第62話 怒れる会議
帰り道の中、俺はふと、どうしてカズが来たのかを考えていると。森の暗闇の中から何かが接近してくる気配を感じた俺達は、モンスターだと思って警戒しようとした。
「大丈夫だ」
カズがそう言うと、確かにヴェロキラプトルのアリス達が警戒していない。
いったい何が来ているんだろうと思っていると、現れたのは数人の武装した自衛隊員達だった。
「状況報告」
カズがそう聞くと、1人の自衛隊員がカズの右隣に並んで報告をする。
「現在逃走した軍人達は帝国方面に向かってる最中だそうです」
「了解。迎えはどうなってる?」
「既にジープを数台待機させております」
「分かった」
話はそこで終わり、自衛隊員はカズから少し離れると、他の隊員同様に周りを警戒しながら前へ進む。
「カズ、なんでこの人達もいるんだ?」
俺の質問に、カズは申し訳なさそうな顔で話してくれた。
「実を言うと、Bの事が一部の人間にバレてたんだ。それでBを監視していたからいる訳だ。まっ、そのお陰で俺はお前らがどんな状況にあったのか直ぐに報告が来たから来られたんだけどな」
成る程、そうだったのか。
つまり、ここにいる自衛隊員達は俺達の恩人達でもある訳だ。
「まぁ、監視していても、俺とBには直ぐにバレてはいたけどな」
そう言われ、自衛隊員達は苦笑いを浮かべていた。
「でもどうやって来たんだ? 街からここまで近いと言ってもかなりの距離だぞ」
するとカズは夜空に向かって指を指す。
そこには戦闘ヘリが3機飛び回っていた。
あぁ……、成る程ぉ……、戦闘ヘリですかぁ……。
カズが戦闘ヘリをタクシー代わりに使ってやって来た事を、俺達は悟った。
きっとアリス達はその戦闘ヘリに落ちない様、必死にしがみ付いていたんだろうなと、その時の状況が目に浮かんじまう……。
「でも憲明、本当にありがとな」
「ん?」
カズにそう言われ、俺は何のことだと思った。
「お前がニアにトドメを刺さないでくれたおかげで、俺はニアをこの手で送り出す事が出来た。アイツの最後を、ちゃんと見れてよかった」
「……おぉ」
トドメを刺さなかったと言うより、刺せなかったんだ……。
「本当に感謝しているよ、憲明」
俺はそこでまた泣きそうになった。
カズはきっと、もっと苦しい筈なのに……。
「取り敢えず帰ったらゆっくりと休んでくれ」
「……あぁ」
俺は返事をすることしか出来なかった。
そして山を降りた辺りに数台のジープが停車していて、俺達はそのジープに乗って街へと帰還。
翌日の朝には会議があるから全員参加してくれとカズに頼まれ、その日の夜は泣き疲れた事もあって直ぐに寝た。
……翌日。
9:00
その会議室にはカズだけじゃ無く、カズの親父さんと側近の先生も同席。
自衛隊からは稲垣陸将と他に部下の人達が数名。
ギルド支部長のウルガさん、ネイガル商会のネイガルさん、他には多くの貴族達が集まっていた。
「さて。詳しい内容を聞かせてくれるか?」
親父さんにそう言われ、俺達は一部始終を説明した。
いったい何があったのか説明を聞いた人達の顔は、余りの非道さに怒りを抑えられない様に見える。
特に。最後にカズがニアちゃんを楽にしたと聞いた時、皆は怒りと同時に涙を流した。
先生は「辛かったね」と言い、カズを後ろから抱きしめて泣く。
この場にいる誰もが、ニアちゃんがどれだけカズを慕い、愛していたかを知っているみたいだ。
だからこそ、それだけ許せなかったんだろ。
そこでカズは黙って懐からある物を出した。それはヘカトンケイルになって死んでいった人達の形見でもある、ネックレスやブレスレットだ。
会議室には沈黙が訪れ、重い空気が肩に伸し掛かる。
「帝国のクソッタレメエェェ!!」
いきなりウルガさんはテーブルに突っ伏して叫んだ。
「これ以上奴らを好きにさせる訳にはいきませんぞ!!」
「そうだとも!!」
他の貴族の人達も怒りで叫び、帝国と戦争することに、なんら躊躇していないと言い始めた。
親父さんと稲垣陸将はその言葉に、黙ってその場の声に耳を傾けている。
でも……、その2人の怒気は他の人達よりも凄まじかったってのは伝わってくる。
