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『終焉を告げる常闇の歌』  作者: Yassie
第2章 哀しみ
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第63話 追想


 会議室を出てしばらく探すと、カズが街を1人で歩き回り、ふと立ち止まっては色々な店を外から眺めているのを見つけた。

 お洒落なカフェ、洋服を売っている店、色々だ。

 そして冒険者ギルドの前に行ったりもした。

 最後に、カズはとある宿屋へ行くと、その宿屋の一室に入った。


 この部屋、もしかしてニアちゃんが使っていた部屋か?


 ここまでカズの後を追ってきたはいいものの、どう声をかけたらいいか解らなかった。

 それでも俺は静かにドアを開けると、そこには荷物が置いたままの状態になっている。

 カズは部屋の窓を開けてベッドの上に座り込み、ハート型のネックレスを出して1人……、泣いていた……。


 此処に来るまで足を運んだ場所はきっと、ニアちゃんとの思い出がある場所だったんだろうな……。


「ここ、ニアちゃんの部屋か?」


 俺がそう聞くと、カズは「あぁ」と答えた。


「ニアはなんで俺なんかを好きになったんだろうな?」


「さぁな……」


 俺にはわかんねえよ。でも、男の俺が言えるとしたら、お前が優しいからだろ?


 俺はそこにあった椅子に座り、カズの話を聞く事にした。


「最初出会った時、俺は別にニアとそこまで仲良くなるつもりは無かったんだ……」


「……そっか」


「俺は最初、アイツに同情しただけでよ。裸にされたアイツに服とか色々と買い揃えてやって、暫くの間アイツの面倒をただ見てやっただけなんだ」


「優しいな」


 お前は昔からそうだよ。何かあれば必ず俺達を助けてくれたし、皆の為にって色々と良くしてくれる。

 ほんと、そこは変わらねえなお前。だから俺達はお前が好きなんだけどな。


「服を破られた時の男への恐怖は、(しばら)くしてから幾らか落ち着きを見せた。だから最初、俺が近づくだけでもアイツは酷く怯えた」


「まぁそうなるよな」


「アイツの為に食事も俺が作って用意した。身の回りの世話をしてやったんだ。だから最初はなんて面倒臭い事を俺はしてんだと思ったりもした」


「そうかぁ、でもお前はそれでもしてやったんだな」


「あぁ……」


「お前は本当にいい奴だよ、カズ……」


「ふっ……、そうか?」


「ああそうさ」


 そしたらカズはまた涙を流す。でもそこに、俺の言葉にカズが少しだけ微笑み始めてくれていた。


「カズ、続きを聞かせてくれるか?」


「……あぁ。アイツは最初、(しばら)くの間は何も飲まず食わずだった。俺が何を作ろうが、アイツは俺に向かって折角作った飯をぶち撒けやがったんだぜ? 考えられるか? 飯をだぞ? だから最初はブチ切れそうになったけどよ、俺は我慢して出し続けた」


「そ、そんな事があったのか……」


 なんてこった! まさかカズが作った飯をだと?! 

 ……それでもよくキレるのを我慢することが出来たなお前……。


「だけどよぉ、よっぽど腹が減ったんだろうな。最終的に俺が作ったカレーを食い始めてよ、2杯3杯とお代わりし始めたんだ」


「いや分かる。お前のカレー美味いもん」


「ははっ……。そっからだな、アイツが少しずつ俺に心を許し始めたのは。男の俺に怯えていた顔が段々と笑顔を見せる様になったんだ。特に何かを話すとかそんな事はしていねえんだけどよ。おはよう、おやすみ、またね。そう言う言葉が日に日に多くなって行った」


「良かったな」


「次第にアイツが俺に色々と話す様になったのは1週間が過ぎた辺りだった。その(かん)、俺はアイツの元パーティを探し出し、アイツの前に引き()り出した。それは前にも話したよな?」


「あぁ、聴いたな」


「アイツがようやく外に出る様になってからは、(しばら)く俺と行動を共にした。俺が依頼を引き受けた仕事をしに何処其処(どこそこ)へ行くって言うと、アイツは1人にしないでと言ってついて来たんだ。よっぽど1人になるのが嫌だったんだろうな」


「それはお前だからじゃないのか?」


「そうか? まあそんなこんなでアイツと行動を共にしていたんだ。俺が学校に行かなきゃならない時は、アイツはその間、俺の部屋にずっといた。側には骸が一緒にいたからな、アイツは俺に「行ってらっしゃい」って言って送り出してくれた」


 そうかぁ……、あの骸もカズがいない時は側にいたのか。


「関係を持ち始めたのはアイツと出会って2週間目の日だ。討伐依頼で一緒に出掛けている日の夜、アイツは俺のテントに入って来て「一緒に寝たい」って言うんだ。俺は別に良いかと思って了承したんだが、アイツは顔を赤く染めて俺の顔をジッと見ていた」


 な、成る程……。


「……良く見たら可愛いと思ったよ、アイツの頬に手を伸ばしたらアイツは俺の手に頬を(さす)ったりして来たんだ。それで俺はアイツにキスをしたよ。アイツも嫌じゃ無さそうだった。そっから一瞬だったな」


「んじゃあの子から誘って来た感じでもあるのか」


 なかなか積極的じゃねえか。


「まぁそうかな……。それからは街で何度もデートみたいな事をした。カフェに行きたいと言えば一緒に行った。買い物したいと言えば一緒に買い物した。気がついた時には俺の近くに何時もアイツがいた」


