第5話 MIYA 2
『そうですねぇ……。まぁ正直その人は全然気づいてくれていませんねぇ……。周りから物凄くモテますし。でも鈍感なんですよ、物凄く。暇さえあればフラフラと何処かに行ってしまいますし。態度が悪ければ口も悪い。だからたまぁに会うと喧嘩になったりもします』
MIYAは最初、ちょっと怒った言い方をしていたが、しだいにその口調は柔らかくなり、頬を赤く染めながら嬉しそうな表情へと変わる。
『でも……、なにかあったりしたら、気づいたら側にいてくれてるんです。「どうした?」、とか、「疲れてないか?」、「お前には俺達がついてるだろ」、って私の頭に手を乗せながら言ってくれたりするんです。普段はぶっきらぼうで、本当に何を考えてるか分からないですけど。だから凄く優しい人なんです。本当は』
MIYAは笑顔で答える。
その答えにMCと、それを見ていた女子高生や恋に敏感な女性達は気づいた。
MIYAは、先程話題に出たヤクザの息子が好きなんだと。
『その恋が成就すると良いですね』
『はい……』
『それにしてでも衝撃的なデビューを果たしましたあの曲、"KIZU"、ですが、"KIZU"はどの様にして産まれたのか御聞きてしても宜しいですか?』
『はい。"KIZU"は私のこの首の傷から産まれた曲になります』
そう言ってMIYAはおもむろに、首に手を当てる。
首というより喉に、そこにはくっきりと斜めに大きな傷跡が残っていた。
『実は私、幼少の頃、崖から落ちて死にかけた事があるんです。』
『崖から?!』
女性MCは驚愕した顔になった。
『父が登山好きで、昔から良く連れて行ってもらっていたんです。ですが山の天気は変わりやすいものですから、雨が降り出してしまい、それで足を滑らせてしまったんです』
『そんなことが……』
『でもその時、一緒に来ていた友人が落ちる私を庇う為に一緒に落ちてしまったんです。ですが落ちる時に木にぶつかってしまい、その時に木の枝か破片で切ってしまったんです。私は落ちた時の衝撃で気絶してしまっていたんですけど、その時一緒に落ちた友人が私を助けてくれたんです』
『え? どのようにですか?』
『傷がかなり深かった為に出血が酷く。慌てた友人は鞄の中に入れていたタオルで、私の首を軽く締めたんだそうです。その後は私をおんぶすると、ロープでキツく縛って固定して、必死に崖をよじ登ったんだそうです。お陰で友人の爪は全部剥がれ落ち、手はボロボロの傷だらけ……。私はその友人のお陰でなんとか出血多量で死ぬ事なく、生還する事が出来たんです……』
『壮絶な過去があったんですね……』
『そうですね……。それで私はその時に、一度声を失ったんです』
『えっ?! 声をですか?!』
女性MCはまたしても驚愕した顔で驚いた。
『はい』
『では、どのようにしてまた声を取り戻したんですか?』
『その時の友人が私を助けてくれたんです……。大丈夫、僕がいるからって』
『話を聴いてもしやと思いましたけど、その時の友人は男の子だったんですね?』
『はい、そうなんです。それで彼は私が声を取り戻す為にと、色々と考えてくれて。最終的には曲を作り始めてくれたんです』
『えっ?! まさか?!』
『はい、お察しの通りです』
『ええぇぇ……!』
まさかの衝撃エピソードに、女性MCだけで無く、番組を見ている視聴者全員が驚いた。
『だから私……、正直彼には頭が上がらないんですよね、アハハ……』
そう言ってMIYAは苦笑いを浮かべる。
『もうヒーローじゃないですか!』
まさにその通りだ。
『ホントにそうですね。しかもその時、彼は手だけボロボロになっていただけじゃなく、肋骨とか何箇所か折ったりヒビが入っていたそうなんです』
『いやぁぁぁ……、それにしてでも正直信じられませんね……。幼少期の頃ですよね?』
『まぁ信じられないのは無理も無い話ではあるんですけどね。でも不思議と彼は昔から何でもしちゃう所があるですよ。だからさっき言いましたけど。見た目とは裏腹に凄く優しいんです』
『いや、それは惚れてしまうのも無理ないですよねぇ』
『えぇまぁそうなんですよねぇ、えへへ……』
その時、MIYAは自分が何を言ったのか気づき、慌てふためき始めた。
MCもその慌てた顔を見て。やっぱりまだ10代の女の子らしいと感じ、微笑む。
番組を見ていた視聴者もそう感じたに違いない。
『それで、その出来事を曲にしたんですか?』
『は、はい、そうなんです』
MIYAは一旦 軽く深呼吸し。少しテレた様子で説明を再開した。
『私にとってこの傷跡は……、決して忘れてはいけない思い出でもあるんです……。私の不注意が原因ではあるんですけど。私が歌を歌うのが好きになった理由でもあるんです。傷とその時のショックで声を失ってしまった私に、彼がいたからこそ、私は声を取り戻す事が出来ました……。その恩は返したくても返しきれない程です。この傷のお陰で私達の間にはより、深い絆が出来たと言ってもいい位です。彼は私の為に色んな歌を作ってくれました……。そんなある日、いつも行ってる喫茶店で歌っていたら、そこに音楽業界の方がたまたま来ていてスカウトされたんです。だからデビュー曲は絶対この傷の思い出を歌った曲が良いと思い、彼に相談したんです』
