第49話 新たな友人
俺はずっと気になっていた事があった。
「あの方あの方って言うけどよ。いい加減そのあの方って誰なのか教えてくれねえか?」
俺の質問に、ベヘモスは「それもそうだね」と言って、ようやくその名を聞くことが出来た。
「ボク達凶星十三星座の絶対的な王にして神。数多の神々を食い殺す事が出来る絶対的力を持つドラゴン。それが……」
ー "絶竜王・アルガドゥクス" ー
「ありとあらゆる"絶"を冠するあの方は"冥竜王"と呼ばれ、あらゆるドラゴンや爬虫類達の王であり神。そして、キミ達人間や他の種族、神々にとって最大の天敵。それがボク達が崇拝するお方の名前だよ!」
ベヘモスが顔を紅葉させ、満面の笑みになる。
「なぁベヘモス。やっぱりそのアルガドゥクスってドラゴンが復活したら、俺達は敵同士になるのか?」
俺は知りたかった。美羽達はその事で暗い顔になり、ベヘモスを見つめると。
「なんで?」
ベヘモスは不思議そうに、キョトンとした顔で首をかしげた。
「な、なんでってお前。そいつは世界を支配するかなんかして、敵になるんだろ?」
さすがに俺達は驚いた。
相手はベヘモス達が崇拝する、絶対的強者であり神様だ。
ベヘモスの仲間はたった1人で世界を敵に回せるだけの力を持っている。って事は、そんな凶星十三星座をまとめる事が出来るアルガドゥクスはそれ以上の、桁違いの力を持ってるってことだろ?
「確かにそう思うのは当然だよね。けど、今のあの方はきっとそんな事を望んでいないとボクは思うんだ」
俺達はその時、初めてベヘモスの優しそうな顔を見た。
とても優しく、穏やかな笑顔。
世界の敵の1人なのに、俺達はこの時、ベヘモスと戦いたく無いと本気で思った。
でもそんなベヘモスは少し寂しそうな雰囲気になると、話を続けた。
「言った筈だよ? あの方は本当はとても優しい方だってさ。神に創造されたボク達を、あの方は助け、その手を差し伸べて下さった唯一のお方。そんなあの方だからこそ、ボク達はあの方の力になりたいと願い、力を授かった。あの方は本当は世界を支配しようとか、破壊しようとは考えていない。ただ、世界を取り戻したかったんだ。まっ、キミ達に言っても分からないだろうけどね」
確かに……、残念なことに俺には解んねぇ……。
それでも、そんな俺達が唯一解ったことがあった。
アルガドゥクスは本当に優しいから、世界の敵の1人とされるてるベヘモスがそこまで優しい顔を見せてくれるんだと。
だから。
「俺、そのアルガドゥクスとは敵になりなりたく無いな。出来ることなら仲良くしたい。勿論、ベヘモス、お前とも」
俺はこれでもかって位の笑顔でベヘモスにそう伝えた。
俺だけじゃねえ。美羽や一樹、沙耶にヤッさんも一緒だった。
だから美羽達は俺の言葉に微笑みながら頷いてくれた。
「キミたち……」
世界の敵? だからなんだよ。いろんな連中から相当憎まれていようが理由なんざ知ったことかよ。今目の前にいるベヘモスが本当にそこまで悪いなんて、俺達には思えねえ。
ベヘモスとはそこまで長い付き合いじゃねえよ。それでも俺達はベヘモスに特訓をしてもらったり、モンスターの討伐クエストとかに付き合ってもらったり、そこまで悪い存在だとは到底思えなくなってんだよ。
ベヘモスは優しかった。お嬢ちゃんと呼んだり、幼いと言うと時折物凄い殺気を出して怒る。それに、人間や神とかの存在に対して酷い憎しみを持っているのは、さすがの俺でも気づいてるさ。
初めて会った時、ベヘモスの酷い憎しみを俺は感じ取った。それなのに今は何故か優しい。
暇潰しに俺達を強くしてから、遊び相手にしようと言ってた奴なのにだ。
本来はとても優しい奴なんだって、触れ合ってるうちに思えるようになった。
だから俺は敵対ではなく、お互い仲良くできねえかって考えるようになっていた。
「キミ達は優しいね。こんなボクだけじゃなく、あの方の事も受け入れようとするんだから。でももし、ボク達がまた世界の敵になったらどうするんだい? ボクはあの方の為ならまた人間や神々の敵になるんだぜ?」
「その時は俺達はきっとお前達を止める為に敵対するかも知れない。だってそうだろ? 俺達はもうダチなんだからよ。ダチがダチの為に止めないでどうするよ?」
俺はそう言って右手をベヘモスに差し出した。
「ダチ?」
ベヘモスはダチって意味を知らねえのか。
それに、どうして俺が右手を出しているのかも解ってもいない。すると。
「友人、友達。って意味だよベヘモス。これからもっと仲良くしようぜって意味でそいつは手を伸ばしてるんだ」
一樹が笑顔でそう教えた。
ん、まったくその通りだ。
ベヘモスは衝撃を受けたみたいに固まった。
ん? 迷惑……、だったか?
