第57話 ガイア
で、でかい……。
その周りにはクレッセント・ビーが何匹も飛び回っている。
「やあ。今晩は"ガイア"」
体長約17メートル。その姿はまるで恐竜ティラノサウルスに似ている。でも口は若干短く、腕も大きい二足歩行型。
上顎の1番奥の牙がまるでアフリカゾウみたいだけど、そこまで大きくはないが他より段違いに大きな牙が外に向かって伸びている。
背中には羽が退化したものが残っているのか、2対の大きな背ビレがあり。尻尾はアルマジロトカゲの様にトゲトゲとしている。
全身はワニの様な甲殻や鱗で覆われていたのだろうけど。今じゃ頭から尻尾の先までビッシリと緑色の苔や草、ツタとかで覆われていて、下顎や腹部位しか苔とかが無い。
目つきは悪いが凶暴そうには全然見えない。
<グオッ>
それが、"エンシェント・フォレスト・ドラゴン"の"ガイア"との、初めての出会いだった。
「へえぇ、本当に生き残りがいたんだ」
Bはガイアを見て軽く驚いていて、どうやらガイアを知ってるみたいだった。
「名前を聴いてまさかとは思ったけど。ちゃんと生き残りがいてくれてボクは嬉しいよ」
本当に嬉しそうに微笑んでいた。
「良かったね、あの和也さんにテイムしてもらって。きっと此処には他にも絶滅したと思っていたモンスターがいるんじゃないかい?」
Bがガイアに直接そう聴くと。ガイアは頭をもたげて山脈の方へと視線を向ける。
「そうか。やっぱり。それじゃここはある意味、聖地の様なものだね。キミの仲間もまだいるのかい?」
<グオッ>
「そっかそっか、それは本当に良かったよ」
「Bはこのドラゴンを知ってるのか?」
俺は気になってそう聞くと。
「勿論、よく知ってるよこの子達の事を。見た目は怖いけど、性格は温厚。食性は肉食だけど、必要な分しか獲物を捕らえない。しかも長生きなんだぜ? 多分、この子は恐らく400年近くは生きてるかな? それでもまだようやく大人になったってとこだけどね」
400年……。俺にしてみりゃ途方もない年月を、ガイアは生きてきたってことか。
「凄い。先輩でも年齢とか知らないのに解るなんて」
セッチは心からBの凄さに賞賛した。
「ボクを誰だと思ってるんだい? ボクは大地の王でもあるんだぜ? だからこの子達みたいなモンスターの事は大抵の事なら知ってるさ。エンシェント・フォレスト・ドラゴンと言う種族は、皆んな長寿で約千年以上は普通に生きる。本当の大人になれば、その強さはドラゴン族の中でも最上位に入る程に強くなる」
千年以上も生きるのか。
まるでエルフとか、そういった連中みたいに寿命が長いんだな。
まぁ、本当にエルフがそこまで長生きなのか聞いたことないから知らねえけど。
「キミ達で言う所の、SSランクの中でも最上位。でもこの子はまだそこまでには至っていないから、その下のSランクって所かな。この子達の種族は昔から数が少ないから絶滅していてもおかしくないと思っていたけど……。そうかぁ……、生き残っていてくれたかぁ……」
<グオッ、グオオゥ、グウゥゥ。グアオオゥ、グアアゥ>
「そんなにまだ仲間が暮らしているのかぁ。これから先もキミ達が末永く繁栄する事を祈るとしよう……」
Bが右手を出すと、ガイアはBの前に平伏し、ガイアの頭に手を置いて祈りの言葉を捧げた。
「キミ達竜族の王にして神であらせられるアルガドゥクス様の御導きがあらん事を。これから先もアルガドゥクス様のお導きの下、繁栄し続けられる事を此処に願う」
Bが祈りの言葉を終わらせると手をどかし、ガイアが立ち上がる。
「なあB。何を話していたのか教えてくれよ」
