第48話 冒険の再開
7月23日 10:30
その日、俺達は異世界にいた。
「クロ頼む!」
<ガウッ!>
俺はバーゲストのクロにサポートしてもらいながら、どうにかモンスターを倒す。
倒したのは"ウッドエント"と呼ばれる木の様なモンスターで、ランクはE。
木の枝みたいな腕を触手の様にして攻撃してきて。俺はその攻撃を剣で防ぎながらパートナーであるクロに援護をしてもらい、なんとか倒す事が出来ていた。
「ふぅ、やったなクロ!」
<ガウッ!>
クロの頭を撫でて褒めると、どうやらクロは自分が役に立てた事に喜んでるのか、尻尾をブンブンと振り回す。
「うん、今のはそれなりに良かったよ。でもそれなりだ。もっとお互いのコンビネーションを考えて動いた方が良いね」
そう言って俺とクロを褒めてくれるのはベヘモスだ。
ベヘモスはにこやかな顔で軽く拍手していた。
なんか最近、スッゲー機嫌がいよな。
「サンキューな、ベヘモス」
それでもベヘモスに誉められた感じがして、俺はなんか嬉しかったから、笑顔でお礼を言った。
「ギル! 触手攻撃!」
<ギウ>
美羽は特殊ワームの幼体、ギルと共にある程度攻撃した後、ギルにトドメをささせる。
理由は早くギルを強くさせ、進化させる為だ。
それ以外に美羽は、色々な食事をギルに与えている。
一樹はヤッさんと2人で連携。そこにロックタートルのトッカーがサポートしている。
一樹はヒットアンドアウェイで攻撃して、隙を見てヤッさんがハンマーでウッドエントを攻撃するのと同時に、反対側からトッカーの体当たりで挟み撃ち。動けなくした後に一樹がトドメをさしている。
「結構息ピッタリじゃないか? ヤッさんとトッカーのコンビネーション」
「え? そう? なんか嬉しいな。ねっ、トッカー」
ヤッさんにそう言われ、トッカーは微笑んでる様な顔で2度ほど頭を上下に揺らしている。
「俺のダークスは今のところちゃんと食事をさせてやんないと、大きくならないから、まだ戦闘には参加させられないしな。だから早く大きくなれよ? ダークス」
ブラックスコルピオのダークスは一樹の言葉に返事をしているのか、2つのハサミを開けたり閉じたりしながら体を動かす。
「ガルちゃんいっけ〜!」
<ガアッ!>
沙耶はデモン・スターのガルを上手く使い、ウッドエントを粉砕。
……でもガルってさ、一種のモーニングスターって武器だよな?
「沙耶の奴、上手く操れるようになったよなぁ」
でもガルの操りぶりを見ていた俺は、正直上手く操ってて凄いと思った。
沙耶はただ真っ直ぐガルを投げるんじゃ無く、魔力を使って操作している。
沙耶はアーチェリーで的を射抜く時、物凄い集中力を使う。だからこそ。投げられると前に進む事しか出来ないガルを、右へ行けや左に曲がってモンスターを粉砕しろと、細かく指示を出して攻撃する事が出来るんだろ。
指示を出す時、沙耶は持ち手のリングに魔力を込める時に、微妙な魔力量で微調整をしているって言っていた。
それは集中力がある沙耶でしか出来ない事だ。
ガルは沙耶にとって最高の武器であり、パートナーとも呼べる存在になっていた。
その頃、カーバンクルのピノはおやつのドングリを頬張っていたりする。
ピノ、ちゃんと仕事しようぜ?