そしたらベヘモスの目から涙が零れ落ちた。
「なんだよ、そんなに嬉しかったのかよ? ベヘモス」
俺はわざと意地悪そうな顔で微笑んだ。
「ホント、キミ達は馬鹿だな……。こんなボクを友人だと思っているなんて」
馬鹿と言われても、俺達は笑顔のままだ。
だってよ、ベヘモスが涙を流しながら微笑んでいるんだぜ?
んで、ベヘモスがようやく右手を前に出したから、俺はその手を掴んで握手した。
「改めて宜しくな、俺達の友達、ベヘモス」
「ふっ……、分かったよ、ボクの友達たち」
固い握手を結び、俺達はお互い笑い合った。
「ところでベヘモス。俺達もお前の事をBって呼んでも良いか?」
「ん? 別に良いけど。どうしてだい?」
「だって他の人の前で、普通にベヘモスって呼んだら、やっぱ嫌だろ? だからBって呼んだ方がまだ自然な気がしてよ」
その通りだと思ってくれたのか、俺達にBと呼ぶ事を了承してくれた。
「さてと。これからどうする? まだ時間あるし、まだモンスターを討伐しにでも行くか?」
時間はまだまだ余裕がある。
そこで美羽がさっき、セッチが言ってたギルに与えてみたい物があるから出掛けようと言う言葉を思い出し。これから行かないかと俺達に聞いてきた。
「別に構いませんよ? ここからちょっと行った場所です」
セッチが少し恥ずかしそうな顔をしながら、行くことに同意した。
ん、俺も別に構わない。行ったらなんか面白いことがあるような予感がするからな。
……それから数時間後。
その場所はさっきまで俺達がいた場所から南へ行った所で。標高500メートル程の小さい山々があり、その山の向こう側が目的地みたいだった。
更にその先は、まるで北アルプスの様な雄大な景色が広がっているらしく、遠くからでもそれが解る。
そして今、俺達が登っているのはその手前にある山だった。
「そこには珍しいモンスターが生息しています」
「珍しいモンスター?」
セッチの話を聞いた美羽は、どんな珍しいモンスターなのか聞いた。
珍しいモンスターかぁ、ここで新たにテイム出来そうなモンスターと出会えたら最高だな。
「ハチ型モンスター。"クレッセント・ビー"」
「うわぁ、ハチかぁ」
ハチのモンスターと聞いて美羽が嫌そうな顔をする。
でもハチだろ? 刺されるのは嫌だけど、別に俺はそこまで嫌じゃねえな。
「やっぱ怖そうだよねぇ。刺されたら痛いだろうし」
「安心。毒はそこまで強く無い」
「んじゃ刺されても死ぬ事は無いってことなんだ」
すると美羽は少し安心した顔になった。
そこで俺は、そのハチ型モンスターがどう珍しいのか、セッチに聞くと。
「滅多に見かけない。ランクはD。コロニー自体が小さい。主に花の蜜や木の実、果物等が主食で大人しい。だから、そのモンスターの蜂蜜は絶品」
絶品……、だと?!
セッチの目がキランと光り。俺達は本当はその蜂蜜が目当てなのではと思った。
「特に。クレッセント・ビーは、珍しい花の花粉を集める。花の名前、"ルーナファーレ"。"月の希望"と呼ばれてる。とても美しい、白い花。あの先輩が欲しがってる花。でも、育てる事が大変難しい」
セッチはもしかして、カズの為にその花を入手したいって考えてんのかな?
「その花は、夜にしか咲かない幻の花。花を見つけるだけでも凄い事になる」
なんですと?!
「夜、花は月の光を浴びて育ち。そして開花すると。淡く、輝く。先輩が一度。自生している場所に連れて行ってくれた。綺麗だった。その日、ちょうど花が咲いていたから。そして。今がその時期」
ほほぉ、そりゃ楽しみでなりませんな。
「いったいどんな花なんだろ。見てみたいな」
美羽はその花がどんな花なのか気になっている。
でも、あのカズが育ててみたいと思わせる様な花だ、きっとスッゲー綺麗な花なんだろうな。
「クレッセント・ビーは夜行性。だから今日はここにテントを張る。もう少し行けば頂上。頂上を超え、更に向こうには北アルプスの様な山々が広がる」
うん、それはここに来る前にも聞いた。
「とりあえず後で観に行こうぜ」
でも、俺はセッチの話を聞いて、益々その雄大で美しい景色を見に行きたくなった。
皆んな俺に賛成してくれて、早速ベースキャンプの設置に取り掛かる。
「ちなみにカズに黙って来たけどよ。大丈夫なのか?」
カズに黙ってここまで来ているの、なんだか心配になってきたな……。
「問題無い。どこに行こうと。任されてる」
セッチは無表情のまま親指を立て。俺の心配を取り払ってくれた。
「そっか、なら問題ねえな。よし、やるぞ!」
俺は気合を入れ、美羽達の手伝いに集中する。
世界の敵の1人、ベヘモスと友情を交わす憲明達。
それは良いことなのか悪いことなのか解りませんが、少なくとも憲明達はベヘモスと友人になれてよかったと思ってることでしょう。
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