる気だな?!
「ダメだってカズ! それはいくらなんでも間違ってるって!」
「何言ってんだ? 俺が何をすると思っているんだ?」
「お前、とんでもない事をしようとしてるだろ」
カズは微笑んだまま何も言わない、つまりそれは肯定を意味している。
俺が何を言いたいのか察した美羽達も顔が強張り、カズを止める為に必死で説得を試みる。
だけど……。
「何を言ってんだかさっぱり分からねえな」
「待てよカズ! それはお前が好きな自然を冒涜しているのと一緒じゃねえのかよ?!」
「冒涜だと?」
「そうだろうよ。お前は自然界では絶対に無い事をしようとしてるだろ! お前、T・レックスとラプトルのハイブリットを作ろうとしてるだろ! お前の事だ、更に何かしらの生き物のDNAを使って、最凶の恐竜を作る気だろ?!」
「俺がどうやって作るって言うんだよ?」
「お前のスキル"創造"と"変換"を使えば簡単に生み出せるんじゃねえのか?」
そこまで言うと、カズは両手を上げて降参した。
「凄いな。なんで分かった?」
「答えはお前自身だよ」
「クククッ、それで分かったってか? 本当に凄いな。だがよぉ憲明、世の中にはいくらでもハイブリッドは存在している。だったらなんら不思議じゃねぇ筈だ、違うか? 俺なら制御する事が出来る、何故ならテイムすれば良いだけなんだからな。違うかよ? それにここには骸達までいるんだぜ? なんの問題があるって言うんだ?」
「そ、それはそうだけどよ」
「お前だっていざ目の前にハイブリッド恐竜が現れたらどうする? 戦って殺すか? それともテイムするか?」
うっ……。
確かに現実に多くのハイブリッドが存在してるよ。それは自然界では決してあり得ない事だけどよ。
ライオンとトラのハイブリッド。シマウマとロバのハイブリッド。カズが育てているカーコンドロパイソン。それにテイムすると言われちまうと何も言い返せねえし、出来る事なら見てみたいし自分もテイムしたいと思って、俺の心が大きく揺れ動いちまった。
「人間だってそうじゃないか。なんの問題があるって言うんだよ? あ? きちんと制御する事が出来ればなんの問題も無いだろ? 俺なら誰よりも出来る自信があるが?」
そこで人を出すな人を……。
でも確かにカズなら確実に制御するのは簡単な事だろ、なんせカズは八岐大蛇から皮を貰っちまうくらいだからな。
そこまで言われた俺達は不安を抱えつつも、納得する事にした。
この時、俺達はまだ知らない。
カズが生み出すハイブリッド恐竜が俺達にとって、と言うより俺にとって力強いパートナーになってくれる事を、まだこの時は知らなかった。
「ちょうど今、アリスが発情期に入っていてな。ゴジュラスから精子を採取し、人工的にアリスの中へ入れる。これは俺が育てているカーコンドロパイソンを生み出す技術となんら変わり無いやり方だ。そこへお前が言った様に俺の力で安定させて力を与えることで、上手くハイブリッドが生まれて来る。クククッ、簡単だろ?」
……なんか、頭にくるくれえ簡単に言ってくれるな。
本来なら難しい事を簡単な事だと言う、そんなカズがとても恐ろしく見えたし、なんかムカついた。
そしてその作業は直ぐに始まり、30分も掛からずに全ての作業を終わらせちまった……。
「アリス、お前の中に新しい命が生まれる。だから生まれてくるまでは俺の部屋で大人しくしててくれな」
<グルアッ!>
アリスは軽く鳴いて返事をした後、カズは骸専用エレベーターで新たなファミリーを地上に連れ出し、専用の入口から部屋に入る。
「好きな所でくつろいでくれお前達。今日からここがお前達の部屋でもあるんだからな」
そう言われ、ゴジュラスはギルがいる滝の方へ行くと水飲みをし、ギルに気がつくと興味深げに見ながらそこで寝そべる。
ベリー達4匹はアリス達と新たな群れとなり、なにやら色々と教えて貰っているみたいだ。
カズの部屋がジャングルから太古の森へと、一瞬で変わった瞬間だ。
あれ? そう言えば、ベリーって名前の奴が昔いたような?
部屋に戻って来た時、昔、ラプトルのベリーと同じ名前の奴がいたことを俺は少しずつ思い出していた。
今頃なにしてんだろうな、アイツ。初めて見つけた時はUMAだって騒いだけど、カズが密かに守られている種だとかなんとか言ってたな。
確かその後、これ以上はここに置いておけねえからって、どっかに連れてかれたんだっけ。
今思えば、もしかしてあのベリーはモンスターだったのか? だからここには置いておけねえってなったのか? それならテイムしちまってもよかったのに。
それにあの時、もしかしてカズは嘘を言ってたんだよな? それはあのベリーを守るためだったんだろうなぁ。
まっ、そのくらいの嘘なら騙されたままでもいいな。
「部屋をもう少し大きくしたいな、まぁ取り敢えず暫くは外へ自由に出入りさせておけば良いか」
そんなカズに色々とツッコみたい。でもどうツッコんで良いか分からねえから何も言えない。
そう考えていると、俺の横を普通にゴジュラスが地響きを立てて歩き回る。
正直、落ち着かねえし怖い。
ついに出ました暴君竜ティラノサウルス・レックス!
超有名な恐竜であり、人気の高い恐竜ですよね✨
しかも、今回はそのT・レックスとラプトル、アリスとのハイブリットを生み出す計画です!
いや~、どんな子が産まれてくるんでしょうね~✨
しかし、出てくる古代種はこんなもんじゃありませんからね? これからも続々と出てきますので、お楽しみに✨
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