『成る程、それで出来たのが』
『はい、"KIZU"なんです』
MCは微笑みながら何度も頷いた。
『いやぁしかし凄いですねぇ。その友人の方が居なかったらと思うと、こうして私はMIYAさんとお話出来なかったでしょうし、何より私達はMIYAさんの歌声やダンスを聴いたり見たりする事は出来なかったと思います。そう思うと私達にとってもその友人の方は恩人と言ってもいいですね』
『そう言ってもらえるとなんだか嬉しいです』
『うんうん。そしてその"KIZU"はデビューしてから1年以上になりますが、今も尚ファンの方々に愛される曲になり。支持されるんですね』
『ファンの方々には本当に感謝してます』
『うんうん。さて、それでは最後になってしまうんですが。新曲の"To remember love"はどの様な歌なのか。どういった思いが詰まっているのか、教えて頂けますか?』
そこで、MIYAの新曲"To remember love"がBGMとして流れ始めた。
『はい。この新曲は先程も出て来ました、私の友人が作ってくれました楽曲です。"To remember love"。つまり、「愛を思い出に」っと言うタイトル通りの想いが込められています。他の誰よりも好きで好きでたまらない……、でも、これ以上その想いに応える事が出来ない。だから突き放したい。歌詞の終わり辺りで彼女の本当の想いが込められてるんですが、「もう時間が無いよ、だから早く私を忘れて、時よお願い、あの人が私を忘れてくれるその時までまって、あぁでも本当は寂しいよ、寂しいけどお別れしないといけない、そろそろ眠くなって来たから寝るね? 私はこの思い出を胸に抱いて眠りにつこう、おやすみなさい、さようなら、To remember love」、これはそのまんまの想いになってると思うんです。彼女は病気、または事故か何かの理由で別れたかった。そしてその時間が残されていない。だからこその想い。そして最後の歌詞、「おやすみなさい、さようなら、To remember love」この3つの言葉に、全ての想いを乗せた言葉になってると思います。この歌は正に悲哀。それでも力強く歌うのは、相手に悟らせたく無いって言う想いがあるからかと』
『なるほど。でも最後のそのフレーズだけは優しい口調でしたよね? それにミュージックビデオの最後でも最初から降っていた雨が急に止みましたよね? あれはどう言う?』
『そうですね、やはり最後には彼女の想いが伝わったから安心したって言う心境だからでしょうか。雨もその最後のフレーズに連動してる感じです。雨は言わば彼女の心の涙。では何故最後には止んだのか? それは先程説明した最後のフレーズの想い同様だからかと』
『うわぁ、なかなか深い感情ですね』
『私もそう思います』
『私としては安心して眠りについたと思って、また何度でも見たいです。では、どうやらでここでお時間が来てしまったようです。MIYAさん、本日は当番組に来て頂き本当にありがとうございました!』
『ありがとうございました』
御礼を口に述べ、その場から立ち上がると手を振りながらMIYAは画面の外へと消える。
世の男達にとっては正に悪夢の様な時間があったが、そんな相手に敵うわけがないと思い、それでも応援しようと心に誓った。
そして、それを最後まで見ていた女子高生3人組は。
「うわあ、MIYAが惚れるのも分かるぅ、メッチャ羨ましい……、つーかやっぱ可愛い」
「PV見てるとカッコいい! ってなるけど、こうして見るとやっぱ可愛いよねぇ、恋が叶うといいね」
「家とかそんなの関係無いもんね? 好きになった方の負けにはなるけど、これからも応援しようよ!」
そう言って、スクリーンの下にいた先程の女子高生3人組の話は盛り上がる。
そんな彼女達のすぐ後ろを、帽子を深く被り、サングラスを掛けた1人の女性が静かに通り過ぎた。
「ん? ねぇ、今の人……、なんだかMIYAに似てなかった?」
「え? どれどれ?」
「いや居るはずないじゃん、MIYAはさっきまでスタジオにいたんだよ?」
「あっ、それもそっか」
「ねぇ、それよりさ! これから何処行く?!」
「ケーキ食べたい!」
「いいね! んじゃどこのお店行こっか?!」
そんな話をしている彼女達を尻目に、先程の女性はスタスタと何処かへ向かって歩いて行く。
その女性が向かった先は喫茶店。
一戸建て木造住宅を改装し、外からの景観を良くしている。店内はクラシック音楽が流れ、至る所にエアープランツや色々な観葉植物、色んな彩りの花が置かれている。その奥にはグランドピアノが置いてあり、横には何故か何も置いていない空きスペースが少しある。
喫茶店の名は、"喫茶 Silver line"。
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