そこにカズの姿が無い。
代わりに別の奴が俺達を見守ってくれている。
「上々」
セッチこと、刹那だ。
「刹那ちゃんのアドバイス通り、上手くいったねギル」
美羽はセッチに、効率良くギルを育てるにはどうすれば良いのかを聞いていた。
ギルは通常のタイラント・ワームの幼体よりも強い、それは俺でも分かる。しかも多彩な技を持っている。
そこでセッチは美羽に、素早い動きで翻弄しながら確実に攻撃をして。ギルの得意な攻撃でトドメをささせるやり方はどうかと話した。
そうして倒したウッドエントの剥ぎ取り等を必ずする様にとも話す。
「あと。素材を回収しつつ、魔石も必ず回収する事。手に入れた魔石は自分で使うか、その子に使うかはアナタ次第です。または売ってお金にするもよし」
「うん、了解」
美羽は剥ぎ取りをしつつ魔性石を回収し、直ぐにギルに使った。
「ギルは先輩の魔力を訳与えられています。魔石を与える事でギルはより魔力量が増え。身体の強化にも繋がります。そしてそれはギルが持つスキル、"進化"に反応。食事。戦闘経験。あらゆるものに反応しますが、魔石程効果的な物は無いかと」
フムフム、食事に戦闘経験か。もしかしたら俺のクロもそれで進化してりして?
「まぁ、美羽先輩は上手くギルを育てていますし。この分だと蛹になるのも早いかも知れませんね。それでもギルがどの程度成長したら蛹になるのか分かりません。それと美羽先輩はギルに食事を与える時、色々な昆虫型モンスターの素材もあげてますよね? もしかしたらその食事も良い意味で、ギルの進化に大きく影響を与えてるかも知れません。そうだ、ギルに与えてみたい物があるので今度私と出掛けませんか?」
セッチが珍しくそこまで説明をしてくれる事に、俺達全員が唖然として無言になっちまった。
いやむしろ、なんか普段と違って普通に喋れてるじゃん。
「……ど……どうしました? 美羽先輩?」
美羽も黙ったまま唖然とした顔で動かなくなったから、セッチが心配そうな顔で見ている。
「……う」
「う?」
「嬉しいい!」
「っ?!」
急に美羽は明るい顔になって喜び、セッチに抱きついた。
だってよ、何時も無愛想な表情だけじゃなく、マジで基本的に話をしてくれないんだぜ?
ナッチこと七海の人格だと良く喋ってくれるし、話をしてもきちんと会話をしてくれる。
その一方でセッチは喋りはするけど、余りにも口数が少ない。
だからそんなセッチが珍しく長く説明をして、自分が思った事を口にしてくれることを、美羽にとって心の底から久し振りに嬉しいと感じたに違いない。
俺だってなんか嬉しいもん。
まぁ、セッチは困惑した顔でされるがままに固まってるけど…。
「うわあ! もう! めっちゃ嬉しい! 七海ちゃんは昔からよく話したり遊んだりするけど。刹那ちゃんがそんな普通に話をしてくれるのって何気に初めてでめっちゃ嬉しい! しかもお出かけ?! 行く行く! 勿論だよ!」
えぇぇ……。
美羽のその反応に、さすがの俺達も逆に困惑する……。嬉しいのは分かるけど、そこまでテンション高くすんなよ。
「そ、それはその……」
「ん? なになに?!」
セッチが顔を赤くしながらそっぽを向いて何かを説明しようとするけど、美羽にとってその反応も新鮮で嬉しかったみたいだ。
「そ、その。私は、人と話をするのが、その……、う、上手く、無いので……その……」
そこで俺達は気づいた。
セッチが無表情で無愛想な顔をする。しかも言葉が少ない理由……。
はっ! もしかして!
「も、もしかして刹那ちゃんって……。コミュ症?!」
セッチの顔が更に赤くなる。
成る程、それで合点がいったぜ!
