第67話 夜城組傘下
俺達がカズの家、夜城邸に戻ると、ゲートの前に犬神さんが待っていた。
「お帰りなさいませ、若。組長がお待ちになっております」
「解った。この子の荷物は後で自衛隊が運んできてくれる。話してる間に持ってきたら、例の部屋に」
「かしこ参りました」
ルカちゃんはキョトンとしてるけど、犬神さんはルカちゃんの顔を見て、どこか安心したような顔で微笑んでいた。
それから俺達はカズとルカちゃんと一緒に、親父さんが待っている部屋に行くことにした。
その部屋に入るのは初めてなんだけど、どうやら組長室って感じの部屋だった。そこには親父さんと先生。他に3人の男達が座っていて、その後ろに部下の人を1人ずつ立たせていた。
「お帰りなさい若。話しは伺ってますよ」
そう挨拶するのは、眼鏡をかけたどこか優しそうで、普通にヤクザとは思えない感じの人だ。
名前は"吉敷傑"って名前の人らしく、歳は56歳。
"鮫島組"ってところの組長らしい。
「おつかれさんです若」
"新山鳳仙"、41歳。
坊主頭で顔のあちこちに傷跡があり、かなり強面な顔をしている。
しかも親父さんみたいにガタイが良い。
この人は"黒鶴組"の組長。
「若、お嬢、おかえんなさい」
"柴田右京"、49歳。
こいつは俺でも知ってる有名人だ。髭を生やし、両方の耳に何個もピアスを付けている。
この柴田って奴は"狂犬"と呼ばれ、多くの不良連中や半グレですら怖がって近づきもしない、"蛇埜目組"ってところの組長だ。
「3人とも来てたのか」
いや来てたのかって普通に言うけどよ、まさかあの柴田もお前んとのこ傘下だったのかよ?!
俺は普通に驚いた。
他の2人は組の名前を聞いたことはあっても、会ったことは無い。
でも、柴田には俺が不良連中と喧嘩してる時に会ったことがある。親父さんやカズのほうがめちゃくちゃ怖いけど、この柴田は狂犬って呼ばれてるくらい、狂ったように暴れるんだ。
「若、蛇埜目組は何時でも動けます。必要とあらば何時でも言ってください。俺達で奴らを……」
そう柴田が言うと、カズがいきなりその柴田の頭を叩いた。
「おい、その前にお前なにしてんだ、あ゛? 話しは一応俺の耳にも入ってんだぞ?」
な、なにしてんのお前?! それになんの話しだよ?!
すると叩かれた柴田は頭を抑え、顔に青筋が浮かぶとピクピクしていた。
ヤッベ! 怒ったんじゃねえか?!
そう思っていたら。
「申し訳ありません若!」
……え?
柴田がその場で土下座して、カズに謝った。
「俺は若の為と思い黙って動きました! 本当に申し訳ありません!」
え? なにしたの?
聞けば、どうやら柴田はカズの為にとある土地を買ったらしい。
俺はな~んだ、土地を買ったからか~、それなら別に怒らなくても良いんじゃね? と思ったのは一瞬で、買った土地ってのがまさかの。
「なんで島を買っちまったんだよ! 別に俺は島なんかいらねえーって言ったろうが!」
……はい? 島?
「だって若! アイツらをどっかの島で暮らしてもらうのも良いなって、前にウチに来た時に言ってたじゃありませんか!」
……いつ柴田の事務所に行ってたのお前?
「でも結局ウチの下にはゲートがあるし! それを通って向こうに行ったらいくらでも土地はあるからどっか買おうって俺は言ったぞ!」
「しかし若! なかなか向こうに行くことが出来ない俺達のことも考えてくださいよ!」
「なんでテメェらのこと考えて島に暮らさせるんだよ?! それにその島にどうやって連れていかせりゃいいんだよ?!」
そこはあれじゃね? お前の得意な"創造"や"変換"の力で転移魔法を作っちまえばいいんじゃね?
カズなら出来そうなんだが?