「でも付き合ってる訳じゃなかった」


「あぁ、その通りだ。だがアイツは俺が不機嫌な時とかでも何時も側に居てくれていた。……アイツは、ニアは何時も俺を支えていてくれていた……」


 コイツが本気になる理由が解った気がするな。


「俺が他に関係を持ってる女がいてでも、ニアは嫌な顔をしないで何時も笑顔でいてくれた。俺はそんなニアに甘えていたんだ……」


「そうか……」


 甘え過ぎるくれえだよまったくよ。


「そんな関係がずっと続いた。これから先もずっと続くと俺は思っていた……。俺には心から好きな女がいると言ってでも、ニアはそれでも側に居させてくれと俺に言ってきたんだ。……正直……、嬉しかった……」


 ……ニアちゃんはそれだけカズの事が好きだったってことか。


 そこでカズは懐から1枚の写真を俺に見せてくれた。

 その写真にはカズと、満面の笑顔で写るニアちゃんの姿があった。


「可愛く写っているな」


「あぁ……、本当に可愛く写ってる。ニアと撮った写真はその1枚だけしか無い。もっと沢山写真を撮るんだった……」


「でもとっても幸せそうな顔だ」


 写真を見ただけでもよくそれが分かるくらい、本当に幸せそうな顔をしているからな。


「本当に幸せだったんだろうか……。俺と出会わなければ、アイツはもっと幸せになっていたんじゃないのかって思うんだ」


「お前らしくもないこと言うなよ。あの子は十分幸せだった筈だぜ?」


 幸せを感じてなきゃ、どんな事があってもお前から離れたりしなかった筈だ。

 だから彼女はずっとお前の側にいたんじゃねえか。


「だと良いんだけどな……」


 そこでカズは(ふところ)からタバコを出し、火をつけた。


「アイツ、このブラックデビルの匂いが好きだと言っていたんだ。このタバコ独特の甘ったるい匂いがよ……。どこに俺がいようと、このタバコの匂いがすればニアは直ぐに駆け寄って来た。このタバコを吸っているのは俺だけだ。だからこの匂いがするだけで俺がいると分かって、安心出来るんだとよ」


「確かに甘ったるい匂いだ。でもニアちゃんの気持ちが良く分かる」


「はっ……」


 カズは軽く笑い、タバコが吸い終わるまで黙った。

 俺も微笑んだまま、じっと黙ってカズが口をまた開くのを待ち続けた。


「俺はアイツの頼みを断った事が無い。お前達を連れて魔導書(グリモワール)を買いに行った時、ニアが何を言っていたか覚えてるか?」


「まぁ、一応は」


「また抱いてくれって言ってもよ。俺はニアと、それまでどれだけ抱き合ったと思ってんだか……」


「あの子にしてみれば、お前にどれだけ抱かれても足りなかったんじゃねえの?」


「そうか? そうだと嬉しいんだけどな……。それにあの時、ニアに新しい仲間が出来て良かったと思ったんだ。それだけアイツの心が治ったんだとな。でも今思えばあの時にあのパーティから脱退させるべきだったんじゃないかとも思うんだ」


「なんでだ?」


「そうすればアイツが今回の事に巻き込まれなかったかも知れないだろ?」


 あぁ……。


「でもそれは考えすぎだろ。それにあの時はこうなると誰も思っていなかったんだ」


「まあ……な。アイツには、1人だけ妹がいる事は知っていたか?」


「妹? いや、初耳だな」


「ニアには両親がもう居ねえんだ。だからニアが毎回仕送りしててよ」


「そうだったのか……」


「確か妹はまだ8歳だった筈だ」


「8歳って……。どこか頼れる親戚の家にいんのかよ?」


 「いや……、確かその子1人で暮らしているって聴いたな……。でも周りの人達が妹の面倒を見てくれたりしているらしい」


「ニアの事はもう?」


「いや、まだ誰も伝えに行っていない」


 そうか……、それを伝える奴にとっても、それを聞く妹もかなりキツイ想いをするだろうな……。


「辛いな……」


「あぁ……」


 死んだ事を誰かが伝えなければならないと、そう考えるだけでまた空気が重くなっていく……。


「俺が伝えに行こうと思う……」


「……良いのかよ?」


「ニアと親しかったのは俺だし、そのニアは俺に惚れていてくれたんだ。ましてやアイツにトドメを刺したのはこの俺だ。だから、責任は最後まで果たさねえとな……」


 ……なんでお前だけがそんな辛い想いをしなきゃなんねえんだよ。


「よかったら俺も一緒に行くぞ?」


「……ふん、んじゃ頼む」


「おう、頼まれた」


 伝えなければならない事で空気が重くなりかけていたが、俺の言葉にはりつめようとしていた空気が軽くなり、カズがほんの少しだけ、微笑んでくれた。


「そろそろ行くか」


 暫くした後、カズはそう言ってさっきよりも微笑んでいる。

 それはカズの心がほんの少しだけ晴れたからなんだろ。


「もう良いのか?」


「あぁ、なんだか少しだけスッキリした様な気がする」


 そう言って今度は俺に笑顔を見せてくれた。


「そうか、なら良いんだ」


 俺はその笑顔を見て少し安心し、同じく笑顔になれた。


 その後、カズはニアが泊まっていた部屋の荷物を片付けると、宿屋の主人に「ニアが世話になった」と言って、金を幾らか渡してその場を後にした。



さて、今回は追想ということで、和也がニアときちんとお別れしなければならないために、ニアが泊まっていた宿屋での話しになりました。

それでも晴れることはないでしょうが、これで和也は一応は区切りをつけれたのではないでしょうか?

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