俺はどんな事をガイアが言っていたのか気になって聞いた。
「此処にはこの子の他に、3体のエンシェント・フォレスト・ドラゴンが静かに暮らしているんだってさ。その場所も教えてくれたよ」
……なんて嬉しそうな顔すんだよお前。
でもそりゃ嬉しいよな。
絶滅していてもおかしくない種が、此処にはまだ3体生き残っているんだからよ。
その事を聞いたセッチは驚きつつも、Bと同じくらいに喜んでいる。
「その3体が何処にいるのかは、和也さんは既に知ってるらしいよ。此処が安全な場所と知り、他の3体が最近になって人知れず此処へやって来たみたいだね」
「良かった。これでガイアは1人じゃ無くなった。仲間が生きていた。これで少しでもこの子達が絶滅する確率が減った」
「良かったね」
セッチの後ろから、美羽が両肩に手を置いて笑った。
「はい。本当に良かった」
「ちなみにその、最近来たって言う仲間もカズがテイムしてんのか?」
一樹が聴くと、Bはガイアに「どうなんだい?」と聴く。
「どうやらテイムしていない様だね。皆んなそのまま野生種だよ」
それを聴いて一樹は軽く喜んだ。
「んじゃ、いつか俺はその3匹の内、1匹をテイムする事を目指す!」
「おいズルイぞ一樹! 俺だってテイムしてえんだぞ!」
俺は笑顔で抜け駆けするなと一樹に言い、その首に腕を回して笑いあった。
「ちょっと! 私も欲しいんだけど!」
美羽は両手を腰にやって怒った言い方をするが、その顔は笑顔だ。
「いやお前にはバウがいるだろ!」
一樹は笑いながら美羽はダメと言って笑い合う。
ちなみに現在そのバウは。街で生体調査と言われて多くの学者が観察したり、色々と調べたいからと頼まれたので致し方無く美羽はバウを街に置いて来た。
カズも街にいるから安心しろって言うから、美羽はそんなカズを信用出来るから置いて来たと言うのもある。
バウはまだオオサンショウウオと呼ばれているけど。調査が終わり次第 新種として登録され。晴れて種族名をつける事が出来る。
その権利はテイムした美羽にあるので。美羽はどんな種族名が良いのか、カズと相談して決めたいと言っていた。
「バウはバウでしょっ! 私がエンシェント・フォレスト・ドラゴンをテイムする事が出来たら。多分最強ねきっと」
そう言って美羽と俺、そして一樹の3人でどっちが先にテイムするか勝負しようぜとか、色々言い合いながらも今の時間を楽しんだ。
「そうだ。一度このガイアを鑑定しても良いかな?」
美羽がセッチに聴くと。
「問題無い」
そう言って微笑んだ。
「よおし。鑑定! …………あれ? ねぇ、なんか測定不能って文字が出るんだけど」
「あぁ、やっぱり」
そこでBがニコニコとした顔で美羽の疑問に答えた。
「それはキミの鑑定能力がまだ低いって言うのもあるし。キミ自身がまだそこまでのレベルに達していないって言うのもあるかな」
つまり今の美羽でじゃ鑑定する事が出来ないってことか。
このガイアがそれだけのレベルであると言っている様なもんだ。
そんなモンスターをテイムする事が出来たカズは本当に凄いと思ったのと同時に、早く追い付きたいと思った。
「私、絶対にテイムするんだから」
美羽は美羽で、なんだかテイムすると誓いをたててるし。
「なんか、キミなら本当にしそうな気がするよ」
Bは眉毛を八の字にし、美羽の顔を見て微笑んだ。
「でしょ? ふふふ」
「せっかくガイアが来てくれた事だし。その背に乗ってみますか?」
そこでセッチがそう言うと、美羽は満面の笑顔になった。
ガイアの背中に美羽は乗せてもらい、ゆっくりとルーナファーレの花畑の周りを歩くことにした。
くそっ、俺も乗ってみたい!
