第43話 学園最高峰VS学園最凶<美羽side>
奇しくも2人はこの学園で最も人気がある者同士。
学園でこの2人が仲良くしている所は誰も見た事が無い。けど、そこまで仲が悪いとは誰も思ってもいない。
だからこの2人が喧嘩をするとは誰も予想がつかなかった……。
周りの生徒達は固唾を飲んでそんな2人を見守る事しか出来ない。
本来なら誰もが桜ちゃんを止めるだろうけど。今は誰も桜ちゃんを止められる様な雰囲気じゃない事を、目と肌で感じ取っている。
カズは猫背の姿勢になり。両肩の力を抜いてダラリと下げ、左足を半歩前に出し、右足の膝を少し曲げる。そして両手を少し広げると、指に力を込め始めて桜ちゃんを下から睨む様な姿勢になる。
桜ちゃんは両手の指をピンと伸ばし。体を完全に右横に向け、左手の肘を少し折って掌を上にする。右手は心臓の前。左足の爪先をカズに向け、少しだけ膝を折る。右足はピンと真っ直ぐにして、まるで何かの拳法の様な型を作った。
いったいどれだけ睨み合ったかなんて分からない。だけどその間、不思議と誰も一言も喋らなかった。
そして、その時はやって来た。
上空にカラスが通過する際に鳴いて、それが始まりの合図になった。
「シャァッ！」
カズは歯を噛み締めて息を吐く際、まるで蛇か猫が威嚇する様な独特な言い方で、桜ちゃんに向かって勢い良く走り出す。
「フンッ！」
桜ちゃんは前に出る事は無かった。ただカズが左手を下斜めから降り上げてくる際、桜ちゃんはカズの左手を遠心力の力で回りながら交わし、そのまま左手の手刀でカズの首を狙う。
「ちっ！」
でもカズはその時、腰を左へ回し、左肘で桜ちゃんの手刀を弾き返した。
桜ちゃんは次の行動に移り、カズがそうすると思ってたからなのか、右回転をしながら右足による回し蹴りでカズの腹を狙う。だけどカズもそれは読んでいたみたいで、桜ちゃんの蹴りを右手で掴もうと既に待ち構えていた。
危険を察知したのか、桜ちゃんは右足を折ってなんとか捕まらずに回避。そして後ろにジャンプし、カズから距離を置いた。
カズに捕まったら一貫のお終いだから。
それは桜ちゃんもよく理解しているからこそ、捕まらないようにしている。
カズはその見た目とは裏腹に、その握力は正に化け物クラス。両手ともに軽く200オーバーで、本気になったらゴリラ並みの500オーバー。
かすっただけでダメージは免れない……。
でもカズはそれだけの握力があるのに、器用に手加減する事が出来るから、細かい作業なんかを平気でやってしまう。
いったい何をどうしたらそこまで化け物じみた握力を手にする事が出来るのか、桜ちゃんには理解出来ないだろうなぁ。
そんなカズがゆらりと動いた瞬間、何時の間にか桜ちゃんの懐に入り、真下から凶悪な左手を顔目掛けて伸ばす。
でもそこで桜ちゃんはその腕をどうにか両手で掴んで、カズの顎に右足による膝蹴りがクリーンヒットし、カズを後方へ蹴り飛ばした。
危なかった。
きっと桜ちゃんは、そう思ったと思えるくらいに冷や汗を流している。
だけどカズは背中から倒れる寸前で右足を上へと蹴り上げたかと思うと、そのまま回転して足から着地した。
ほんと、器用だなぁ。
「はあぁぁぁぁ……」
カズは息を吐きながら桜ちゃんを睨む。
すると着ていた黒いファーの付いた黒いジャケットを脱ぎ、それを沙耶に放り投げた。
「うわっと？！」
いきなり投げつけられたから沙耶はビックリしていたけど、なんとか落とす事なくキャッチ。
そしてカズの雰囲気が変わる。
姿勢は最初と一緒。でもカズから放たれる殺気が異常で、周りにいる多くの生徒達の中から突然、吐き気を感じたり、倦怠感に襲われている生徒達が現れ始めた。
ヤバイ……、カズ、本気を出し始めてる！
私はカズが本気になりつつある事に気がつき、表情を曇らせた。
桜ちゃんは冷や汗をかきながらも少し微笑んで。
「行くよ……。カッちゃん！」
負けじと素早い動きでカズの懐に飛び込むと、左足による足払いでカズの体制を崩そうとした。でもカズはそれをジャンプして交わす。
それが桜ちゃんの狙いでもあった。
足払いした勢いから更に回転し、今度はジャンプしているカズの足を狙って右足による裏回し蹴りを叩き込む。
「なっ？！」
カズが驚きながらそのままの勢いで回転。カズの頭が下に来た瞬間、桜ちゃんは後ろ向きの状態からの、"逆サマーソルトキック"をカズの顎に叩き込み。カズは脳天から地面に堕とされた。
