第55話 月光華
「よかった。丁度咲き誇ってる」
セッチが嬉しそうな顔でその花の元へと走り寄り。後ろにいる俺達の方へ体を向ける。
「これが。ルーナファーレ」
それはとても綺麗な花だった。
花で例えるなら確か、月下美人だったか? ルーナファーレはその花によく似ていた。
美しい見た目だけで無く、匂いも良い。爽やかな甘い香りが俺達を出迎えてくれた。
「丁度クレッセント・ビーも何匹か飛んでる」
"クレッセント・ビー"。
見た目はクマバチみたいな姿をした黒い蜂型のモンスターで、首には黄色い三日月模様があり、体を覆う黒い毛が青く発光して、確かに蛍が飛んでいる様に見える。
大きさは訳20センチと大きな蜂だ、それでも蜂型モンスターの中では小さい分類であり。性格もまだ穏やかな方だとセッチが説明をしてくれた。
「思っていたよりなんか可愛いし綺麗」
美羽は目的のモンスターを見つけることが出来て喜ぶ。
「んじゃ取り敢えず。ギル、何匹か捕まえて食べて!」
<ギウギウ>
ギルは近くに飛んでいたクレッセント・ビー3匹を、あっという間に触手で捕獲して、そのまま口に運んで丸呑み。
うん、ある意味で豪快だなおい。
「あっ、ちなみにルーナファーレの近くに。不思議な花の形をした物があったら注意 ーー」
セッチがその花を見つけたら注意するように言おうとしている中、俺は目の前にそれらしき物を見つけて指を指す。
「これか?」
「……です」
不思議だけど、白い花にうっすらとピンク色が入る綺麗な花が幾つもそこにはあった。
これはこれで綺麗な花だな。
すると、その花はいきなり動き出したかと思うと、俺を襲ってきやがった。
「"ルプトラ・マンティス"。ランクDのモンスターで、背中の羽が退化した代わりに花の様な形をした物を使って擬態。超攻撃的」
「それを早く言えよ!!」
"ルプトラ・マンティス"。
体長訳3メートル。全身真っ白な体にほのかにピンク色が入っている部分があるカマキリ型モンスター。
体には大小様々な不思議で綺麗な花の形をした物を持ち。花の部分から甘い香りを出している。きっとその匂いに誘われ、近づいて来た獲物を捕まえて食べちまうんだろ。
ハナカマキリって名前のカマキリがいるけど、それみたいだ。ハナカマキリは蘭の花に擬態し、近づいて来た獲物を捕食する為に進化したカマキリ。
一度カズが飼育していたから見たことがある。
ルプトラ・マンティスはそのハナカマキリに類似していた。
そんな俺は襲いかかってきたルプトラ・マンティスの鎌かま攻撃を、両手剣で防ぎながらセッチに文句を言った。
「言う前に近づいていた憲明先輩が悪い」
…………た、確かに……。
俺は思わず変顔になりながら、ルプトラ・マンティスの攻撃を今だに防ぐ。
突然襲われたからと言うより、セッチの言っていることが正しいが為にぐうの音も出せないのが悔しい。
しかもルプトラ・マンティスの攻撃が速いから、俺は反撃する前に防ぐ事で精一杯な状況でもある。
「クロ!」
<ガウッ!>
クロを呼び、中距離からチェーンで攻撃させる。
でも、ルプトラ・マンティスの反射神経が高いからなのか、易々とクロのチェーンを鎌で防ぎつつ、まだ俺に攻撃を続ける。
「憲明!」
そこへ一樹とヤッさんの2人が参戦。
2人は側面から隙を見て攻撃しようとするけど、ルプトラ・マンティスは2人の攻撃を易々と避ける。
「早え!」
予想以上に速い!
即座にまた攻撃を仕掛けて来るルプトラ・マンティスの攻撃を両手剣で受け流すので一杯だ。
「てやああ!」
ヤッさんが再び隙を見てハンマーで足を狙い、渾身の一撃を叩き込むが、予想外の硬さにハンマーが弾かれる。
「かった!」
「ヤッさん!」
弾かれたハンマーの重さで、ヤッさんが後ろに大きく仰け反る。
ルプトラ・マンティスはその隙を見逃さない。鋭利な鎌を横薙ぎに振るい、ヤッさんは危うく腹を引き裂かれそうになったがなんとか回避することが出来た。
「っぶねえ!」
冷や汗をかきながらその場に尻もちをつくけど、ルプトラ・マンティスの攻撃はまだ終わっちゃいねえ。鋭い鎌が大きく振り下ろされ、ヤッさんの股すれすれの地面に突き刺さった。
「ふお〜〜!!」
ヤッさんは青ざめた顔でその場から急いで後ろへ下がるが、ルプトラ・マンティスが執拗に追いかける。
<ガル!>
そこへ沙耶がデモン・スターのガルを投げ、ルプトラ・マンティスの体に叩き込んだ事で、ルプトラ・マンティスはその衝撃で吹き飛ばされた。
「助かった沙耶!」
でもルプトラ・マンティスは既に起き上がり、今にもヤッさんをまた襲おうと構えている。
「うわ〜、ガルちゃんで倒れないなんてどんだけ〜?」
しかも……、ヒビ1つ入ってねえ。あのガルをまともにくらって殆どダメージを受けてねえってどうなってんだ?!