……それから数十分後。
「おっ、ようやく戻って来……」
美羽とガイアが戻って来る姿を見て微笑む寸前で、ある物を目にしてしまった俺達は固まった。
「ありがとうガイア。助かったよ」
<グアゥ>
美羽とギルがガイアから降りると御礼を言い。その後にギルは触手で、とある物をガイアの背中から降ろす。
「お前、何してんだよ……」
「ん? 何って、ルプトラ・マンティスを1匹討伐して持って帰って来ただけだよ?」
なんで? みたいなことを言いたそうに、キョトンとした顔をすんなよ。
「ガイアの背中に乗ってる時。ルーナファーレの中にルプトラ・マンティスがいたからさ。ガイアに手伝って貰って討伐したの」
しかもほぼ綺麗な状態じゃねえか……。
いったいどうやったらこんな綺麗に討伐出来たのか不思議で仕方なかった。
「ギルの触手で動きを封じた後、ガイアに軽く足で押さえつけて貰って、頭が付いてる関節の隙間からナイフを刺して倒したの」
それを聴いて俺達は顔を引き攣らせるしかなかった。
「腹部の上だと花みたいな擬態が壊れると思って、胴体を踏んで貰ったから助かったよ。お陰でこんな綺麗な形で討伐出来たから本当に良かった」
「お前、なんでワザワザそんな事を?」
俺がそう質問すると。
「ん? なんかルプトラ・マンティスを見ていたら、この素材を活かした防具を作りたいなと思ってさ」
「は〜、成る程な。防具か。確かに俺達は安い防具を服の上から付けてるだけって物しか持ってないな」
その為に美羽はガイアに手伝って貰ったのか。
「ほら、帰ったらカズが私達にもお金を分けてくれるでしょ? そのお金を使って頼もうかと思ってるんだ」
ルプトラ・マンティスの素材を使ったやつか。男の俺だと似合わなそうだけど、女子だと似合いそうな物をカズなら作ってくれそうだな。
それに美羽の言ってる事は正しいかった。
これから先、どんなモンスターと戦うか分かんねえし、それ相応の準備もちゃんとしないとな。
それにいつまでもカズばかりに頼る訳にもいかねえし。これからは、自分で出来る事は自分でやらないといけねえ。
そう考えると、俺も何か自分専用の防具が欲しくなって来ていた。
「俺も欲しくなって来たな。でもどんなモンスターの素材を活かそうかなあ?」
今まで何種類かのモンスターを討伐して来た。だけどどれもピンと来ない。
カズはSランクにまで成長したディラルボアの素材を活かした装備を、自分で製作して装備している。
「そうだ。ルーナファーレも幾つか貰っても良いかな?」
美羽は何かを閃いたのか、ルーナファーレが少し欲しいとセッチに言った。
「どうぞ」
「ありがとう!」
セッチの許可を貰った美羽は、ナイフでルーナファーレの花を5個入手。
何に使うんだ?
「このルプトラ・マンティスとルーナファーレの花を使って作ってもらおっと」
なるほど、その2つをどんな風に使って作ってもらうのか、楽しみだな。
ルーナファーレもそうだけど、ルプトラ・マンティスの体の色も綺麗だし、完成した時が楽しみで仕方が無かった。
「ほう? こんな所にルーナファーレがこんなに沢山自生しているのを見るのは初めてだ」
するとそこへ聞き覚えの無い男の声が聞こえて、俺達はそっちに顔を向けた。
そこには痩せた男が立っている。
髪はロングヘアーにパーマをかけた様な髪型。口と顎には髭が生え、嘲笑っているかの様なその顔は正に絵に描いたような悪人面をしている。
と言っても、カズの親父さんや犬神さん達みたいなヤクザに比べたらまだ可愛く思えたけどな。特に、カズの方が1番ヤバい。
歳は40過ぎか? 黒い貴族風の軍服に左肩だけに黒いマントの様な布を棚引かせている。
その黒いマントにはとある国の紋章が描かれていて、それを見たセッチは敵意剥き出しの表情になり、口調を荒くして男に話しかけた。
「バルメイアがここへ何しに来た」
「ありゃりゃ、こりゃ嫌われちまったかな? まぁ良いけどよ」
男は舌舐めずりをしながら近づいて来る。
「ここから直ぐに去れ。さもないと……」
「さもないと。何だって言うんだ〜? な〜」
男はゲスな顔で嘲笑い、それでもまだこっちに歩いて来る。
「まあ取り敢えず自己紹介しとこうか。僕は王都バルメイア騎士団副団長、ジュニス。"ジュニス・ボルネウス"だ、宜しく」
そして……。
このジュニスってクソヤローが俺達の……、カズの逆鱗に触れていたことをまだこの時は誰も知らなかった……。
古代種でもある"エンシェント・フォレスト・ドラゴン"の"ガイア"が生き残っていただけでなく、更に他にも数体、生き残ってると知ってベヘモスは大変喜ぶ回になったと思います。
しかしこの後、悲劇が訪れることをまだ憲明達は知らず。それを知った時、深い哀しみに包まれます。
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