「しかーし!! そこは若の力で転移魔法を作ってしまえば済む話しなのではないんですか?! おんどりゃーー!!」
あっ、同じこと考えてる。
「やろうと思えば出来るけどよ!」
あっ、できちゃうんですね。
「だからってなんで島買うんだよ! そんな金どこにあったんだよ?! 誰が出したんだよ?!」
「俺達で出しました!」
おいおいめちゃくちゃだな……。
まっ、要するに柴田とその手下達は、カズのパートナーである骸やアリス達とふれあえる場所を作りたいってことだろ?
狂犬って呼ばれてるわりには可愛いとこあんだな。
「勿論! その為にその島を改造するため! 組員全員で金をかき集める所存です!」
マジかよこの人。
つーか、そんな金をどうやって作ったんだ?
「お前ら、そんな金どうやって作ったんだ? あ? 返答次第によっちゃテメェら」
「決してやましい金じゃありませんよ! 骸が来てからってもの、俺達はこっそりその為に貯金してきたんですから!」
あら可愛い。
流石のカズもそれを言われちゃ何にも言えねえみたいだ。
親父さん達は口を抑えて必死で笑うのをこらえてるし。こりゃ前からそれを知ってたな?
「お、お前ら、いったいどんだけの金を使ったんだよ?」
「大したことじゃありません。ざっと数億つかったぐらいです」
数億も使ったってこの人。つぅか、それでどんだけの島を買ったんだ?
「その島は今じゃ無人島ですし、船を使えばざっと2時間はかかりますが、決して狭い島ってことでもありません。それに今、男のロマンとも言える恐竜、ヴェロキラプトルのアリス達もいるじゃありませんか。確かに向こうの世界に行けばのびのびと出来るでしょうが、果たしてそれでアリス達が平和に暮らせるでしょうか? 向こうはなにかと戦いばかり多い世界です。だったらこっちで平和に、のんびりと出来て広い場所を作ってやってもいいじゃありませんか」
「うっ……」
うんうん、確かにバトルばっかだよな。
それにアリスとか、恐竜の繁殖とかどうせカズのことだから狙ってる筈だ。それなら安全な場所を作ってやるのも手だよなと、俺も思う。
「うっ……、くっ……」
もうお前がどう言ったって負けは見えてるぜ?
そう思ってるのは俺だけじゃないらしく、美羽達も親父さん達みたいに笑いそうになるのをこらえている。
ルカちゃんはちょっと、まだ理解出来ないって顔をしてるけどな。
「くはは……、もう限界だ、お前の負けだカズ。ここは素直に右京達に甘えて島を受け取ったらどうだ?」
親父さんは笑いながら甘えろって言うけど、あのカズがそう素直に貰うかな?
「……う、受け取れるわけねえだろ」
ほらやっぱり。
「アイツらの為に使うんじゃなく、お前らで別荘でもなんでも作って、たまぁにそこで休暇でもなんでもとりゃ良いじゃねえか」
「……でしたら若」
そこで柴田はある提案をカズに言った。
それは、その島に柴田の部下を交代で行かせ、骸やアリス達とかの為に管理をするって話しだ。
そこまで言われちゃカズも頷くしかなく、断れなくなっていた。ましてやあの親父さんですら認めてんだし、それはそれで良いんじゃねえの? って感じだ。
肝心のカズは暫く唸ったあと、ようやく折れて島を貰うことにした。
カズの部屋はデカイし広い、でも島と比べるならやっぱ出来るだけそっちのほうが良いと俺も思う。
「……島はありがたく受け取る。だが、骸達がその島で暮らしたいかはアイツら次第だ。でも今、他に恐竜がいればなんとか捕獲してもらえるように頼んである。だからその時は種を存続させるために、その島で繁殖をしてもらおうと思う。その時は管理を頼む」
「それで構いません! これで長年の夢が叶うってもんです!」
どうやら柴田は恐竜が大好きらしく、カズのパートナー、骸やアリス達の世話をしたいみたいだった。
だったら最初からヤクザにならないで、動物園かペットショップで働けよ。
でも、それを言うのは野暮ってもんだ。
それからカズは改めてルカちゃんを紹介してから、俺達を連れて一度部屋に戻ることにした。
恐竜が大好きだからって皆で協力し合い、島を買ってしまうってのはなんか可愛らしいですよね。
さて、夜城組組長である守行も、着々と戦争の準備を進めているようです。
それでは次回もお楽しみに♪
いいね、感想、⭐、ブックマーク、お待ちしております!!