「もおぅ可愛すぎい! 七海ちゃんも可愛いけど刹那ちゃんも可愛いい!」
美羽が更に喜んでセッチを抱きしめる。
意外な事が発覚し、俺達も驚いたけど、満面の笑顔をセッチに向けた。
セッチはただ口数が少ない性格なんかじゃなく、コミュ症だから恥ずかしくて上手く話せないだけだった。
「コミュ症ってなんだい?」
ただ1人、コミュ症がなんなのかさっぱり解っていないベヘモスが、首をかしげて尋ねた。
その質問に一樹がベヘモスに教える。
すると。
「あぁ、それじゃもしかしたらレヴィ姉様もそうなのかな?」
「レヴィ姉様?」
俺はそれが誰の事なのか分からず、首を傾げた。
セッチはそれが誰なのか気づいてた感じだ。
そんな俺を見てか、ベヘモスは親切にそれが誰なのかを教えてくれた。
「レヴィ姉様はボクのお姉様の1人だよ。名前は"レヴィアタン"。または"リヴァイアサン"。その純粋な力だけなら凶星十三星座の中でも一二を争う程の強さを誇るんだ」
「ゾディアック? そういや前にも聞いたなぁ……」
「あはは。忘れてしまっているならそれで構わないよ」
ベヘモスは明るい笑顔で言ってくれるが、別に忘れた訳じゃねえんだ。
その事になんだかセッチは違和感を感じてるようにも見える。
前にベヘモスは、もう少しで姉妹が目覚めると言っていた。同時に、生き残った凶星十三星座達も目を覚ますって。
つまり、世界で最も恐れられる連中が再び目を覚ますってことは、それは世界の終焉がやって来ると言っているのと同じだ。ベヘモスはそれが嬉しいから笑顔なのかなんなのか分かんねえ。
「アナタは言っていた。もう時期凶星十三星座が目覚めると。だから聴きたい。生き残っているのは、誰?」
セッチは真面目な顔でベヘモスに聞いた。
ベヘモスは少し悩んだ顔を見せるけど。やっぱり機嫌が良いのか、親切に教えてくれた。
「そうだね。君達になら教えても問題無いだろうし」
それは俺達に話しても、なんら支障が無いって言う意味なのか?
「まずボク達姉妹を教えようかな。1番上から。ルシス。ベルゼ。レヴィ。そしてこのボク、B。アスティ。ベール。マーの7人」
「ちょっと待って欲しい。それは名前? それとも愛称? どっち?」
セッチの言う通り、その名前が正しいのか解んねえから、きちんと話してほしかった。
「ゴメンゴメン。つい愛称で言っちゃったよ。あはは」
ベヘモスは舌を出して申し訳なさそうな顔をすると、軽く笑う。
「んじゃちゃんと名前で言うね。"ルシファー"。"ベルゼブブ"。"レヴィアタン"。このボク、ベヘモス。"アスモデウス"。"ベルフェゴール"。"マモン"。ボク達は7人で1つ。他にナンバーを持っているのは。"ヴィシャス"。"ダークスター"。"ダゴン"。"バラン"。そしてあの方の兄妹にして最強のナンバーズ。"パンドラ"。そして、"ゼスト"。ひとりひとりの力は絶大。たった1人で国を滅ぼせるどころか世界を、世界中を相手にする事ぐらい、平気でやれるよ」
世界中を相手に出来る。
それを聞いて鳥肌が立った。
でも、セッチが気になる事を言った。
「だけど。そんな凶星十三星座が前の大戦で半数を失っている」
それにベヘモスは苦笑いをするしか無かった。
「あ、あはは。確かにキミの言う通り、半数を失ってしまったね。皆ひとりひとりが魔王や邪神と謳われていたのに。ほんと情けないよね」
ベヘモスは溜息をついて肩を落とした。でも、ベヘモスの話はまだ終わっちゃいなかった。
「まあ致し方無いと言えば致し方無い。それだけ必死に足掻いて、抵抗されたんだからね。それに……、まさかあの方があの方を裏切り。あの方と敵対していなければ神々を滅ぼして仲間を失う事は無かったのに……」
暗く、悲しそうな顔でベヘモスはそう話す。
憲明達が異世界にいるってことは、どうにかチャンスを手にしたってことですね。
そして、そこでベヘモスは凶星十三星座のメンバーについて語る。
次回の話で、憲明はベヘモスの話を聞いてどう思うのでしょうか。
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