「もう一丁〜!」
沙耶は再びガルを投げる。持ち手のリングで微妙な指示を出されたガルは、大きく弦を描く様にしてルプトラ・マンティスの頭を狙う。しかしその軌道を読まれ、ガルは火花を散らしながら鎌で薙ぎ払われた。
「なんか強くない?!」
確かに強い! 思ったよりかてえし、しかも動きが速い!
するとセッチが後ろから、その謎を教えてくれた。
「ルプトラ・マンティスはDランクの中でも上位に食い込む程の強さ。下位ランクであるコマンドウルフが群れで襲っても、平気で撃退どころか餌にしてしまう。その強さはギルより上かも」
Dランク上位種かよ。
だからって今の沙耶とガルのコンビ攻撃ですら殆ど通用しないってどれだけ差があるんだ?!
まてよ……? カノンはCランク・モンスターのユクトルセルアであり、Dランクのルプトラ・マンティスより強い。
それに話によるとカノンの防御力は高く、防御力強化のスキルを持っている。
……だったら。
そこでまだ小さいクロをカノンの背中に乗せ、カノンはそのクロが落ちない様に蔓を巻き付かせる。
「よし、頼むぜお前ら!」
<ガウッ!>
カノンは花魔法と言うスキルを持つ。それがどんなスキルなのかまだ解んねえけど。カノンは両前足を大きく上げ、力を込めて踏み付ける。
すると、足元から草花が急に成長し始め、草花は幾つもの鎖の様なツタとなってルプトラ・マンティスに巻きついて拘束。
すかさずクロのチェーンでルプトラ・マンティスを何度も攻撃を繰り返す。
俺の狙いはまず、ルプトラ・マンティスの動きを封じる事。
「ギル!」
動きを封じると、そこへ美羽がギルの名を呼んだ。そのギルは自分が何をすべきか理解し、触手による攻撃を始めた。
「トッカー!」
ヤッさんはルプトラ・マンティスの上に乗れと、トッカーに指示を出した。
でも、まだ小さいトッカーじゃ余り効果が出ない。
今のトッカーじゃルプトラ・マンティスの動きを完全に封じる事が出来ないぞヤッさん?!
「トッカー! どこか噛み付ける場所があれば噛み付くんだ!」
そうきたか!
トッカーは首を伸ばし、ルプトラ・マンティスの胸部と腹部の関節に噛み付いた。
噛み付かれた箇所からバキッと鈍い音が鳴り。関節の部分から体液が滴る。
トッカーの種族、ロックタートルの顎の力は相当強く、固い木の実を平気で割って食べているらしい。
主にサボテンやクレイクの実って言う、めちゃくちゃ固い実らしい。
ルプトラ・マンティスの甲殻は固い、けど関節は甲殻よりも柔らかい。そこにトッカーは偶然、ルプトラ・マンティスの弱点の1つに噛み付いたみたいだ。
だから流石のルプトラ・マンティスもその噛み付きでダメージを感じているのか、なんとか拘束を解いてトッカーを振り解こうともがく。
そこへ。
「ギル! 今のうちに食べちゃえ!」
美羽がギルに食べろと伝える……。
いくらなんでも、流石にデカイから食べれる訳が無いだ……ろ……。
<ギウギウ!>
ギルがルプトラ・マンティスの前まで近づくと、大口を開けて頭からゆっくりと飲み込んでいく。
「えぇ……」
当然、美羽以外の俺達全員は唖然とした。
そこで俺はあることを思い出した。
あぁそっか……、ギルって、確かスライムの遺伝子を持ってるんだっけな……、だから体をゴムみてえに伸び縮みさせることができんのか……。
「(怖すぎるんですけどお!!)」
俺達全員、そう思う他無かった。
ルプトラ・マンティスの上で噛み付いていたトッカーが、ギルが飲み混んでいるのを目にして慌ててその場から逃げる。
ゆっくりと捕食されたルプトラ・マンティスが、ギルの体の中でもがき苦しんでいるのが透けて見える……。
そして、そのうち動きが鈍くなって絶命した……。
「さっすがギル!」
さすがじゃねえよ……。
美羽は喜んでギルの体にしがみ付き、その頭を「いい子いい子」と言いながら撫でる。
「えっ、俺達の頑張りはなんだったんだ?」
一樹が唖然とした顔で口許をひきつらせている……。
分かる。分かるぞその気持ち……。
確かにそれは無いだろうと思うけど、致し方無い。
なんせギルはタイラント・ワームの変異種であり。あのカズが更に力を与えたモンスターだ。
美羽はそんなギルの力を活かしているに過ぎない。
「でもルプトラ・マンティスを倒した証拠が無いから。ギルドに報告してもお金が貰えない」
「「あっ……」」
今度はセッチの言葉に、俺達は死んだ魚の目になった……。
「……あ」
美羽もそんな俺達に遅れて反応。
せっかく倒しても金にならない事に気が付くと、膝から崩れ落ちて地面に伏した。
無事、ルーナファーレが自生する場所にたどり着いた憲明達は、そこで目的の"クレッセント・ビー"を発見。しかし、そこには"擬態"能力を駆使して襲いかかってくる捕食者、"ルプトラ・マンティス"も生息していたんですね~。
さて、今回は如何だったでしょうか?
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