「どうする? 守行」
稲垣陸将が横に座る親父さんに尋ねる。
「……逆にお前はどうするつもりだ?」
そこで2人が一旦黙った後。
「「全面戦争だ!!」」
2人の声は重なり、会議室をその怒気で支配する。
余りの物凄さに、他の人達は一瞬、萎縮したが、2人が何を言ったのかを理解した途端、会議室に雄叫びが響いた。
「上に報告しておいてくれ。これより、我々は王都バルメイア。通称、帝国と交戦状態に入ると」
稲垣陸将の言葉を聞いた部下の1人が敬礼し、会議室から出て行く。
「集められるだけの組員を集めろ。奴らに俺達を敵に回した事を後悔させてやるぞ」
親父さんがそう言うと、先生は「はい組長」と言って会議室から出て行く。
「夜城組と自衛隊が帝国と戦争すると隣国、ラーティムとレオンネルに通達してくれ! 俺達も掻き集められるだけの人員で奴らを討つ!」
「ならば我々の駐屯地に行って連絡すると早いでしょう。一緒に行ってあげて」
ウルガさんも一緒に連れて来ていたギルド職員に言うと、稲垣陸将は駐屯地から連絡すれば早いと言って、もう1人の部下の人と共にギルド職員は急いで会議室を出て行った。
「では、私も動くとしましょう。私のパートナー、"サルドアム"をこの街に呼び戻します、良いですね?」
ネイガルさんが稲垣陸将にそう聞くと、稲垣陸将は頷いた。
「ふふふっ。久しぶりに暴れさせてあげるとしましょうか」
いったい何を連れてくるつもりだこの人……。
俺がそう思った理由は、俺達の背筋が凍りつく程の狂気に満ちた顔をして会議室を出て行っちまったからだ。
カズは会議が始まってからずっと黙ったままで。そのカズが会議室から出ようとした時、部屋に背広のスーツを着たとある男性が中に入って来た。
その人の顔を見たカズは驚き、自衛隊員はその場で敬礼をした。
「なんでわざわざ来たんだ?」
でも親父さんはその人に対してぶっきらぼうな態度だ。
「まぁ良いじゃないか守行。話が早くて済みそうじゃないか」
稲垣陸将は笑顔だ。
俺達はと言うと、普通に驚いていた。なんせその人は、ここにいて良い様な人物じゃねえからだ。
何度もニュース番組とかで見た顔の人が、そこに立っていたからだ。
カズも流石に驚きながらも、どうしてその人物がここに来たのかを尋ねた。
「何しに来たんです? 龍巳官房長官?」
龍巳官房長官こと、"龍巳真"。
それは俺達も知る、あの桜ちゃんの親父さんだ。
なんでまたこんな人がここにいんだよ?!
「事情を聴いて来たんだよ、和也君」
カズの問いに答えると、目線を親父さんと稲垣陸将に向ける。
「話はそこで聴かせてもらった。それにこんな事になると思って、既に総理には僕の方から説明してあるよ。この街は言わば日本の領土。そして此処に暮らす多くの人々は種族の垣根を超えた我々の民。そんな民を非道な事で傷つけた事は決して許されない事だからね……。これより、総理から承った言葉を君達に申し渡す。帝国を撃滅せよ! 我が国の民を苦しめる者に裁きの鉄槌を下せ! 以上! って事で、総理からお墨付きの言葉を頂いて来たよ」
マジか……、総理ってあの総理だろ? その総理がよく戦争することに賛成したなおい……。
そしてその言葉に、親父さんと稲垣陸将の2人は、凶悪な笑みを見せ始めた。
「まったく、君達はいくつになっても血の気が多いな」
長官はそう言って困った顔だ。
そんな中、カズは黙って会議室からいなくなっていた。
アイツ……。
とりあえずここを美羽達に頼み、俺はカズの後を追う。
憲明達から報告を聞いて、ゼオルクの会議室内は怒りと悲しみに包まれる。
よき友であり仲間達を殺され、そしてニアがバルメイアによってその命が奪われたから。
そしてそこへ龍巳官房長官が、総理大臣から撃滅しろといった言伝てを持って現れたことで、バルメイアとの全面戦争がこれから始まる。
ってなことになりました。
さて今回はここまで、また次回も宜しくお願い申し上げます!!
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