「ガッ？！」
その衝撃にさすがのカズは白目を剥く。
だけど、それでまだ終わりじゃ無い。
桜ちゃんは更に、左足でカズの顎を狙い。おもいっきり踏み付けを叩き込む。
私はその技を知ってる。
"堕龍脚"
それは足払いをした後からの、一連の流れを１つにした桜ちゃんオリジナルの技。
蹴り技かぁ。"墮龍脚"って蹴り技をどうにかアレンジして、私なりの技を作りたいな。
「……ふぅぅ」
桜ちゃんが息を吐いて落ち着こうとしている。
だけど、その程度で終わる筈なんかない。
「っ？！」
後ろに気配を感じた桜ちゃんが視線を向けると、そこには息も絶え絶えのカズが起き上がっていた。
「ま、まだだ……！」
本来、桜ちゃんの技をそこまで食らえば、誰であろうと気絶してしまう。だけど、相手はあのカズだよ？
私達は知ってる。ううん、知ってしまった。
カズを倒すことはほぼ不可能で、攻略することが極めて難しいって。
でも……、そんなカズにとって唯一の天敵が存在する。
「ゴメンね？ カッちゃん……。"蛇槍葬"」
桜ちゃんは瞬時にカズの懐に潜り込み、反時計回りに回転。右手で何かを掴む様な形にすると、カズのお腹に槍の様にして叩き込み、同時に桜ちゃんはその瞬間、右手を外側へ回す様にして思いっ切り捻った。
「ガハッ！」
カズはその一撃で吐血。そしてその時、カズのお腹を中心にして、まるで竜巻の様な槍がカズを吹き飛ばす。
それも真っ直ぐにでは無く、まるで生きた蛇の様な動きをしながら襲った。
「ぐおぉぉぉあぁぁぁぁ！！」
カズはグランドの隅にある木にぶつかると、その木がへし折れるまでその衝撃は消えなかった。
「……え？ 嘘」
余りに物凄い、衝撃的な光景に周りにいた生徒達は唖然とした顔になって、吹き飛ばされたカズへ視線を向ける。
でも、カズが起きてくる気配は無かった。
それを確信した多くの生徒達は大声で喚き騒ぎ。あのカズに勝ったと桜ちゃんを称賛した。
"蛇槍葬"。それが、桜ちゃんにとって最大の必殺技であり。
桜ちゃんこそが、カズにとって唯一の天敵……。
私はこの時、すっかり忘れてしまっていた。カズが今まで桜ちゃんに一度も勝ったことが無いことを。だって、異世界で見るカズは余りにも強いから。
簡単に人を殺す事が出来る、暴力的なまでの力をカズは持っているのに、どうしても桜ちゃんには負けてしまう。
どうして？ あれだけ強いのに、どうしてまたカズが負けるの？
私がそう思っていると、流石に疲れた桜ちゃんは何度か深呼吸した後、私の元に来た。
「どうやら、また私の勝ちだね……」
どこか悲しげな表情で微笑み、桜ちゃんは私が受け取った紙の内容を開けさせて中を確認させた。
そこに書かれている内容を目にした私は驚き、絶句した。
なんで……、なんでこうなるの……？
「せ、せんぱ ー」
「これで良いの……」
い、いいわけが無いよ……。
私の言葉を遮り。桜ちゃんは私と沙耶に「今までありがとうって伝えて」と言って、涙を零しながら帰って行った。
「そんな……」
そんなのって無いよ……！
私は俯き、桜ちゃんの想いにただ泣くことしか出来なかった。
「先輩……」
桜ちゃんが書いた内容は。
[ 私が勝ったら。他の人をちゃんと好きになってあげて下さい。私の事はもう良いから忘れて。私も他に好きな人を見つけるから。今まで苦しませてゴメンね。今までありがとう、カッちゃん。龍巳 桜 ］
私は泣きながら、もう一つの紙を出して広げて見た。それはカズが書いた内容の紙。
「はっ……あっ……」
もう……、心が砕かれそうになるくらい辛かった。
「ど……して……。なんで……、こんな事になっちゃうのよ……」
そこに、桜ちゃんに対するカズの、本当の想いがつづられていたから……。
私は大声で泣いて。ぐったりと倒れているカズの所にいって、カズの胸にその顔を埋めて更に泣き喚いた。
沙耶はどんな内容が書かれていたのか、2人が書いた内容を目にした瞬間、沙耶も大粒の涙を零し。膝を地面に付け、空を見上げながら泣き喚いた。
バトルと言っても、和也は桜から一方的にやられて負けてしまうって事になったんですが、如何だったでしょうか？
次回
和也と桜の過去を少し。2人の間になにがあったのかって事に触れます。
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